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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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国王と空っぽの目

 白い城は、近づくほどに大きくなった。

 門は俺たちの背丈の五倍はある。見上げると首が痛い。門番の騎士たちが左右に道を開けた。

 城の中に、足を踏み入れる。


「これより、王の間へ向かう。国王陛下がお待ちだ」

 騎士が言った。

 国王。この世界の王に——会う。

 俺たちは顔を見合わせた。フタバが俺の服を掴んでいる。ユウスケが背筋を伸ばした。リクトがノートを閉じた。ハルカが小さく深呼吸した。

 城門が開く。

 その奥に、長い廊下が続いていた。磨かれた石畳。壁に飾られた甲冑と絵画。魔素灯が等間隔に灯っている。

 廊下を歩く。靴音が響く。


 ——その時、前方からすれ違う人影があった。


 騎士だ。鎧を着た騎士。他の騎士と同じ装備。だけど——何かが違う。

 目だ。

 目が、空っぽだった。

 光がない。表情がない。瞬きすらしない。まるで人形が歩いているように、一定の速度で、一定の歩幅で、廊下を進んでいく。

 すれ違った瞬間、空気が冷たくなった気がした。

「……あの人、なんか変じゃなかった?」

 俺は護衛の騎士に聞いた。

 騎士の顔が曇った。一瞬だけ。でも、確かに。

「……ナンバーズだ。気にするな」

 それだけ言って、騎士は歩き出した。

 ナンバーズ。

 聞いたことのない言葉。でも、騎士の声に微かな——怯えがあった。同じ騎士なのに。同じ鎧を着ているのに。

「ワタル先輩」

 フタバが俺の制服の裾を引っ張った。顔が青い。

「あの人の目、怖かった……」

「……大丈夫だ」

 そう言いながら、背筋が寒くなったのを隠した。

 あの空っぽの目。あれは——生きている人間の目じゃなかった。


    ◇


 玉座の間は、想像以上に広かった。

 天井が高い。見上げると、天窓から月明かりが差し込んでいる。二つの月の光が、床の紋章を照らしている。

 そして——玉座に、男が座っていた。

 五十代くらいだろうか。銀の髪。深い青の瞳。顔には皺があるけれど、目に力がある。威厳がある。周囲の空気を支配する、そういう種類の人間だ。

 国王。

「異世界からの来訪者か」

 低い声だった。重くて、穏やかで、どこか温かい。

「歓迎しよう。我が国、エルディアへ」

 国王が立ち上がった。騎士たちが道を開ける。

「お前たちの世界から人が来るのは、実に二百年ぶりだ」

 二百年。俺たちの前にも、来た人がいる。

「まずは、お前たちの力を見せてもらおう」

 国王が手を上げると、騎士が運んできたのは——水晶のような球体だった。台座の上に置かれ、淡い光を放っている。

「魔力測定器だ。手を触れれば、持つ属性が分かる」

 最初にユウスケが進み出た。球体に手を置く。

 ——緑の光が溢れた。球体が風を纏うように光る。

「風属性。適性——高い」

 周囲の騎士がざわめいた。ユウスケが静かに戻ってくる。「風か」とだけ呟いた。

 次にハルカ。球体に触れた瞬間、白い光が部屋を満たした。温かい光。見ているだけで心が安らぐような。

「光属性。適性——極めて高い」

 今度は騎士たちが息を呑んだ。光属性は珍しいらしい。ハルカが少し困ったように笑って戻ってきた。

 フタバは赤い光。火属性。リクトは茶色い光。地属性。二人とも適性は水準以上だと言われた。

 そして——俺の番だ。

 球体の前に立った。手を伸ばす。指先が触れる。

 ——何も起きなかった。

 光がない。反応がない。球体は沈黙したまま、ただそこにある。

 一秒。二秒。三秒。

 周囲がざわめく。

「属性なし、か?」

「魔力反応もない……」

 球体が——割れた。

 パキッと小さな音を立てて、表面にひびが入った。内側から黒い煙のようなものが一瞬だけ漏れて、消えた。

 玉座の間が静まり返った。

 国王の目が、一瞬だけ鋭くなったのを——俺は見た。ほんの一瞬。瞬きより短い時間。でも確かに、あの穏やかな目の奥に、別のものが光った。

「……興味深い」

 国王は微笑んだ。さっきの鋭さは消えていた。穏やかな声。

「だが心配は要らない。お前たちは我が国の騎士学園で学ぶがいい。きっと力が芽生えるだろう」

 優しい言葉のはずだった。でも、胸の奥に引っかかるものがあった。

 俺だけ——何もない。

 みんなに属性があって、俺だけ測定不能。球体が壊れるという異常な反応。なのに「心配するな」。

 ——本当に?

 

 その時、視界の端に人影が見えた。

 玉座の間の隅。柱の影に、一人の少女が立っていた。

 長い金髪。まっすぐな背筋。鋭い目。俺と同じくらいの年齢に見える。

 目が合った。

 少女の瞳が、一瞬だけ俺を捉えた。何かを値踏みするような——いや、何かを確かめるような目。

 すぐに逸らされた。

「娘のリーシャだ」国王が言った。「学園で会うこともあるだろう」

 リーシャは何も言わなかった。目も合わせなかった。柱の影から動かないまま、ただそこに立っていた。


    ◇


 与えられた部屋は、俺たちの家より広かった。

 天蓋付きのベッド。石造りの壁に魔素灯。窓の外に王都の夜景。全部が非現実だった。

 フタバとリクトとハルカは隣の部屋にいる。俺はベッドに座って、窓の外を見ていた。

 二つの月。

 あの月は、今ごろ俺たちの世界にも出ているんだろうか。——いや、出ていない。あっちの月は一つだ。ここは違う世界なんだ。

 ドアが開いた。

「入るぞ」

 ユウスケだった。無言でベッドの端に座る。

 しばらく、二人とも何も言わなかった。

「……帰れるのかな、俺たち」

 ユウスケが天井を見上げて言った。こいつがこういう弱さを見せるのは珍しい。

「分からない」

 正直に言った。嘘をつきたくなかった。ユウスケには。

「でも、必ず帰る。全員で」

「……根拠は」

「ない。でも、帰る」

 ユウスケが鼻で笑った。馬鹿にしてるんじゃない。こいつの「そういうところだよな」って顔だ。

「……ああ。帰るか」

「帰ろう」

 その一言で十分だった。こいつとなら、きっと帰れる。

 窓の外で、二つの月が光っている。この世界の月だ。でも——あの丘の上の木の下で見た夕暮れの空を、俺はまだ忘れていない。


 明日から、騎士学園。

 俺たちの、異世界での生活が始まる。

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