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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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彩青の迷宮

 彩青の迷宮。

 学園から馬車で一時間。山の中腹にある古代遺跡。三層構造のダンジョン。年に二回、実戦訓練として新入生が挑む。

 入口は六つ。チームごとに別々の入口から入り、それぞれ異なるルートで深層を目指す。最終的にボス部屋で合流する仕組みだ。

「一層は訓練用。弱い魔物しかいない。二層から本番。そして三層は——立入禁止だ」

 教官が全員を見回した。

「何があっても、三層に入るな。理由は聞くな。入るな。以上」

 念押しが怖い。

 六人一チーム。俺たちのメンバーは——ワタル、ユウスケ、ハルカ、フタバ、リクト、リーシャ。

 ガンが体を縮めた。魔素濃度が高い場所では召喚獣は魔素を消費して体格を調整できるらしい。子象サイズから大型犬くらいに。フタバが「ガン、ちっちゃくなった! かわいい!」とはしゃいでいる。ガンは不満そうに鼻を鳴らした。

 最強の六人、と自分で言うのは恥ずかしいが、バランスはいい。前衛にユウスケとリーシャ。回復にハルカ。火力にフタバ。解析にリクト。そして——俺は闇を纏った木剣で切り込む。

 別チームにディオンがいた。すれ違いざまに「先に攻略してやる」と言われた。

「望むところだ」と返した。ディオンの口元が微かに上がった。最近、あいつの「微かに上がる口元」が増えた気がする。


    ◇


 一層は順調だった。

 石の回廊。魔素灯が壁に等間隔で並んでいて、薄暗いが見通しは悪くない。

 最初の魔物——石の犬。三体。

「ユウスケ!」

「分かってる」

 ユウスケの風が一体を吹き飛ばした。フェンリルが横から飛びかかり、喉元に噛みつく。一体目、沈黙。

 リーシャが二体目に踏み込む。銀の剣が一閃。美しい軌道。首を断つ。ソラが上空から威嚇して、逃げ道を塞いでいた。

 三体目がフタバに向かった。

「はあっ!」

 フタバの拳が炎を纏って、魔物の顔面に突き刺さった。ガンが追撃の突進。二体分の衝撃で、三体目も崩壊した。

「やった!」フタバがガッツポーズ。

「敵の接近速度は予測通りです。次の部屋まで百二十メートル、右の通路を進みます」

 リクトがシェルのデータを読み取りながら案内する。シェルの甲羅がダンジョンの地図を表示している。

 ハルカがルミと一緒に全員の状態を確認。「怪我は——ユウスケ、右腕擦りむいてる」。白い光が傷を癒す。

 ノクスが俺の肩で周囲を警戒している。赤い目が暗闇の奥を睨んでいる。こいつは小さいけど、索敵能力が高い。闇の中が見える。

「よし、進もう」

 俺が先頭に立つ。——先頭に立つ必要は戦術的にはないけど、俺はそうしたい。


 一層は三十分でクリアした。


    ◇


 二層に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 重い。

 体にのしかかるような圧力。頭が締め付けられる感覚。眩暈。

「なんだ、この重さ……」

「魔素濃度が一層の三倍です」リクトの声が硬い。「シェルの数値が跳ね上がっています。慣れていない人は影響を受けます」

 魔素酔い。この世界の空気中に含まれる魔素が濃すぎると、体が拒否反応を起こす。

 フタバがふらついた。ガンが鼻でフタバの背中を支える。「大丈夫……フタバ、大丈夫だから」。顔が青い。

 ユウスケは平気な顔をしているが、額に汗が浮いている。ハルカがルミの光で全員を癒す。少し楽になる。

 リーシャだけは表情を変えない。さすがだ。

「進めるか?」

 全員を見た。五つの目が俺を見返す。

「進む」ユウスケ。

