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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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六人

 六人目が、加わった。

 訓練場。朝の光の中で、リーシャが五人の前に立った。

 金髪が朝日に光っている。背筋はいつも通り真っ直ぐ。でも——目が、少しだけ柔らかい。

「……一人で戦うのは、もうやめた」

 短い言葉。でもリーシャにとって、それがどれだけ重い一言か——俺たちには分かる。

 王女。誰にも頼らず、一人で戦ってきた少女。食堂で一人。廊下で一人。訓練場で一人。

 その少女が——「やめた」と言った。

「やったー! リーシャちゃん!」

 フタバが飛びついた。

「ちゃんはやめてと何度言えば——」

「じゃあリーシャ!」

「……好きにしなさい」

 ——いつものやり取り。でも今日は、リーシャの口元が上がっていた。隠しきれないくらい。

 ユウスケが一歩前に出て、手を差し出した。

「よろしく」

 リーシャが少し驚いた顔をした。それから——手を取った。

「……よろしく」

 ハルカが微笑んでいる。リクトが「六人体制の戦術を再計算する必要がありますね」とノートを開いた。

 ノクスがリーシャの肩に飛び乗ろうとして、ソラに羽で叩き落とされた。ソラはリーシャの肩を誰にも譲らない。


    ◇


 六人の連携訓練が始まった。

 最初は——ひどかった。

「ワタル、右!」

「分かって——うわっ」

 リーシャの光剣とワタルの闇の剣がぶつかった。味方同士で。

「何やってるの!」

「そっちこそ!」

 フタバが炎を放ったら、ユウスケの風に煽られて倍の大きさになった。訓練場の木が燃えた。

「フタバ!」

「ユウスケ先輩が風を出すからー!」

「先にタイミングを合わせろ」

「リクト、指示出して!」

「全員止まってください。一度整理します」

 リクトが額を押さえた。シェルの甲羅が赤く点滅している。処理オーバーだ。

 

