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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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戦友

 前線基地で、友達ができた。

 カイル。俺と同い年の騎士。茶色い髪。人懐っこい笑顔。こっちが黙っていても勝手に話しかけてくる。

「お前が闇属性のワタルか! 噂は聞いてる。すげーな!」

「……噂?」

「魔族の精鋭を一人で三体倒したって。英雄じゃん」

「英雄なんかじゃない」

「謙遜すんなよ! 俺なんかDランクだぜ。平凡もいいとこ。でもま、平凡なりにやってるさ」

 カイルは前線生まれの騎士だった。実家は街の飯屋。両親と妹がいる。

「妹がさ、お前んとこのフタバに似てるんだよ。元気で泣き虫で。まっすぐで」

「フタバに似てる?」

「そ。だからフタバ見てると妹を思い出す」

 フタバもカイルに懐いた。「カイルお兄ちゃん!」と呼んでいた。カイルが「お兄ちゃんって歳でもないけどな」と笑っていた。

 カイルは料理ができた。前線の粗末な食材で、驚くほど美味い料理を作る。

「実家が飯屋だからさ。親父に仕込まれた。包丁より先に剣を握ったけど、包丁の方が上手いかもな」

 ある夜、カイルが作ったスープをみんなで飲んだ。温かくて、優しい味。香辛料が効いていて、体の芯まで温まる。

「美味い」ユウスケが二杯目を取った。ユウスケがおかわりするのは本当に美味い時だけだ。

「でしょ。母さんのレシピ。前線じゃ材料が足りないけど、味だけは再現できるんだ」

 ハルカが「ワタルのカレーに少し似てる」と言った。カイルが「カレー? 何だそれ」と興味を示した。

「元の世界の料理だ。今度作る」

「約束な。俺のスープと交換だ」


 ある夜。焚き火を囲んで話した。

「戦争が終わったらさ、実家の飯屋を継ぐんだ」

「飯屋か」

「親父の代から続いてる。大した店じゃないけど、常連がいてさ。スープが美味いんだ。母さんのレシピ」

「スープ」

「ああ。具がたっぷりで、温かくて。——帰ったら食わせてやるよ。お前たちにも」

 カレーの話をした。フタバのお母さんのカレー。元の世界の味。

「カレーか。食ったことないな。美味いのか」

「世界で一番美味い」

「ははっ。じゃあ俺の母さんのスープと勝負だな」

 笑い合った。焚き火の光の中で。

 ——普通の夜だった。何も特別じゃない夜だった。


    ◇


 翌日。偵察任務。

 ワタル、ユウスケ、フタバ、カイル。四人で森を抜ける。

 魔族の領地の境界付近。静かだった。静かすぎた。

「……嫌な予感がする」ユウスケが呟いた。

 その瞬間——木の陰から影が飛び出した。

 魔族の兵士。二体。大型。黒い鎧に赤い紋章。

 速い。学園で戦った魔物とは次元が違う。殺意が本物だ。

 ユウスケが双剣を抜いた。ワタルが闇の剣を生成した。

 一体目はユウスケが斬った。風が閃いて、魔族の鎧を切り裂いた。

 二体目が——フタバに向かった。

 速い。フタバが反応する前に。ガンが間に入ろうとしたが——角度が悪い。

「フタバ!」

 カイルが飛び出した。

 フタバの前に立った。盾を構えた。魔族の一撃を——正面から受けた。

 盾が砕けた。剣が折れた。カイルの体が——吹き飛んだ。

「カイル!!」

 ワタルが闇の剣で魔族を斬った。二体目が崩れ落ちた。

 駆け寄った。カイルが地面に倒れていた。胸に——深い傷。血が広がっている。

「カイル——カイル!!」

 フタバが膝をついた。ハルカの回復魔法が——ここにはない。ハルカは基地にいる。

「おい、しっかりしろ——」

 カイルが目を開けた。焦点が合っていない。でも——笑っていた。

「あ……フタバ、無事か……」

「無事だよ! 無事だからカイルお兄ちゃんも——」

「よかった……妹と、同じ顔して泣くなよ……」

 血が口から溢れた。

「ワタル……実家の飯屋……母さんのスープ……」

「食いに行く。絶対に。だから——」

「食いに行けよ……戦争、終わったら……約束……」

 目が——閉じた。

 手から——力が抜けた。


 フタバが泣き崩れた。声を上げて。ガンがフタバの横で低く鳴いた。

 ユウスケが拳を握っていた。白くなるまで。

 ワタルは——カイルの顔を見ていた。笑っていた。死んでも——笑っていた。


    ◇


 基地に戻った。カイルの遺体を運んだ。

 カイルの持ち物を整理した。鞄の中に——手紙が入っていた。妹宛。「戦争が終わったら帰るから。待っててくれ」。

 帰れなかった。

 ハルカがフタバを抱きしめていた。リクトが黙って遺品をまとめていた。

 セリア先輩が来た。「……いい子だったわね。カイル」

「知ってたんですか」

「新人の頃から見てた。真面目で、優しくて。——こういう子から先に、死んでいく」

 

 夕暮れ。前線基地の外。

 カイルの墓標を立てた。木の板に名前を刻んだ。「カイル」。

 フタバが花を供えた。枯れかけた野の花。

「カイルお兄ちゃん……約束、したのに……」

 ワタルは墓標の前に立って、拳を握った。

 ——名前のある人間が死んだ。

 昨日まで笑っていた。カレーの話をした。飯屋を継ぐと言っていた。母さんのスープが美味いと。妹が待っていると。手紙を書いていたと。

 もういない。

 これが——戦争だ。

 ユウスケが墓標の横に立っていた。何も言わなかった。ただ——拳が白かった。

 ハルカが手を合わせていた。ルミが小さな光を墓標に灯した。回復の光。もう届かない。でも——灯した。

 リクトがノートに書いていた。「カイル。前線基地所属。享年17歳。夢:飯屋を継ぐこと。好きなもの:母のスープ」。データとして。記録として。忘れないように。

 ノクスが墓標の前で静かにしていた。いつもは落ち着きがないのに。今日は——動かなかった。赤い目が墓標を見ている。

「……帰れなかったね。ごめんね」

 フタバの声が震えていた。ガンが鼻先でフタバの背中を押した。支えるように。

 

 夜。テントに戻った。一人。

 カイルが作ってくれたスープの味を思い出した。温かくて、優しくて。——もう飲めない。

 右手を見た。闇が宿る手。この力で——守れなかった。隣にいたのに。

 師匠の言葉が蘇る。「剣は人を守るためにある」。守れなかった。カイルを。名前のある、夢のある、一人の人間を。

 カイルの手紙が目に浮かぶ。「戦争が終わったら帰るから。待っててくれ」。妹が読むことのない手紙。

 ——強くならなきゃいけない。もっと。もっと速く。もっと深く。

 この闇を使い切ってでも——隣にいる人間を死なせない。

 ノクスが肩に乗った。何も言わない。「クゥ」とも鳴かない。ただ——いる。隣に。

 そういえばカイルが言っていた。「お前の肩のそいつ、いい目してるな。飼い主に似てる。頑固で、真っ直ぐで」。

 ——似てるか。こいつに。

 ノクスの赤い目が俺を見ている。悲しそうな目。いつもの悲しそうな目。

 今日は——俺も同じ目をしているだろう。


 戦場は、学園とは違う。

 ここでは人が死ぬ。本当に。

 名前のある人間が。笑顔のある人間が。夢のある人間が。

 ——もう二度と、この食事を一緒にすることはない。

 だから——次は守る。絶対に。

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