「もちろん」リーシャ。

「フタバ、平気!」フタバがガンの背中を叩いた。

「データ上は継続可能です」リクト。

「大丈夫。みんながいるから」ハルカ。

 ——頼もしい仲間だ。


 二層の魔物は格段に強かった。

 鉄の甲虫。体長二メートル。甲殻が硬く、ユウスケの風でも表面を削る程度。フタバの炎は甲殻を赤熱させるが、貫通しない。

「硬い……!」フタバがガンと一緒に後退する。

「弱点は関節部です! 甲殻の隙間を狙ってください!」リクトの声が飛ぶ。

 ユウスケが風で甲虫の動きを鈍らせる。リーシャが隙間を突いて剣を差し込む。一体目、沈黙。

 二体目が横から来た。フタバの炎で視界を奪い、ガンの突進で転がす。裏返しになった腹に——

「ワタル!」

「おう!」

 闇を纏った木剣で斬り込んだ。腹の柔らかい部分に刃が沈む。黒い光が弾けて、甲虫が内側から崩壊する。

「闇属性は甲殻貫通に有効です。想定通り」リクトが満足げに頷く。お前、これも計算してたのか。

 三体目はユウスケとリーシャの連携で処理。四体目はフタバとワタルの火闇コンビで粉砕。

 ——チームワークが噛み合っている。六人の役割が、パズルのように組み合わさっている。


 二層のボス部屋にたどり着いた。

 巨大な岩の魔物。高さ四メートル。全身が石でできている。目に当たる部分が赤く光っている。

「物理攻撃は効きにくい。核を破壊する必要があります」リクトが即座に解析した。「核は胸部の赤い結晶です」

「ユウスケ、風で動きを止めろ。フタバ、熱で表面を脆くしろ。リーシャ——」

「分かっているわ。私が斬る」

 俺が指示を出している。いつの間にか、そうなっていた。

 ユウスケの暴風が岩の魔物の足を縫い止めた。フタバとガンの炎が表面を赤熱させる。ひびが入る。

 リーシャが跳んだ。ソラが翼で風を起こし、リーシャの跳躍を加速させる。銀の剣が光を纏う——光剣。ひび割れた胸元に突き刺さった。

 だが——足りない。核に届いていない。岩が再生を始める。

「ワタル!」

 リーシャの声。

 分かってる。

 跳んだ。リーシャの剣が作った亀裂に、闇を纏った木剣を突き立てた。

 黒い光が岩の内部を走る。核が砕けた。

 岩の魔物が崩壊する。石の雨が降る。ハルカがルミと共に光の盾を展開して、全員を守った。

 

 静寂。

 砂埃が晴れる。全員無事。

「二層クリアだ!」教官の声が響いた。

 フタバが「やったー!」と叫んだ。ガンが鼻を上げて祝砲。もはや恒例になっている。


    ◇


「よし。ここで引き返——」

 教官の声が、途切れた。

 全員が振り返った。

 二層と三層を隔てる扉。分厚い石の扉。封印の紋章が刻まれていたはずの扉。

 ——開いていた。

 勝手に。内側から。

 扉の隙間から、黒い霧が漏れ出している。

 温度が下がった。はっきりと。吐く息が白い。二層の魔素濃度が更に跳ね上がった。

 フタバが「ひっ」と声を上げた。ガンが低く唸って、フタバの前に立った。

 フェンリルの毛が逆立っている。ルミがハルカの髪の中に潜り込んだ。シェルの甲羅が赤く警告を発している。ソラが甲高く鳴いた。

 ノクスが——俺の肩で毛を逆立てて唸っていた。こいつがこんな声を出すのは初めてだ。

「全員退避!」教官が叫んだ。

 遅かった。

 黒い霧の中から、それが現れた。

 影。

 影そのもの。形がない。輪郭がない。ただ黒い。底なしの闇が、生き物の形を取っている。目だけが赤い。血のような赤。

 今まで見たどの魔物とも違った。

 石の犬でも、鉄の甲虫でも、岩の巨人でもない。

 影。殺意だけで構成された、形のない化物。

 

 そいつが——俺を見た。

 赤い目が、俺の右手を見ていた。

 まるで呼ばれたみたいに。


 右手が、熱い。

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