第九十五話
「エイルバー様、首尾は?」
キマイラ達から逃げ、エイルバーのいる場所まで移動したベッファ。
彼から渡された術式が組み込まれた本を使用してきたのだが…
「上々だ、回収作業もほとんど終わる」
場所は凍えるような気温のべズビル山、そこでは何人かの人間が雪に空いた穴から本を運び出していた。
手に収まるほどの大きさの本だが数はおよそ一万冊をゆうに超えている。
「本は木箱に詰めて、俺達と一緒に山の麓まで送る。その後は馬でドレスリンの港まで運べ。『同志』がいる」
「いよいよ我々の野望が達成されるんですね」
「ああ、その通りだ」
急がないと凍ってしまいそうな状況の中、ベッファは無理矢理笑顔を作った。
「やれやれ、何やら大変な状態じゃのう」
クラウの魔術を使い、キマイラ達はドレスリンにあるとあるさびれた村に来ていた。
人の往来もかなり少なく、村の建物のいくつかは無人なのだろう、崩壊している家がいくつもある。
「エイルバー様…話は兄様から聞きましたが、なんとも…」
そんなさびれた村にはドリュアスとテュポーンが一緒に居た。
二人にはエイルバーが本を手に入れたことを伝えた。
ヴィクトリアから指令を受けているとも。
「ドリュアス、あの本は何なんだ?俺の作り方が書かれているということはきいたが…」
「それにはお前さんがどういう意図で作られたのかを説明せねばならん」
ドリュアスはやや俯きながら続けた。
「キマイラを作ったのはベルガー家の当主だったペーター・ベルガー様、エルの御父上じゃ」
「……」
「ペーター様は当時他の魔術師と戦争状態、仲間はマグワイヤ家のみで劣勢じゃった。その戦況を覆すために生み出されたのが儂らじゃ」
ドリュアスは自分と、テュポーンを交互に指さす。
「ペーター様が望んだのは『生産性が高く、それなりの戦闘力を持ち、隠密性に優れる』というものじゃ。儂は戦闘力は無いし、生産性なぞ皆無。テュポーンも…」
「私は戦闘能力は高いですが生産性が壊滅的、加えて継戦能力が低い…エキドナは継戦能力、生産性が高いが単体での戦闘能力が低いうえ扱いずらい」
「…それで、俺か」
キマイラは合点がいった。
要はキマイラは…
「ああそうじゃ。本に術式を埋め込んでマナを流し込むだけでどこでも作れ、それなりに戦闘能力があり、継戦能力もある。お前さんはベルガー家の兵器の完成形じゃ。そしてあの本は言ってしまえば有事の際の予備戦力。あそこはずいぶん前に地脈も枯れ、魔術師は見向きもせん。人間が見つけたとしてもマナが扱えんから意味がない。隠すにはうってつけじゃ」
「だが俺はエルに儀式を使って作られたはずだ。本なんて使っていない」
「そこは分からんな。はっきり言って本さえあれば生贄も要らんし、あんな儀式も必要ない。エルはペーター様の娘、技術が伝わっていないなどということは無かろうが…」
うーん、と疑問符を浮かべるドリュアス。
だがいくら考えても答えなど出なかった。
「…とりあえずこれからどうするか。エイルバーが本を手に入れた以上あいつがやることといったら一つだろう」
「この国にいる人間を片っ端から殺して回る…奴はギースを未だに血眼になって探してる。今でも無関係の人間を拉致、拷問、殺害を繰り返してます。そんな奴に本が渡ったら…」
考えこむキマイラ達。
そうして暫く話し合っていると、遠くから馬に乗ってくる女性が来た。
冷え固まった溶岩が鉄板に張り付いたような不恰好な鎧を着込んだ女性…
エイラだった。




