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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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星月夜

 星月夜の舞踏会。

 大ホールに足を踏み入れた瞬間、息を呑んだ。

 天井から無数の魔素灯が吊り下げられていた。星のように。青白い光が微かに揺れて、本物の夜空みたいだった。床は磨かれた大理石。壁には花が飾られている。金色の小さな花。リーシャの花冠に使ったのと同じ花だ。

 生徒たちが正装している。男子は黒の礼装。女子はドレス。

 俺は——正直、礼装が似合わない。鏡を見た時にユウスケに「まあ……悪くはない」と言われた。フォローが雑すぎる。

 でも。

 ハルカを見た瞬間、そんなことはどうでもよくなった。


 白いドレス。

 シンプルだった。飾りが少ない。でもハルカには、それが一番似合う。黒い長い髪がドレスの白に映える。いつもの穏やかな笑顔が、今日は少しだけ——緊張している。

「……どう、かな」

「——綺麗だ」

 考えるより先に出た。本心だ。

 ハルカの頬が赤くなった。「……ありがとう」


    ◇


 音楽が始まった。弦楽器と、笛と、打楽器。元の世界のクラシックに似ているが、旋律がどこか異世界らしい。不思議な浮遊感がある。

 踊った。

 下手くそだった。ステップが合わない。右を踏むべきところで左を踏む。ハルカの足を踏んだ。

「ごめん」

「いいよ。楽しい」

 ハルカが笑った。俺も笑った。周りの生徒たちが優雅に踊る中、俺たちだけがおぼつかない。でも——楽しかった。

 ハルカの手が温かかった。肩に置いた手。指が触れている。それだけで心臓が暴走する。

「ワタル」

「ん」

「足、見なくていいよ。私を見て」

 目を上げた。ハルカの目が近い。黒い瞳の中に、魔素灯の星が映っている。

 ——綺麗だ。

 足を踏まなくなった。ハルカを見ているだけで、自然に体が動いた。不思議だった。


 周囲ではそれぞれのドラマが繰り広げられていた。

 フタバとガルド先輩が豪快に踊っている。二人とも力が強すぎて、周囲の生徒が巻き込まれて転んだ。「すまん!」「あはは!」。台風みたいなペアだ。

 ユウスケとセリア先輩が美しく踊っている。ユウスケの動きが正確で、セリア先輩が驚いた顔をしている。「……意外とできるじゃない」「舐めないでください。三日間練習しました」「三日で?」「先輩が恥をかかないように」。セリア先輩が少しだけ頬を赤くした。

 リクトとリーネ先輩が——踊っていなかった。隅の席で魔法理論の議論をしている。ノートを広げている。シェルとリーネ先輩の召喚獣がデータを交換している。「この係数が——」「いえ、ここは——」。二人にとってはこれがダンスなのかもしれない。

 ディオンとリーシャが堂々と踊っていた。二人とも見栄えがいい。リーシャの金髪が舞い、ディオンの銀灰色の髪が揺れる。完璧なフォーム。「……悪くないわね」「お前もな」。この二人、似ている。


