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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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決勝

 決勝。

 闘技場に全校生徒が詰めかけていた。前回のディオン戦以上の観客。今回はチーム戦だ。六人対六人。召喚獣も含めれば十二対十二。

 ワタルチーム。ディオンチーム。

 闘技場の中央で、両チームが向かい合った。


「今度は負けない」

 ディオンが言った。ランキング戦の時と同じ台詞。でも——声が違う。冷たくない。熱い。

「来いよ」

 俺も笑って返した。


「——始め!」


    ◇


 ディオンのチームは強かった。

 正統派。六人全員が基礎を叩き込まれた、完成度の高い連携。ディオンが前衛で指揮を取り、後衛が的確に援護する。召喚獣の連携も訓練されている。隙がない。

 開始三十秒で、押された。

 ユウスケの風がディオンの前衛に阻まれる。リーシャの光剣が相手の盾役に受け止められる。リクトの指示が追いつかないほど、相手の攻勢が速い。

「ディオンのチーム、戦術を変えてきてる……!」リクトが叫んだ。「前回のデータが通用しない!」

 ——ディオンも成長している。俺だけが成長したわけじゃない。

「フタバ、右翼を突破しろ!」

「了解!」

 フタバとガンが右翼に突進した。

 ——待っていた。相手の大型前衛。体格はフタバの三倍。盾を構えて通せんぼしている。

「ちっちゃいな。ここは通さないぞ」

 舐めた声。年下の、小さな女の子だから。

 フタバの目が変わった。

「フタバを——」

 炎が拳に纏った。赤い。熱い。ガンが低く唸って突進体勢に入る。

「——舐めないで!」

 フタバの拳が、盾ごと大型前衛を吹き飛ばした。

 轟音。相手が五メートル後方に転がった。盾にひびが入っている。

 ガンが咆哮した。大地が揺れるほどの声。

 フタバが拳を構えたまま立っている。十二歳。全員の中で一番小さい。でも今——一番強く見えた。

「……マジか」観客が息を呑んだ。

 右翼が崩れた。フタバが突破口を開いた。


    ◇


 ここからが本番だった。

 六体の召喚獣が、同時に動いた。

 ノクスが上空から闇の炎を吐いた。黒い炎が相手の後衛を牽制する。

 フェンリルがユウスケと連携して風の壁を作り、相手の前衛を分断した。

 ルミがハルカの肩から光の粒子を放ち、味方全員の傷を回復していく。

 ソラがリーシャと空中連携。急降下して相手の解析型を散らす。

 ガンがフタバと共に中央を突進。地面が揺れる。

 シェルがリクトの指示通り、全員の位置をリアルタイムで表示。

 十二体が一つの意思で動く。訓練の成果。

「左翼、崩れます! ユウスケさん、フェンリルと共に追撃!」

「了解」

「リーシャさん、ソラと空中から——!」

「分かっているわ」

「ハルカさん、光の壁を中央に!」

「うん!」

 リクトの指示が戦場を支配した。相手チームが押され始める。

 だが——ディオンだけは崩れなかった。

 前衛が崩壊する中、一人で踏みとどまっている。銀の剣が閃く。ユウスケの風を斬り、フタバの炎を弾き、リーシャの光を受け流す。

 ——強い。あの時より、ずっと。

「ワタル」ユウスケが叫んだ。「あいつは——お前じゃないと止められない」

 分かってる。

 闇の剣を生成した。漆黒の刃。ノクスが俺の横に飛んできた。赤い目が光る。

「行くぞ、ノクス」

「クゥ!」

 ディオンの肩から、銀色の鷹が飛び立った。鋭い嘴。銀の羽根。ディオンと同じ、冷たく美しい目をしている。

「行け、ギン」

 ノクスとギンが空中で睨み合った。黒い小さな竜と、銀の鷹。体格差は鷹の方が上。でも——ノクスは退かない。主人と同じだ。


    ◇


 闘技場の中央。

 俺とディオンが向かい合った。周囲のチーム戦は決着がつきかけている。残っているのは二人と二体だけ。

 頭上で、ノクスとギンがぶつかった。黒い炎と銀の風が交差する。ノクスが小さい体で急旋回して、ギンの背後を取る。ギンが翼で叩き落とそうとする。ノクスが避ける。

 ——あいつも、退かない。

 あの日の再現。でも——二人とも、あの時とは違う。

 ディオンが構えた。正統派の構え。美しい。完璧な型。

