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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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星月夜の前に

 後輩ができた。

 いつの間にか俺たちは上級生になっていた。時間が流れるのは早い。入学した日が昨日のことのようで——でも、あの頃の俺はランク外で、木剣も満足に振れなかった。

 後輩制度。先輩が後輩を一対一で指導する。俺たちがセリア先輩たちにしてもらったことを、今度は俺たちが返す番だ。


「あ、あの……ワタル先輩……よ、よろしくお願いします……」

 俺の後輩。ノエル。小柄な女の子。銀色の短い髪。大きな目が震えている。顔が真っ赤だ。

「おう、よろしくな!」

 ノエルが固まった。石像のように。三秒経っても動かない。

「……大丈夫か?」

「だだだ大丈夫です!」

 大丈夫じゃないだろ。


 他の後輩たちも個性的だった。

 ユウスケの後輩、リュウト。「ユウスケ先輩! 俺、先輩みたいになりたいっす!」。暑苦しい。ユウスケが「……暑苦しい」と返した。フェンリルも少し退いていた。

 ハルカの後輩、フィーナ。「ハルカお姉様……」と呼んだ瞬間に泣き出した。感動の涙。ハルカが「大丈夫よ」と優しく抱きしめた。ルミがフィーナの涙を光で拭った。

 フタバの後輩、マルク。小柄で気弱な男の子。フタバより背が低い。「フタバが守ってあげる!」とフタバが宣言した。マルク「は、はい……」。ガンがマルクの頭に鼻を乗せた。重そう。

 リクトの後輩、ティナ。「先輩! この魔導具、分解していいですか!?」。初対面で危険物を分解しようとした。リクト「待ちなさい危ない」。シェルが赤く警告を発した。

 リーシャの後輩、エリック。「リーシャ様に仕えることが、騎士としての誇りです」。堅い。リーシャ「……様はやめて」。ソラがエリックを値踏みするように見ていた。


 ——賑やかになった。


    ◇


 ノエルが俺の訓練を見学していた。

 訓練場で闇の剣を振る。影が伸びる。ノクスが隣で闇の炎を吐く。

 振り返ると、ノエルが柱の影から覗いている。目がキラキラしている。

「ノエル、見てないで一緒に練習するか?」

「む、無理です! 私なんかが先輩と一緒に——」

「遠慮するなって」

 ノエルを引っ張り出して、基礎の素振りを教えた。俺がセリア先輩に教わったのと同じように。「足。腰。手首」。

 ノクスがノエルの膝に乗った。

「わ……可愛い……」

 ノエルの緊張が、少しだけ解けた。ノクスは人を見る目がある。こいつが懐くのは、心が綺麗な人間だ。

 ——遠くから、ハルカが見ていた。穏やかに微笑んでいた。でも、ほんの少しだけ——少しだけ、目が揺れた。


    ◇


 ある日の朝。掲示板に告知が出た。


『星月夜の舞踏会 開催のお知らせ 男子は期限までにパートナーを正式に招待すること』


 ダンスパーティー。学園の恒例イベント。

 ユウスケ「面倒だな」

 リクト「統計的に、この手のイベントでは恋愛関係の進展率が——」

 フタバ「誰か誘ってくれないかなー!」

 