 ——そこに、嵐が来た。

 ノクスが天窓から飛び込んできた。翼をバタバタさせて、真っ直ぐに料理テーブルに突っ込んだ。

 肉の山にダイブ。

「ノクスーーー!」

「クゥ!」

 口に肉を咥えて飛び回る。フェンリルが追いかける。ガンがホールの入り口に入ろうとして——挟まった。体が大きくなりすぎて、扉を通れない。

「ガンーーー! 入らないでって言ったのにーーー!」フタバが叫んだ。

 大ホールが笑いに包まれた。先生も、生徒も、全員が。

 ——最高の夜だ。


    ◇


 一曲が終わった後、ハルカを連れてバルコニーに出た。

 夜風が心地いい。空に二つの月。星が瞬いている。

 二人きり。背後から微かに音楽が聞こえる。

「今日、楽しかった」

 ハルカが月を見上げて言った。

「ああ。俺も」

「ワタルのダンス、下手だったけど」

「……分かってる」

「でも——一番楽しかった」

 ハルカが俺を見た。月明かりの中の笑顔。

 ——あの丘の夕暮れを思い出す。帰り道、五人で歩いた夕暮れ。ハルカがいつも俺の隣にいた。何年も。ずっと。

 手のひらが熱い。ハルカの指先に触れたい。でも——

 ハルカの方から、指先が触れた。

 小指。月明かりの約束と同じ。小指が絡む。

 その瞬間——手のひらから淡い光が溢れた。

 紫の光。

 光と闇が混ざった色。ハルカの白い光と俺の黒い闇が、指先で溶け合って、紫色の蛍のように二人の周りを舞った。

 意図していない。勝手に灯った。二人の気持ちが、魔力に反映して。

「……綺麗」

 ハルカの声が震えた。

 紫の蛍が、バルコニーの夜風に乗って空に昇っていく。二つの月に向かって。

 

 ——好きだ。

 

 言えなかった。まだ。でも——指先が伝えている。紫の光が伝えている。言葉にしなくても、ハルカには届いている。そう信じたかった。

 ハルカが俺の肩に頭を預けた。軽い。温かい。

「……帰ったら、あの丘に行こうね」

「ああ。約束だ」

 二回目の約束。同じ約束。でも——今の方が、ずっと重い。ずっと温かい。


    ◇


 夏。

 学園の長期休暇。六人で遠出した。——無許可で。

「校則違反だぞ」

「前も言ったじゃん、バレなきゃいいんだよ!」フタバが目を輝かせた。

 あの遺跡。転移した夜、俺たちが目覚めた場所。遺跡の中央の小さな丘。その上に立つ——大きな木。

 元の世界の丘の木と同じ形。同じ大きさ。同じ枝の伸び方。あの夜、ハルカが「私たちの、あの木」と言った木。

 王都から夜通し歩いた。馬車は目立つから。六人と六体の召喚獣が、星空の下を歩く。フタバがガンの背中で寝た。ユウスケがフェンリルと並んで黙々と歩いた。リクトが「歩行ペースを維持すれば到着は午前三時です」と言った。リーシャが「データはいいから歩きなさい」と返した。

 遺跡は当時のまま残っていた。崩れた石柱。天井のない広い空間。そして——あの木。

 六人で木の根元に座った。夜。二つの月。満天の星。夜風が木の葉を揺らしている。あの夜と同じ音。さわさわと、優しい音。

「……ここから始まったんだよね」フタバが草の上に寝転がった。「この木の下で、目が覚めて」

「怖かったよな」

「うん。でも……みんながいたから」

 ユウスケが黙って空を見ている。リクトがシェルの甲羅に星座をマッピングしている。「この世界の星座体系は、興味深いですね」。

 リーシャが隣で「……ええ」と小さく呟いた。

 召喚獣たちが木の根元で丸くなっている。フェンリルが目を閉じている。ルミがソラの背中で寝ている。ガンの上にシェルが乗っている。

 ノクスが——俺の膝の上で、じっとしていた。

 赤い目が、俺を見上げている。

 あの目だ。悲しそうな目。闇の力が強くなるたびに深くなる、あの目。

 ——なぜ、お前はそんな目をするんだ。

 聞きたかった。でも、今夜は聞かないことにした。

 今夜は——ただ、ここにいたい。


「この時間が、ずっと続けばいいのに」

 フタバが言った。学園祭の花火の夜にも言った。同じ言葉。

「続くよ」

 ハルカが言った。

「帰ったら、またあの丘で。ずっと」

「ずっと、か」ユウスケが小さく呟いた。

「ずっとです」リクトが頷いた。

「……ずっとね」リーシャが空を見ていた。


 六人。六体の召喚獣。大きな木の下。二つの月。星空。

 この景色が——世界で一番美しいと、俺は思った。


 帰り道、巡回の教官に見つかりそうになって全員で茂みに隠れた。フタバが笑いを堪えきれず、俺が口を塞いだ。教官が通り過ぎた後、全員で爆笑した。声を殺して。肩を揺らして。ノクスが「クゥ?」と首を傾げた。

 ——こういう夜が、宝物になるんだ。


 夏の終わり。最高の一日。

 この六人なら、どこまでも行ける気がした。

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