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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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騎士団の旗

 魔法騎士学園。

 正式名称は「王立エルディア騎士養成学園」。長い。生徒は全員「学園」と呼んでいるらしい。

 王城から馬車で二十分。丘の上に建つその学園は——でかかった。

「すごい! ハリーポッターみたい!」

 フタバが門の前で飛び跳ねた。

「あれはフィクションです」

「ここもフィクションみたいなもんでしょ!」

 反論できなかった。


 石造りの校舎が三棟。中庭には噴水があって、水が螺旋を描きながら空中に浮かんでいる。重力を無視している。掲示板は木の板じゃなくて、空中に浮かぶ光の文字だ。指で触ると内容が切り替わる。タッチパネルの魔法版。

 中庭を歩いている生徒たちは全員、制服の上に薄い鎧のようなものを着けている。胸元に宝石が埋め込まれていて、赤や青や緑に光っている。属性を示しているんだろう。

 そして——召喚獣がいる。あちこちに。鷹みたいな鳥が生徒の肩に止まっている。猫くらいの大きさの獣が足元を歩いている。中庭の隅では、牛くらいの大きさの何かが寝ている。

「興味深い……」リクトの目が輝いている。「生態系として成立しているのか、それとも魔素依存の存在なのか……」

「リクト、そのノート後で見せて」

「ダメです。個人的な研究ノートです」

「ケチ」

 フタバとリクトのやり取りを聞きながら、俺は校舎を見上げた。窓が無数にある。どの窓の向こうにも、この世界の生徒がいる。この世界で生まれ、この世界で育ち、最初から魔法を使える人間たち。

 俺たちとは、違う。


    ◇


 入学手続きは、一人ずつだった。

 まずクラス分けが発表された。五人は全員同じクラス。リーシャは別クラス。ディオンという名前の生徒が同じクラスにいたが、この時は誰かも知らなかった。

 大きな講堂に通されて、壇上に立たされる。教官が手元の装置を操作すると、頭上に光の文字が浮かんだ。名前、年齢、属性——そしてランク。

 ユウスケが最初だった。

 光の文字が点灯する。

 ——ユウスケ。風属性。ランクC。

「Cランク。新入生としては優秀だ」

 教官が頷いた。講堂の生徒たちがざわめく。転移者は珍しいらしい。ユウスケは無表情で戻ってきたが、小さく息を吐いていた。緊張してたんだな。

 ハルカ。光属性。ランクC。

 光属性の瞬間、講堂が静まった。珍しいんだろう。ハルカが困ったように笑って壇上を降りた。

 フタバ。火属性。ランクC。「やったー!」と壇上でガッツポーズ。講堂が少し笑った。

 リクト。地属性。ランクC。「想定の範囲内です」と冷静に降りてきた。

 そして——俺の番だ。

 壇上に立つ。装置が起動する。光の文字が浮かぶ。

 ——ワタル。属性:なし。ランク:——


 文字が点滅した。

 一度。二度。三度。

 そして表示された。


 ランク外。


 講堂がざわめいた。今までと違うざわめき。

「ランク外?」

「属性なし? マジかよ」

「あいつだけ一般人じゃん」

「転移者なのにランク外って……」

 声が刺さった。一つ一つが、胸に刺さった。

 俺は笑った。平気な顔を作った。口角を上げて、肩をすくめて、「まあ、そういうこともあるよな」って顔をした。

 でも——拳は握っていた。爪が掌に食い込むくらい、強く。

 壇上を降りる。ユウスケが何か言いかけたけど、俺が笑っているのを見て口を閉じた。こいつは分かっている。俺が笑っている時ほど、悔しい時だってことを。

 ハルカが心配そうな目をしていた。フタバが「ワタル先輩……」と小さく言った。リクトだけが普通の顔で「ランク制度の基準に問題がある可能性もあります」と言った。

 ——ありがとう、リクト。今はその理屈が嬉しい。


    ◇


「あなたがワタル? ランク外の?」

 放課後。中庭のベンチに座っていた俺の前に、一人の女性が立った。

 長い栗色の髪。凛とした目。腰に剣を帯びている。制服の胸元に、上級生を示す銀の紋章。

「……はい」

「ふうん」

 女性が俺を見下ろした。品定めするような目。でも、嫌な感じはしなかった。どちらかというと——興味の目だ。

「面白いわね。ランク外から始めた騎士を、私は見たことがない」

「じゃあ、俺が最初です」

 言ってから、少し生意気だったかと思った。でも女性は——笑った。

「いい度胸。気に入ったわ」

 手を差し出された。

「セリア。あなたの先輩よ。今日から私があなたを指導する」

「先輩……?」

「この学園には先輩制度があるの。上級生が一人、下級生を一人担当して指導する。私があなたの担当」

 握手した。セリア先輩の手は、細いのに硬かった。剣を握る手だ。

「明日から特訓よ。ランク外でも、剣は振れるでしょう?」

「……はい」

「よろしい。覚悟しておきなさい」

 セリア先輩が背を向けて歩き出した。その背中に、聞いた。

「先輩。ランク外でも、騎士になれますか」

 セリア先輩が振り返った。

「さあ。でも——やめなければ、可能性はゼロじゃない」

 それだけ言って、去っていった。


    ◇


 同じ頃、他のみんなにも先輩がついたらしい。

 ユウスケの先輩はルーク。寡黙な男の剣士で、ユウスケに木剣を渡して「振れ」とだけ言ったらしい。似た者同士だ。

 ハルカの先輩はミレイ。優しい女性の回復魔法使い。「光属性の子は久しぶり。嬉しいわ」と手を取ってくれたらしい。

 フタバの先輩はガルド。大柄で豪快な男。「ちっちゃいな!」と言ったらフタバに「失礼な!」と返されたらしい。相性は良さそうだ。

 リクトの先輩はリーネ。眼鏡の女性解析魔法使い。二人で即座に魔法理論の話を始めたらしい。世界が二人だけになっていたとフタバが証言した。

 ——リーシャの先輩はヴァン。貴族出身の男性騎士。「王女殿下、ここでは対等だ」と言ったらしい。


    ◇


 ——ゼロじゃない。

 その言葉を握りしめて、明日に備えた。

 窓の外に二つの月。一人のベッド。静かな部屋。

 ——明日から、変わる。変わってみせる。

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