 俺は闇の剣を構えた。ガレス師匠に教わった型。不格好だけど——俺の型だ。

 踏み込んだ。同時に。


 一合目。闇と銀がぶつかった。衝撃波。石畳にひびが入る。あの時は一方的に押されたのに——拮抗している。

 二合目。ディオンの横薙ぎ。速い。でも見える。避けて、カウンター。ディオンが後退する。

 三合目。四合目。五合目。互角。どちらも引かない。

 ディオンの目が変わった。驚きじゃない。喜びだ。

「——やるな」

「お前もな」

 六合目。七合目。打ち合うたびに、互いの剣が語っている。言葉じゃなく、剣で。

 ディオンの剣は正統派だ。一つ一つが教科書のように正しい。何千回、何万回の反復で磨き上げられた剣。才能がないと自分で言ったあの男が、血反吐を吐いて積み上げた剣。

 俺の剣は泥臭い。不格好で、型破りで、闇が混じっている。でも——師匠が教えてくれた剣だ。セリア先輩が直してくれた剣だ。101回目の素振りが作った剣だ。

 八合目。

 ディオンが踏み込んだ。全力の一撃。上段から。あの日と同じ攻撃。あの時は闇纏いで受け止めた。

 ——今は違う。

 闇の剣で受け止めた。衝撃が走る。膝がきしむ。でも——折れない。

 空いた左手に——闇の球を灯した。小さな漆黒の球体。仲間に教わった技。

 ディオンの目がそちらに向いた。一瞬。陽動だ。

 その一瞬で——闇の剣を振り上げた。

 ディオンの胸元に。寸止め。


 静寂。


 頭上で——ノクスがギンの背中に乗っていた。小さな爪で羽根を掴んで、「クゥ」と勝ち誇っている。ギンが悔しそうに翼を畳んだ。

 主人と同じタイミングで、決着がついた。


「——勝者、ワタルチーム!」


 闘技場が爆発した。歓声。悲鳴。六人の名前を叫ぶ声。

 俺は闇の剣を消した。息が荒い。全身が汗まみれ。

 ディオンが目の前にいる。剣を下ろして。銀灰色の目が、俺を見ている。

 あの日と同じ構図。でも——逆だ。

 ディオンが、手を差し出した。

「……やるな、ワタル」

 あの日は俺が手を差し出した。今度はディオンから。

 握った。強い手。剣士の手。

「お前もな、ディオン」

「……次こそは」

「何度でも」

 ディオンが——笑った。初めて見た。ちゃんとした笑顔。口元だけじゃない。目が笑っている。

 ——こいつ、笑うとけっこう良い顔するじゃねーか。


    ◇


 打ち上げ。

 食堂が宴会場になった。勝ったワタルチームも、負けたディオンチームも、全員が集まっている。

 特別メニュー。魔獣肉の丸焼き。テーブルに載りきらないサイズ。フタバとガンが食べ比べをしている。ガンの方が早い。当たり前だ。

「フタバ、お前の拳すごかったな」

「でしょでしょ! フタバ、やる時はやるんだから!」

 ガルド先輩が「弟子が師を超えたか」と豪快に笑っている。

 リクトがシェルとデータを整理している。「今回の戦闘データは論文三本分の価値が——」リーネ先輩が隣で頷いている。

 ユウスケがルーク先輩と静かに杯を交わしている。二人とも無言。でも、互いに認め合った顔。

 リーシャがハルカと話している。「あなたの光の壁、助かったわ」「リーシャのソラとの連携も綺麗だったよ」。微笑み合っている。

 セリア先輩が俺の隣に座った。

「おめでとう。——ガレスが見たら、きっと喜ぶわね」

「……ありがとうございます、先輩」

 胸が痛んだ。でも——温かい痛みだった。


 ディオンが、俺の向かいに座った。

 丸焼きの肉を一切れ、皿に載せて。

「……ワタル」

 名前で呼ばれた。二回目。でも、今回の声は——全然違う。

「今日は——悔しかった。だが」

 肉を一口食べた。

「……悪くない」

 祭りの日と同じ台詞。でも、意味が違う。あの日は「カレーが悪くない」。今日は——

 全部が。この場所が。ここにいることが。

 悪くない。


 食堂の喧騒。笑い声。肉の匂い。魔素灯の温かい光。

 ノクスが俺の皿から肉を盗んだ。もはや恒例。

「おい!」

「クゥ!」

 ノクスがディオンの皿にも近づこうとした。ギンが翼でノクスを弾いた。ノクスが「クゥッ」と抗議する。ギンが冷たい目で見下ろしている。主人に似ている。

 ディオンが——声を出して笑った。初めて聞いた。


 敵だった奴が、隣で笑っている。

 ——こういうのを、友達って言うのかもしれない。

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