第百九話
「イソガナイト…」
クラウ達を背中に乗せ、サマラスから侵攻してくる敵の所へと向かって行くミリー。
距離はさほど遠くはなく、変化した状態が長持ちしないミリーであっても十分に間に合う。
「ちょっと待て。あれは…」
「黄金の剣と馬の紋章…ヴィクトリア様です!!」
駆けるミリーの目の前に武装した兵士達が進軍していくのが見えた。
車の荷台に大砲を積んだ奇妙な兵器が大地を埋め尽くしていた。
「ヴィクトリア様!!」
「ッ!?ミリーか!?」
鎧姿で騎馬に跨るヴィクトリアの所で彼女は止まり、全員で駆け寄った。
「本の正体がわかりました!」
「その報告は後だ!まずはサマラスを黙らせる!」
ヴィクトリアの言葉に、クラウは心の中に秘めていた疑問をぶつけてみた。
「ヴィクトリア様、もしかしてサマラスがいつかこうするのを分かっていらしたんですか?」
「ああ、あそこは昔からきな臭かったから部隊は配備していた。最初は人間だけだと思ってたかを括ってたらこの様だ。悪いが協力してもらうぞ」
「勿論です」
「で、その男は?見たところただの人間じゃなさそうだが?」
ヴィクトリアはクラウの後ろで控えているエイルバーを怪訝そうな顔でみる。
「…エイルバー・マグワイヤと申します」
「マグワイヤ…つまりクラウの縁者か。それとお前の声は聞いたことがあるぞ」
「メリザンドめからお助けした時でしょう」
「あの時か」
過去にキマイラと一緒に逃げようとした時にかばいに来た魔術師。
その時の事を、ヴィクトリアは覚えていた。
「ヴィクトリア様、この男は我々帝国に巣くう犯罪組織の元締めです」
「なるほど。まあよい、今は不問とする。代わりに手を貸せ」
「…御意のままに」
「一撃は重いが…まだまだだな」
「貴方を狩るにはこの拳がふさわしい」
「ほざけ。ベルガー家の腰巾着が」
乾いた死体で埋め尽くされた戦場。
そこでキマイラ達は戦っていた。
といっても、実際に戦っているのはテュポーンのみで拳を振りかざしてギースを倒そうと迫っている。
「………………」
「甘い甘い」
「何のッ!」
「目をつぶっていても勝てる」
「………………」
二人で戦っている間、キマイラは完全に蚊帳の外。
次第に表情が曇り…
「お?」
「キマイラさん!?何を?」
「二人で盛り上がってるんじゃない。俺の敵でもあるんだ!!」
額に血管を浮べたキマイラが二人の間に入り、ギースを睨みつけながら見る見るうちに姿を変化させていく。
「化け物が…」
「キマイラさん…」
「エルの恨み、今ここで晴らす。テュポーン、あっちは任せるぞ」
「あっち?」
疑問符を浮べながら周囲に目を向ける。
サマラス方面から続々と人間が本から生み出されたキマイラを伴って侵攻してきた。
銃弾がほほを掠め、砲声が鳴り響いてくる。
「…さすがに荷が重い」
迫りくる人間とキマイラ達を見てあからさまに面倒そうな表情を浮べる。
「お前はベルガー家最強の兵器何だろう?やってみせろ」
「善処します」




