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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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再起

 目が覚めても、天井を見るだけの日が続いていた。

 訓練場に立った。

 一週間ぶりだった。手に木剣を持っている。師匠にもらった木剣とは違う。あれは師弟対決の時に失くした。これは予備の一本。握りの感触が違う。でも——木剣は木剣だ。

 構えた。右足前。左足後ろ。膝を曲げて。腰を落として。

 ——振れなかった。

 構えた瞬間に、師匠の声が聞こえた。「足。腰。手首。全部ダメ」。

 目が熱くなった。

 

「おかえり」

 

 声。振り返ると、セリア先輩が訓練場の入り口に立っていた。腕を組んで。いつもの凛とした姿。

「……ただいま」

「一週間も休んで。体がなまってるわよ」

「すみません」

「謝らなくていい。——振りなさい」

 向き直った。木剣を構えた。

 振った。


 一回目。重い。腕が鈍っている。一週間の空白が体に溜まっている。

 二回目。軸がブレる。直す。師匠の声が聞こえる。「遅い。もう一回」。

 三回目。涙が落ちた。頬を伝って、石畳に落ちた。

 止めなかった。振った。四回目。五回目。六回目。

 泣きながら振った。

 師匠の顔が浮かぶ。酒瓶を持って笑っている顔。木剣を構えた時の鋭い顔。「しつこい奴だな」と言った時の呆れた顔。

 もう会えないかもしれない。死んだと言われた。信じたくない。でも——折れた剣が、現実を突きつけてくる。

 十回。二十回。三十回。

 涙が止まらないまま、素振りを続けた。

「剣は人を守るためにある」

 師匠の言葉が、腕を動かしていた。


 セリア先輩が、黙って見ていた。何も言わなかった。ただ、最後に一言。

「……ガレスが教えた剣は、生きてるわね」

 俺は答えられなかった。振るのを止めたら崩れそうだったから。


    ◇


 隣で、もう一人の素振りの音が聞こえた。

 ユウスケだった。

 いつから来ていたのか分からない。何も言わず、俺の横に立って木剣を振っている。フェンリルが足元で、静かに主人を見守っている。

「俺の師匠とお前の師匠は、旧友だったらしい」

 ユウスケが素振りの合間に言った。

「……そうだったな」

「二人とも、俺たちに同じことを教えた」

 振る。振る。二人の素振りの音が重なる。

「剣を振り続けろ、と」

「ああ」

「だから——振る。二人の分まで」

 ユウスケの声が少し震えた。でも剣は止まらなかった。

「……ああ」

 俺も止めなかった。

 朝日が昇った。訓練場がオレンジに染まった。二人の影が長く伸びた。

 師匠は隣にいない。でも——教えは、ここにある。


 ノクスが地面に降りて、小さな翼を広げた。口から——黒い炎が出た。小さい。蝋燭くらい。でも確かに、闇の炎。

「お前も、練習してたのか」

「クゥ!」

 力強い声。得意げに尻尾を振っている。

 こいつも——強くなろうとしている。


    ◇


 それから——時間が流れた。

 一週間。二週間。一ヶ月。二ヶ月。

 毎日振った。朝六時から夕方まで。セリア先輩との組み手。闇の剣の制御訓練。ユウスケとの模擬戦。

 闇の剣の維持時間が伸びた。三十秒だったのが一分に、三分に、五分に。闇の球の威力も上がった。二つ同時に出せるようになった。

 セリア先輩との模擬戦。

 踏み込む。闇の剣が銀の剣と交差する。受け流す。カウンター。セリア先輩の懐に——

 木剣の先端が、先輩の胸元に触れた。

 寸止め。

 初めて——一本取った。

「……やるじゃない」

 セリア先輩が目を見開いた。それから——笑った。嬉しそうに。

「ガレスが見たら、鼻高々だったでしょうね」

 胸が痛んだ。でも——痛みの中に、温かいものがあった。


 ランクがCの上位に上がった。掲示板の文字が変わる。もう「ランク外」と呼ぶ者はいない。

 仲間たちも成長していた。

 ユウスケの風が鋭くなった。フェンリルとの連携で、二人で一つの嵐になる。ルーク先輩が「もう教えることはない」と言ったらしい。

 ハルカの光が強くなった。回復だけじゃない。光の壁を展開して仲間を守れるようになった。ルミが一回り大きくなって、ハルカの肩から腕にかけて座っている。

 フタバの炎が制御されてきた。もうリクトのノートは燃やさない。ガンが成長して、フタバを背中に乗せて突進できるようになった。ガルド先輩が「俺を超えるかもしれんな」と笑った。

 リクトの解析精度が上がった。シェルとのデータ共有で、戦場の全体を俯瞰できる。「戦術の要」とリーネ先輩が認めた。

 リーシャの光剣が完成した。ソラとの空中連携で、三次元の攻撃ができる。

 六人と六体。全員が——強くなった。


    ◇


 ノクスが変わった。

 手のひらサイズだったのが、猫くらいの大きさになっていた。翼が広がると、ワタルの腕いっぱいくらいある。小さな角が頭に生えた。赤い目は変わらない。肉泥棒も変わらない。

 でも——闇の炎が強くなった。蝋燭サイズだったのが、松明サイズ。

 ある日の訓練で、偶然気づいた。

 闇の剣を振った瞬間、ノクスが同時に闇の炎を吐いた。

 二つの闇が——共鳴した。

 闇の剣の周囲に、ノクスの闇の炎が巻きついた。黒い竜の炎が剣を包む。威力が跳ね上がった。訓練用の魔法防壁が一撃で粉砕された。

「……何だ、今の」

「クゥ!」

 ノクスが得意げに鳴いた。

 リクトが目を輝かせてデータを取っている。「主人と召喚獣の闇属性が共鳴して威力が増幅される現象です。前例がありません」

「連携技だな。名前——つけるか」

 闇の剣に、黒い竜の炎が巻く。竜の影のような軌跡。

「竜影剣」

 ノクスが「クゥ!」と鳴いた。気に入ったらしい。


    ◇


 夕暮れ。

 学園の外れ。師匠の道場跡に立った。

 扉は開いたまま。中は埃だらけ。壁の木剣は誰かが回収したらしく、何本か減っていた。

 酒瓶が一本、床に転がっていた。中身は空。

 拾い上げた。ラベルが剥がれかけている。安い酒だ。師匠はいつもこれを飲んでいた。

 壁の写真は——まだあった。

 若い三人。ガレス。ロイド。エレア。笑っている。

 ——三人とも、もういない。

 エレアは国王の命で犠牲になった。ロイドは死んだ。ガレスは——

 分からない。死んだと言われた。でも——信じたくない。

 写真を見つめた。三人の笑顔。眩しいくらいの笑顔。

 師匠も、あんな風に笑っていた頃があったんだ。

 

 酒瓶を、道場の隅に置いた。

「……師匠」

 声が出た。

「師匠が教えてくれたこと、俺は忘れません。剣の振り方。闇の使い方。そして——」

 拳を握った。

「剣は人を守るためにある。それを忘れるなと」

 振り返った。夕暮れの空。オレンジの光。

 帰り道の丘の上の木の下で見た夕暮れと、同じ色だった。


 仲間が待っている。食堂で。いつもの席で。

 スープが温かいうちに、帰ろう。


 師匠はいない。

 でも、師匠が俺にくれたものは——全部、ここにある。

 右手に。仲間の中に。ノクスの炎の中に。

 ——前を向こう。

 止まっている時間は、もう終わりだ。

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