 ——俺の頭の中は、一人の顔でいっぱいだった。

 ハルカ。

 誘いたい。一緒に行きたい。でも——言えない。

 廊下でハルカとすれ違う。「あ、ハルカ。あのさ——」「ん?」「今日の宿題ってどこまでだっけ」。違う。そうじゃない。

 食堂でハルカの隣に座る。「ハルカ、話があるんだけど——」「なに?」「……このシチュー美味いな」。何言ってんだ俺。

 三日目。四日目。五日目。進展ゼロ。

 ユウスケが見かねて言った。「……早くしろ。見てるこっちが辛い」


 六日目。廊下で見かけた。

 リーシャの前に、貴族の男子が立っていた。銀の刺繍が入った制服。公爵家の子息だとリクトが前に言っていた。

「リーシャ殿下。星月夜の舞踏会に、ぜひ私と——」

「結構よ」

 一秒で斬られた。見事な一刀両断。男子の顔が凍った。

「で、ですが殿下、お一人で参加されるのは——」

「一人で結構」

 リーシャが歩き去った。ソラが肩の上で翼を畳んでいる。男子が廊下に取り残された。周囲の生徒が「あれで三人目だ……」と囁いている。三人目。全員斬り捨て。

 ——なのに。

 その日の放課後。リーシャが廊下で俺に近づいてきた。

「……ねえ。誰も誘わないなら、私が相手してあげてもいいわよ」

 横を向いている。耳が赤い。声は冷たいけど——これはリーシャなりの精一杯だ。

「リーシャ……」

「べ、別に行きたいわけじゃないけど。ただ、一人で行くのも格好がつかないから」

 ——ありがとう。でも、ごめん。


「あ、あの……せ、先輩……も、もしよかったら……」

 ノエルが後ろから声をかけてきた。顔が茹で蛸だ。

「……あの、その、パーティー、で、一緒に……」

 言い切れなかった。途中で「わーーー!」と叫んで走って逃げた。

 フタバが俺の腕を掴んだ。「ワタル先輩! フタバと行こう!」

 完全にパニックだ。


    ◇


 夜。寮の屋上。

 ユウスケが隣に立った。

「お前が誘いたいのは、ハルカだろ」

「……ああ」

「なら行けよ。何を迷ってる」

「迷ってるんじゃない。怖いんだ」

「怖い? お前が? 闇の魔物に突っ込んでいく奴が?」

「魔物とハルカは違うだろ……」

 ユウスケが鼻で笑った。

「お前さ。ダンジョンで影の魔物に「逃げない」って言ったよな。あの時と同じだろ」

「同じじゃ——」

「同じだよ。後ろにハルカがいる。前に踏み出すか、退くか。それだけだ」

 ——ずるい。こいつはいつも、核心を突く。

 ユウスケが俺の背中を押した。物理で。

「行ってこい」


    ◇


 翌朝。訓練場の裏庭。

 ハルカが一人で光の練習をしていた。ルミが肩の上で小さな光を放っている。朝日の中。白い光が、ハルカの黒髪に反射している。

「ハルカ」

 振り返った。穏やかな目。いつもの笑顔。

 心臓がうるさい。膝が震えている。

「ダンスパーティー」

「うん」

「俺と——行かないか」

 声が裏返った。最悪だ。

 ハルカが一瞬だけ、目を大きくした。それから——

 笑った。今まで見た中で、一番綺麗な笑顔。

「……待ってた」

 

 世界が止まった。

 朝日が眩しい。風が吹いている。ルミが「きゅう」と鳴いた。

 待ってた。待っていてくれた。いつから。食堂のあの夜から? 月明かりの約束から? もっと前から?

「お、遅くなって……ごめん」

「ううん。ワタルがちゃんと言ってくれたから。——嬉しい」

 ハルカの目が潤んでいた。笑っているのに。

 俺は——たぶん、同じ顔をしていた。


    ◇


 パートナーが出揃った。

 ユウスケはセリア先輩。「付き合ってあげる」とセリア先輩が言って、ユウスケが「……すみません」と返した。似合いすぎる。

 フタバはガルド先輩。「踊り教えてやる!」「やった!」。豪快コンビ。

 リクトはリーネ先輩。「データの話をしましょう」「是非」。踊る気がなさそう。

 リーシャはディオン。「仕方ないから」「俺もだ」。二人とも横を向いている。でも——悪くない組み合わせだ。剣士同士。

 ノエルはエリック後輩と。ノエルが少し寂しそうだったが、エリックが「僕でよければ、お供します」と紳士的に誘った。ノエルが「……うん」と小さく頷いた。


 リーシャが、俺とハルカを遠くから見ていた。

 二人が笑い合っているのを。ハルカが俺の腕に触れたのを。

 リーシャが——小さく笑った。

「……遅いのよ、馬鹿」

 背を向けた。廊下を歩いていく。ソラが肩の上から一度だけ振り返った。

 リーシャの横顔が——ほんの一瞬だけ、目が光った。

 涙じゃない。たぶん。光の加減だ。——きっと、そうだ。


 明日は、星月夜の舞踏会。

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