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第九十七話

 「遅いな。俺の半分ぐらいの速さだ」


 空を飛ぶ一つの飛行船、乗っているキマイラは不満を漏らした。


 「それでも陸路を行くよりは早いですから。私たちのマナや体力も消費しませんし」


 「人間の技術の発展は良いことですが…複雑な気持ちです」


 テュポーンはというと、鉄の籠に上半身を預け、はるか彼方に見える海に目を向けている。

 ひどく残念そうな表情をしながら。


 「ところでテュポーン、目標の場所に着くまでに聞いておきたい。ギースに関して、調べは付いたのか?いつぞや心当たりがあるとか言っていたが」


 「…残念ながら、有力な手掛かりは見つかりませんでした。ですが、こんなものは見つかりました」


 「なんだ?」


 そう言いながら彼が懐から取り出したのは色褪せ朽ちかけた手帳。

 

 「…どうやらギース様の日記のようです。昔ヴォルフ家が拠点にしていた場所にありました」


 「何が書かれてたんだ?」


 「ほとんどは戦争の事を。ですが戦争が終わった後の日付から先は、エルフリーナお嬢様の事がよく書かれていました」


 「奴がエルと恋仲というのは、本当なのか?」


 キマイラはいまだにエルフリーナが信じられなかった。


 「確かです。お嬢様は何度かギース様と一緒に館から出て街へ行かれたり、仲睦まじい関係でした」


 「…そうか」


 (こいつは、俺の知らないエルを知ってるんだな…)


 横目でテュポーンを見る。

 自分ももっと彼女と一緒に居られたら…

 そう考えるが…


 「…ギース様はかつて、お嬢様の右腕とも言うべき方でした」


 「……」


 「戦争中には戦力で劣るベルガー家を支え、時にはお嬢様自身に技まで教えた」


 「テュポーン…」


 「そんな方が裏切るとは、どうしても思えない」

 

 「人間を差し向け、エルは殺された。手引きしたのは奴だ。間違いない」


 「………」


 「俺は奴を殺す。エルの仇だ」


 会話が終わり、視線を前に向けた。


 「ああそうだ。皆さん、これ…食事を食べましょう」


 「これって…これ?」


 エイラが不思議そうな目で、クラウの足元にあった木箱を開けてみた。

 中には大量の円柱型の鉄の塊が入っていた。


 「『缶詰』というものです。中に食品が入っていて開けてそのまま食べられるようになってます」


 「ほう…鉄は貴重なはずですがこういうものに仕えるようになったのですか」


 「昔は鉄は確かに貴重でしたが、今は蛮族達の国…つまりは新大陸から大量に生産して輸入してきています。お陰で安価に鉄製品が出回るようになりました」


 「で、どうやって食べるんだこれ」


 見たところ何処にも開けられるようなところなどないのだが…


 「…缶切り忘れた、これで開けてください」


 そういってクラウは短剣をテュポーンに投げた。


 「まさか突き刺すのですか?」


 「はい」


 テュポーンは恐る恐る缶詰に短剣を突き刺し、開けていく。


 「何だこれ…気持ち悪いな」


 「酷い匂いですよ。食べられるんですか?これ?」


 「大丈夫ですよ。多少味は落ちますが」


 テュポーンが缶詰の横に書かれている文字を読み上げる、中に入っていたのは牛肉の油漬け…

 なのだが…


 「なんで肉が緑色に変色してるんだ…」


 「ま、まあ食べてみましょうか」


 「…私は食事の必要が無い。遠慮しておく」


 「儂は少し興味あるのう。こっちのをもらうぞ」


 ひょいと、ドリュアスは嬉々として他の缶詰を持って行った。

 エイラは嫌悪丸出し、テュポーンは引きつった笑顔、キマイラは無表情。

 十人十色の反応だ。

 

 「死ぬ時は一緒ですよ。キマイラさん」


 「…嫌なことを言うな」


 二人は同時に、缶詰の中身を食べた。

 そして…


 「「不ッ味い!!」」


 二人はほぼ同時に食べたものをそのまま吐き出した。

 それを見てけらけら笑うドリュアスを尻目に、キマイラはクラウを吐きながら睨みつけた。


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