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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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受け継ぐもの

 卒業の一週間前。

 セリア先輩が六人を呼び出した。先輩たちは一年前に卒業してそれぞれの道に進んでいたが、この日のために全員が学園に戻ってきた。

「渡したいものがある。ついてきなさい」

 向かった先は——ガレスの道場跡だった。

 久しぶりに来た。扉は開いたまま。埃が積もっている。壁の木剣は数が減っていた。床に酒瓶が一本。あの日と同じ場所に。

 空気が重い。師匠の匂いはもうしない。酒の匂いも、焦げた料理の匂いも。

「こっちよ」

 セリア先輩が道場の奥に進んだ。床板を外す。——隠し部屋があった。知らなかった。

「ガレスが……あなたのために残していたのよ」

 セリア先輩が俺を見た。

「いつか弟子が取りに来ると信じて」

 階段を降りる。小さな部屋。棚に一つだけ、木箱が置かれていた。

 開けた。

 剣。

 黒い刀身。長さは俺の腕くらい。鍔に紋章が刻まれている。柄は使い込まれた革。だが刀身は新しい。——いや、古い。古いのに、新しく見える。闇の魔力が、脈打っている。生きているみたいに。

「影喰みの剣。ガレスが若い頃に手に入れた闇属性の武器よ。ずっとここに隠していた。『いつか、闇属性の弟子が来たら渡してくれ』って」

 ——師匠。

 俺が弟子になる前から。俺がこの世界に来る前から。師匠は——この剣を残していた。

 握った。

 闇が——応えた。

 剣から闇の波動が走る。右手を通じて、全身に。俺の闇と、剣の闇が共鳴する。

 そして——影が動いた。

 俺の足元の影が、剣に向かって伸びた。黒い影が剣を包み込む。飲み込む。

 剣が——影の中に消えた。

 手に何も残っていない。でも、影の中に剣がある。感覚で分かる。すぐに取り出せる。

「……何、今の」

「影が剣を飲んだ……?」リクトが目を見開いた。「影の中に収納——これは新しい能力の発現です!」

 右手を影に伸ばす。——影喰みの剣が、手の中に戻った。瞬時に。

 師匠が残した剣。俺の闇と共鳴する剣。影の中に眠る剣。

「……ありがとう、師匠」

 声が震えた。目が熱い。

 セリア先輩が微かに笑った。「ガレスが見たら……泣くなって言うわよ、きっと」

「泣いてないです」

「嘘ね」


    ◇


 六人全員に、武器が渡された。

 ユウスケ。木箱の中から双剣を取り出した。セリア先輩が説明する。

「ロイドの形見よ。生前に鍛えていた未完成品を、私が仕上げた。風切りの双剣」

 ユウスケが二本の剣を握った。風が渦を巻いた。髪が揺れる。フェンリルが低く吠えた。共鳴。

 ユウスケは何も言わなかった。ただ、双剣を胸の前で交差させて——目を閉じた。

 ハルカ。ミレイ先輩から白い杖を受け取った。聖光の杖。代々、光属性の使い手に受け継がれてきた。

「あなたに託すわ。大切に使って」

「ミレイ先輩……ありがとうございます」

 ルミが杖の先端に止まった。白い光が溢れた。温かい光。

 フタバ。ガルド先輩が手渡したのは赤いガントレット。炎纏のガントレット。

「お前の戦い方に合わせて作った。特注品だ。壊すなよ」

「壊さない! ……たぶん!」

「たぶんって言うな!」

 フタバがガントレットを嵌めた。拳を握ると赤い光が走った。ガンが嬉しそうに鼻を鳴らした。

 リクト。リーネ先輩との共同開発品。解析の水晶盤。手のひらサイズの水晶の板に、光の文字が浮かぶ。

「シェルと連動させれば、戦場全体をリアルタイムでマッピングできます」

「素晴らしい……」リクトの目が輝いた。シェルの甲羅が青白く光って、水晶盤と同期した。

 リーシャ。最後の一人。

 リーシャが取り出したのは——白い剣。自分で持ってきていた。

「母上の形見。暁光剣。……父上の書斎から持ち出したの」

 白い刀身に金の紋章。光属性を纏う王家の剣。リーシャが握ると、剣が白く輝いた。ソラが翼を広げて呼応した。

「母上は……優しい人だった。この剣で、私は誰かを守る」

 声が少しだけ震えていた。でも、目は真っ直ぐだった。


 六人。六本の武器。先輩たちから受け継いだもの。師匠が遺したもの。母が残したもの。

 道場の前に立って、夕暮れの空を見上げた。

 ワタルが影喰みの剣を掲げた。黒い闇が纏う。

「これが、先輩たちが俺たちに残してくれたものだ。——無駄にしない」

 五人が頷いた。六色の光が夕暮れの空に映える。闇、風、光、炎、地、光。


    ◇


 卒業が近づく。

 三年間。長かった。でも——短かった。


 セリア先輩が訓練場で俺を待っていた。最後の組み手。

「あなたを見て、私も成長できたわ」

「それは俺の台詞です、先輩」

「生意気な弟子ね」

 笑い合った。セリア先輩の笑顔。最初に手を差し出してくれた人。「ランク外でも剣は振れる」と言ってくれた人。

 ルーク先輩がユウスケと向き合った。無言。拳を合わせた。それだけ。でもそれが、二人の全てだった。フェンリルがルーク先輩に一度だけ頭を下げた。

 ミレイ先輩がハルカを抱きしめた。「立派になったわね」。ハルカが泣いた。ルミが二人の間で小さく光った。

 ガルド先輩がフタバの頭をガシガシ撫でた。「でかくなったな!」「身長は変わってないよ!」「心がでかくなったってことだ!」。フタバの目が潤んだ。ガンが低く鳴いた。

 リーネ先輩がリクトに論文の束を渡した。「一緒に研究した成果よ。続きは、あなたに託すわ」。リクトが眼鏡を押さえた。曇っていた。シェルのせいじゃない。

 ヴァン先輩がリーシャの前に立った。「王女ではなく、一人の騎士として——誇りに思う」。リーシャが唇を噛んだ。「ありがとう……ございます」。敬語。珍しかった。


    ◇


 夕方。寮の前。

 ノエルが立っていた。

 目が真っ赤だった。泣いた後だ。

「先輩……」

「ノエル」

「卒業、しないでください……」

「馬鹿。卒業はするだろ」

「でも……先輩がいなくなったら、フタバはどうすれば……あ、フタバじゃないです、私は……」

 言い間違えている。フタバの口癖が移ったのか。

 ノエルの頭に手を乗せた。ぽん、と。

「お前は強くなれる。俺が保証する」

「……保証、ですか」

「ああ。俺の後輩だからな」

 ノエルが顔をくしゃくしゃにして泣いた。声を上げて。子供みたいに。

 ノクスがノエルの肩に飛び乗った。「クゥ」と鳴いて、頬を擦りつけた。ノエルが「ノクス……」と小さく笑った。泣きながら。


 寮に帰る途中、ユウスケが隣に来た。

「明日だな」

「ああ」

「長かったな」

「短かったよ」

「……そうだな。短かった」

 二人で黙って歩いた。寮の廊下。何百回と歩いた廊下。明日から、もうここは通らない。


 明日——卒業する。

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