 だが——少しずつ噛み合っていった。

 リクトが各自の役割を最適化した。

 前衛:ワタル(闇の剣)+ユウスケ(風の剣)。二人は昔からの幼なじみ。言葉なしで動ける。

 遊撃:リーシャ(光の剣)+ソラ。空中と地上を自在に切り替える。

 火力:フタバ(炎)+ガン。突破力は六人中最強。

 回復+防御:ハルカ(光の壁)+ルミ。全員を支える要。

 司令塔:リクト+シェル。全体を俯瞰してリアルタイムで指示。

 そしてワタルの切り札:ノクスとの竜影剣。

「いい感じだ」

「いい感じですね」

 リクトと目が合って、二人とも笑った。


    ◇


 放課後。

 訓練場にまだ二人残っていた。

 リーシャとユウスケ。

 打ち合っている。本気の模擬戦。光の剣と風の剣。

 銀に金の光が走る。風が刃を纏う。二人の剣が交差するたびに、光と風の粒子が散る。

 美しかった。

 五十合を超えた。どちらも引かない。技量が拮抗している。

 ユウスケの風が加速した。リーシャの光が輝きを増した。

 最後の一合。同時に踏み込んで——互いの剣先が、互いの喉元で止まった。

 相打ち。

 二人とも息が荒い。汗が流れている。目が合う。

「……強いな」

 ユウスケが言った。こいつが他人を素直に褒めるのは珍しい。

「あなたもね」

 リーシャが返した。声に、いつもの冷たさがなかった。剣士として認め合った声。

 二人が同時に剣を下ろした。

 フェンリルとソラが、それぞれの主人の元に戻った。フェンリルがソラに小さく鳴いた。ソラが羽を少し広げた。召喚獣同士も、何かが通じたらしい。


    ◇


 食堂。

 六人で食卓を囲んだ。

 ——考えてみれば、リーシャが正式にここに座るのは初めてだ。今までは「たまたま来た」体だった。今日は最初から、ここに来た。

「新メニューだって。魔獣肉パイ」

 フタバがトレイを運んできた。ガンが後ろからフタバのパイを狙っている。「ダメ、ガン。フタバの分!」

 一口食べた。

「……ミートパイに似てるな」

「元の世界の?」ハルカが聞いた。

「ああ。コンビニで売ってたやつ。こっちの方がうまいけど」

「フタバはこっちの方が好き!」

「僕はどちらでも構いませんが、この肉の繊維質は地球のものとは異なりますね」リクトがパイの断面を観察している。食え。

 ユウスケが黙々と食べている。三個目に手を伸ばした。美味い時のこいつは大食いだ。

 リーシャがパイを一口かじった。

「……こんなに大勢で食べるの、初めて」

 小さな声。テーブルの喧騒にまぎれそうな声。

 でも——聞こえた。

「これからは毎日だよ!」フタバが即座に言った。

「……毎日」

 リーシャが呟いた。その言葉を、噛みしめるように。

 ソラがリーシャの肩で羽を畳んだ。安心したように。


    ◇


 午後。

 ハルカがリーシャを庭園に誘った。

「リーシャ、少し歩かない?」

「……なぜ」

「なんとなく。女の子同士で話したくて」

 リーシャは警戒した目をしたが——ついていった。

 庭園。花が咲いている。この世界の花は、元の世界にはない色をしている。青い薔薇。紫の百合。金色の小さな花。

「ねえ、好きな食べ物は?」

「……急に何」

「知りたいの。リーシャのこと」

 リーシャが戸惑った顔をした。誰かに「好きな食べ物」を聞かれたことがないのかもしれない。王女に、そんなことを聞く人間はいない。

「……果物のタルト」

「へえ。甘いもの好きなんだ」

「悪い?」

「全然。私も好き。今度一緒に食べよう」

 歩きながら、たわいない話をした。好きな季節。嫌いな授業。朝起きるのが辛いこと。

 ——リーシャが、少しずつ話し始めた。最初は一言二言。でも、ハルカが笑って聞いてくれるから。否定しないから。ただ「うん、うん」と頷いてくれるから。

「……友達って、こういうもの?」

 リーシャが呟いた。

「うん。こういうもの」

「……こんな、たわいない話をして。くだらないことで笑って。それだけ?」

「それだけ」

 ハルカが笑った。

「それが、一番大事なの」

 リーシャの目が——潤んだ。一瞬だけ。すぐに逸らした。でも、見えた。

「私、友達がいなかった。王女だから。誰も——こんな風に、話しかけてくれなかった」

「今はいるよ」

 ハルカがリーシャの手を取った。

「私がいる」

 リーシャが唇を噛んだ。泣きそうで、でも泣かない。この子のプライドが、涙を許さない。

 ——でも、手は握り返していた。


「何してるのー? フタバも混ぜて!」

 嵐が来た。フタバが走ってきた。ガンがのしのし後ろからついてくる。

「花冠作ろう! この花きれい!」

 フタバが金色の小さな花を摘み始めた。

「花冠……?」リーシャが眉を寄せた。「そんな子供じみたこと——」

「いいじゃない。やってみよう」ハルカが笑って花を摘んだ。

 三人で花冠を編んだ。

 ハルカは器用だった。すぐに綺麗な輪ができた。

 フタバは不器用だったが、勢いで完成させた。少しいびつだけど、元気な花冠。

 リーシャは——苦戦していた。

「こう……? 違う。こう……? なぜ崩れるの」

「ここを押さえて、こっちを通すの」ハルカが手を添えた。

「あ、できた」フタバが拍手した。

 リーシャの花冠は、少し歪んでいた。でも——ちゃんと輪になっていた。

 フタバがリーシャの頭に花冠を載せた。

「似合う! リーシャ、お姫様みたい!」

「……お姫様は事実よ」

「あはは! そうだった!」

 ハルカが笑った。リーシャも——笑った。花冠を載せたまま。金髪に金色の花。

 風が吹いて、花びらが舞った。


 三人の笑い声が、庭園に響いた。

 遠くから見ていた。

 ノクスが肩の上で「クゥ」と鳴いた。穏やかな声。

 ——いい景色だ。


 六人になった。

 今までより少しだけ騒がしくて、少しだけ心強い。

 明日から——六人で、前に進む。

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