第九十六話
「エイラ?今まで何処に行っていた!?」
「旧大陸に行くぞ!そこにエイルバーが船で向かった!」
現れたエイラに不審そうな目を向けるキマイラ達。
彼女は蛮族達との戦争が終わってからずっと姿を消していたから。
エイルバーと協力をしていたこともある。
また裏切ったのかとキマイラは思っていた。
「キマイラさん、安心してください。エイラは私がエイルバー側に送り込んだ諜報員です」
「何?なら何故それを言わなかった?」
エイラが口を開くより早く、クラウがそう言った。
「…必要ないと思っていましたから」
「お前、自分一人でエイルバーをやるためにあえて言わなかったな?」
「………」
どうやら図星だったようだ。
否定も肯定もせずただ黙りこくっている。
「…まあいい、行くぞ」
「待ってください。さすがにここからじゃ旧大陸に着くまでに体力が尽きます。私もマナが持ちません」
「…ならどうするんだ?」
隣ではテュポーンが困り顔でクラウを見ていた。
「付いてきてください!」
「あ、ああ」
クラウはエイラの馬に乗り、手綱を握った。
「おい、何だこれは?こんなのが役に立つのか?」
「実証試験は終わってますし、新設された軍組織にも配備予定の物ですから、問題ありませんよ」
馬を走らせ、あるいは飛びつつクラウに連れられてきた場所は近くにある軍の駐屯地。
入り口で兵士に止められたが、クラウのお陰で難なく入ることができた。
そして駐屯地の中を歩き回り、見つけたのが…
「『飛行船』今後の戦争は空が主な舞台になるでしょう」
家屋ほどの大きさをした魚の浮袋のようなものに人が乗りこめる鉄の籠が付いている。
そしてその籠の付近には黒々とした鉄の塊が付いている。
「これが飛ぶっていうのか?クラウ?」
「飛びます。速度はそれほど早くはありませんが体力は使わなくていいですし、武装も積んでいける。…爆弾の積み込みは?」
クラウが飛行船の隣で整備をしていた兵士に声をかける。
服も顔も黒い油で汚れに汚れ、少し離れているにも関わらず汗の臭いが凄い。
「出来ています。しかし爆弾をつければ足は遅くなりますよ?よろしいので?」
「構いません。必ず海上で仕留めます」
「分かりました。で、操縦は?誰か連れてまいりましょうか?」
「これの設計に携わったのは私です。操縦は私がやります」
「…なぜこれを使うのか、私には理解できませんが…どうかご武運を」
「ええ。ありがとうございます」
何かを察したような兵士、物憂げな表情を浮べながら彼はクラウ達を見送った。
「待っていろよ。エイルバー…」
「ドレスリンからの航路は大体決まっています。奴の事です。最短の航路を通って急いで旧大陸に向かうはず」
クラウが飛行船の舵やいろいろな機械を操作し黒煙を上げながら耳ざわりな音を上げる飛行船、一緒に乗り込んだテュポーンがその音に少しびくんとした。
そして徐々に地上から浮き上がっていく。
「…人は飛ぶための手段を戦争に使うのですね」
「これを作るのを良しとしたのは私です。テュポーンさん。責めるなら私を」
「……いえ、失礼を。少し黙っております」
飛行船は既に地上の建物がかなり小さく見えるような高度まで達していた。
「発進します。海上にでた時は下に目を光らせていてください」
「分かった」
「承知いたしました」




