第九十八話
「見えてきたぞ!あそこだ!!」
「間違いないのですか?」
飛行船で海の上を飛んでいると、一隻の船が見えてきた。
一見するとただの木造船に見えるが…
「装甲板が分厚すぎる上、甲板に対艦用の速射砲まである。現在軍用艦はこの航路を航行してはいません。それに貿易船にしては武装しているのはおかしい」
「攻撃するか」
そう言って炎の弾を作り出すエイラ。
「魔術を使わない上からの奇襲攻撃なんて想定していないでしょうから。爆弾投下が先」
「…分かった」
飛行船はゆっくりと、船の真上…より少し先に移動する。
そして…
「投下。着弾まで十、九、八…」
船体から分離したニ発の黒い鉄の塊が船目掛けて落下していく。
「七、六…ッ!?」
そこまで言った時、飛行船が投下したはずの爆弾が空中で爆発した。
爆風が飛行船を襲い、船体は大きく揺れた。
「何があった!?」
「迎撃された!エイラ追撃!!」
「最初からそうすればよかったんだ!!」
すかさずエイラは炎弾を船目掛けて何発も叩き込んだ。
どの弾も船に直撃する弾道だが…
「ッ!?」
「糞ッ!!」
これも防がれた。
突如として出現した氷の壁によって。
「エイルバー…」
「……」
悔しそうに船体を蹴るエイラ。
一方でキマイラとテュポーンの視線は船のただ一点…
甲板に向けられていた。
そこにいる一人の人間、遠く離れていてもよく見える明るい茶髪の男性。
エイルバーだ。
「手招きしてるな…舐めてるのか」
「…俺が行ってくる」
「おい待てキマイラ!」
「私もまいります」
「テュポーン!?」
二人は飛行船から飛び降り、翼を羽ばたかせ一直線に船へと向かった。
「…よおキマイラ。俺の旅の祝いで花火か?少し派手すぎるな」
甲板に降り立った二人は、涼しげな表情で佇むエイルバーと対面した。
「エイルバー様…何故」
「おおテュポーンか。久しぶりだな。まあ再開を祝う雰囲気じゃないが」
「…『本』を返してもらおう」
「それですんなり返すとでも?それにこっちには人質もいるぞ?」
「俺に縁も所縁もない人間が人質になると思ってるのか?」
「馬鹿か?ちゃんとお前に縁のある人間を連れてきたに決まってるだろうが」
エイルバーが指を鳴らすと、彼の部下、ベッファが船倉から一人の人間を担いで連れてきた。
魔術を使ったのだろうか?眠ったまま、首に鉄の首輪のつけられた赤毛の少女…
二人にはとても見覚えのある人物…
「ミリー!?」
驚愕するキマイラ。
その反応を待っていたとでも言わんばかりに、彼は続ける。
「いや、旅に出る前にお前に挨拶しておこうと思ったら嫁さんしか居なかったからな。まあ折角だからこの船に招待した」
「…その方は関係ない。解放して下さい」
「返してやってもいいが、死ぬぞ?」
「何?」
「首についている首輪が見えるか?これは爆弾だ。勝手に外すか時間がくれば爆発、お前の嫁さんの首と胴体が…ああ!これ以上むごいこと言えない!!」
大袈裟な演技をする彼に苛立つキマイラ達。
「…さてと、お前たちは家に帰れ」
「そいつは俺と同じ生き物だ。死ぬことは無い」
「いくらお前と同じ体でも、変化の途中に首を吹き飛ばされたらどうしようもないと思うが…どうする?試してみるか?」
「…俺がそいつを見捨てて突っ込んでいくとは思わないのか?」
「仮にそうなら俺は腹を括って戦わなきゃならんが…お前はエルフリーナ嬢と同じような女をもう一人作るか?目の前で助けられるかもしれない女をまた殺すか?」
「……お前」
「俺に女を殺させるな」
「…そいつに傷をつければ、お前は死ぬ」
「とっとと行きな」
悔しさを噛みしめながら、キマイラとテュポーンは飛行船に戻っていった。
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