サイドストーリー 過去の炎 中編
我に返ると、敵は全て焼き払われ残されたのは私と、辺りに散らばる死体のみ。
「………………」
かつては家族だったはずの死体と目があった。
『お前が守ってくれなかったから』
当然一言たりとも彼らは語らないが、私にはそう言っているように感じた。
「…安心してくれ。私もすぐに行く」
いつの間にか背中に背負っていた姉の遺体を下ろし、姉の瞳から流れた涙を拭う。
幸い手が届く場所に短剣が落ちている。
自刃するには十分だ。
「姉さん、皆。そっちに行ったら謝るよ」
「おい待て!!止めろ!!」
そんなことを考えていると、私の後ろから男が一人走ってきた。
革鎧を着こんだ兵士と思われる人間だ。
「やめろ!放してくれ!死なせてくれ!」
男は私から刃物を奪おうとしているがもうマナが尽きていた私は自決の手段として短剣を手放さなかった。
「頼むやめてくれ!ようやく見つけた生き残りだ、絶対に死なせないぞ!」
もみ合いになるが、マナが尽きた私はただの人間の女。
当然力で男に敵う訳もない。
あっさり取られてしまった。
「なんでだ…死なせてくれよ…私に罪を償わせてくれ」
「駄目だ見過ごせない。あんたはこの村の人間か?」
「知らないだと!?ふざけるな!貴様らの仲間が私たちの村を襲ったんだろうが!!」
「俺は違う、ウッディーネの人間だ!サマラス兵がこのあたりに出没していると聞いたから来たんだ」
「なん…だと?」
よくよく見れば燃え盛る村のそこかしこに彼と同じ格好の兵士がうろついている。
ふと、私の頬を伝って涙が流れた。
「遅くなってすまない。どうか死なないでくれ。頼む…」
「……」
「行こう。俺たちに付いてきてくれ」
「…私の居場所はここだけだ」
生まれ住んだこの場所を、私は離れる気になれなかった。
「あんたを残していけば、また自決しそうだ。だから何が何でも連れて行く。行かないって言うなら…」
そう言うと、男は私の横で腰を下ろした。
「何のつもりだ?」
「俺もここに居る。あんたが付いてくるって言うまでな」
てこでも動かん、そう言いたげな表情と態度だった。
「…勝手にしろ」
男の仲間が次々と集まってくる。
私はそれに逆らって、みんながいる場所に行く。
「おい待て!焼け死にたいのか!!」
「………」
次々と熱で離れていく中、平然と突き進む私を見て、兵士達は驚きの表情を浮べている。
「あんた…一体…」
「魔術師さ、只のな」
せめて家族を埋葬しよう、その後に…
「あれから三日、飲まず食わずでよく動きますね」
「ああ、だけどな…」
村に残って家族たちを埋葬している私だったが、さすがに…
「…倒れましたね」
「連れて行こう。遺体の埋葬は代わりに頼む。半分は俺と一緒に来てくれ」
「はッ!」
「…ここは?」
疲労と空腹で気絶している間に私は見慣れない場所に運ばれていた。
石造りの粗末な小屋のような、そんな部屋だった。
私は木製のベッドに寝かされている。
「気付いたか。ここはウッディーネの貴族、ジョヴァンニ様の屋敷だ。安心してくれ」
目の前には私の自決を止めた男が座っていて、本を読んでいた。
「私の…家族は…?」
「俺の仲間が埋葬した」
「…そうか」
あまり信用してはいないが…
「おお、その娘が例の?」
ふと、部屋の中に派手な男が入ってきた。
豊かな髭を蓄えた初老の男、人好きのする笑みを浮かべている。
「ジョヴァンニ様だ。あんたも礼を…」
「…よろしく」
「お、おい…」
態度の悪い私に焦った様子でなにか言おうとしていた。
「よいよい。さて、聞きたいことが沢山あるのだ。ダリオは席を外してくれ。ああ彼女に食事を持って来てくれ」
「御意」
そう指示を出すと、私を止めた兵士…ダリオは部屋から出て行った。
「さて、お前の村だが…すまない、もっと早くに兵士を送っていれば、ああはならなかった」
「…いや、守れなかった私の責任だ」
頭の中に何度も姉の姿が浮かんでは消えていく。
「お前の村を襲ったのはサマラス兵で間違いない。あそこはサマラスとトゥールスに挟まれた地でな、トゥールスに攻め入るためにあそこを拠点にするつもりだったのだろうと思われている。あそこからなら奇襲をかけられるからな」
拠点…
私達の村が、人間どものそんな目的のために襲われたのか?
「…ッ」
「我々も戦争に参加すると決まった。必ずお前の家族の仇は討つと誓おう」
「ああ…」
「…そこでお前に聞きたいことがあるのだが、お前は炎に触れても燃えなかったと聞いている」
「ああそうだ」
真剣な顔でくだらない質問をするものだと思った。
「私の兵士が来るまでしばらく時間があったが、着いた時にはサマラス兵は全滅していて、おまけに生き残ったお前は一人で村の真ん中にいたという。一体どうやって生き残ったのだ?」
「…この力で」
そう言うと私は手のひらから小さな炎を出して見せてやった。
ただそれだけでこの男は驚いた表情を見せた。
「…お前は魔女か?」
「魔術師だ。じゃあ帰らせてもらうぞ。私の家族達の元に」
「認められん。お前は死ぬつもりだろう?」
「……」
「恨みを晴らしたくはないか?今我々は戦争状態になっている。お前なら喜んで受け入れるが」
「…いや、いい」
すでに私の村に手を出した人間どもは私が始末している、無関係な他の人間まで殺す気は無かった。
…私と同じような人間を生み出したくない。
「…まあ何にせよ、今のお前を帰すわけにはいかん。ここで休んでいけ」
「……」
そう言うと、男は部屋を出て行った。
「あの娘は本物だ、どうにか物にしたい。できるか?」
「ええ、この薬を使いましょう」
「これは?」
「鎮痛が主な使用用途ですが、依存性もある。これで薬漬けにして言う事を聞かせましょう」
「ほお、任せるぞ。うまくやれたら報酬も地位も約束してやる」
「はい、ありがとうございます」
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