第九十九話
「おーい。調子はどうだ…ってかなり仲良くなったみたいだな」
「…あ、うぅ」
エイルバーが船倉に行ってみると、目を覚ましたミリーがベッファに馬乗りになりながら顔面を原型がなくなるほど殴っていた。
殴られさえしなければ喜ばしい状況だろうが…
「威勢がいい女は嫌いじゃないが。もう少し普通の反応は出来ないのか?」
「どんな反応をすればいいんですか?人を拉致しておいて、挙句首に爆弾までつけて…」
殴りすぎて手を自分とベッファの血で赤く染めながらミリーはエイルバーを睨みつける。
だが彼は飄々とした態度を崩さない。
「腹減ってるだろ?食事にしよう」
「…どうした?食わないのか?」
船長室、エイルバーとキマイラはそこにいた。
船倉の中とは大違いで、部屋の中には高価な調度品の数々が乱雑に置かれている。
宝箱に詰められた古い金貨、巨大な宝石の原石など…
だがミリーはそんなものに気をはらう余裕は無かった。
「毒入りでしょう?」
目の前に用意された食事。
芋と人参と玉葱、牛肉を小麦粉と牛乳で煮込んだスープ。
それと細長いパンが用意されていた。
エイルバーは何食わぬ顔で頬杖をつきながら食べ進めていたが…
「お前を殺してしまえば切り札がなくなるだろうが。安心しろよ。それにせっかく作った食事に毒なんかいれるか」
「…貴方が作ったんですか?」
「ああ、そうさ。味は保証するぞ」
ふふんと胸を張るエイルバー…
「……」
恐る恐る口をつけてみる。
「おいしい」
「だろ?よかった」
ミリーがそう言うと、彼は顔を綻ばせた。
(…子供みたい)
無邪気に喜んでいる彼を見て、そう思った。
「まあ、向こうに着いて…やることやればお前は解放してやるよ。あいつの嫁を殺す気は無いからな」
「私は嫁じゃ…」
改めて言われると気恥ずかしさがこみあげてくる。
「あいつも随分変わった。なんというか…大昔に戻ったみたいだ」
「キマイラさんと貴方は、一体どういう関係なんですか?」
「ただの友人だよ。エルが死ぬまで。一緒にいろいろ馬鹿やったもんだ」
「エル…エルフリーナ…」
「やっぱり聞いてたか。てことはギースの事も?」
「ええ、エルフリーナさんを殺し……」
言いながら、ミリーは自分の口が軽くなっていることに気が付き慌てて口をつぐんだ。
「その通りだ。で、エルが殺されたのにもかかわらずほとんど動きを見せない事に愛想をつかして袂を別った」
「…………」
「それから何年か…いや、何百年か。お互いに会うこともなくなった」
机に置かれている酒を飲みながらどこか懐かしむように、寂しそうに彼は続ける。
「だが変化が起きた。お前だ」
「…私?」
指を指され首をかしげる。
「お前があいつの側に現れてから、あいつの態度が軟化した。それに関しては、お前に感謝している」
「…………」
「だから安心してくれ、さっきも言ったが目的が達成されればお前は必ず解放する。だからまあ…それまでは暴れないでくれ」
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