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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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13/37

祭り

 学園祭。

 年に一度、三日間にわたって行われる。各クラスが出し物を準備し、騎士団の関係者や王都の住民も観覧に来る。一年で最も賑やかな行事。

 そして俺たちのクラスの出し物は——

「異世界料理の屋台、やります」

 俺が宣言した瞬間、クラスの視線が集まった。

「異世界? お前らの世界の料理ってこと?」

「ああ。この世界にない味を出す」

 ざわめき。「面白そう」「でも材料どうすんだ」「味は保証できるのか」。

 リクトが眼鏡を光らせて立ち上がった。

「材料リストと香辛料の配合比は算出済みです。この世界の食材で元の世界の味に最も近い組み合わせを、百二十七通りの中から選定しました」

「百二十七通りも試したの!?」

「計算上の話です。実測は十四通りで十分でした」

 フタバが手を挙げた。「フタバ、味見担当やる!」

 全部美味しいって言うだろ、お前は。


    ◇


 準備は三日間。

 魔素炉の火力調整にリクトが付きっきりになった。この世界の香辛料は元の世界とは微妙に違う。辛味の成分が強すぎたり、甘味が足りなかったり。

「ワタルさん、味見を」

 差し出されたスプーン。茶色いルー。見た目はカレーっぽい。

 口に含んだ。

「——お」

 カレーだ。完璧じゃない。フタバのお母さんの味には程遠い。でも——カレーだ。スパイスの奥にある、あの懐かしい味のベクトルがある。

「七十点。でも、すごいぞリクト」

「七十点ですか。八十点を目指します」

 フタバが横から味見して「百点!」と叫んだ。お前の採点は信用ならない。

 ハルカが味見して「……うん。懐かしい」と小さく笑った。その一言が、一番嬉しかった。

 ユウスケも食べた。黙って三口食べて、「もう少し煮込め」とだけ言った。分かってる。こいつの舌は正確だ。

 魔素炉の火力を落として、弱火で三十分追加。

 結果——八十二点になった。リクトが満足げに頷いた。


    ◇


 祭り当日。

 屋台の看板には「異世界カレー」と書いた。リクトの美しい文字で。

 開始と同時に——行列ができた。

「なにこれ、初めて食べる味!」

「辛い! でもうまい!」

「おかわりある!?」

 異世界の人間にとって、カレーは未知の味だったらしい。香辛料の組み合わせがこの世界にはないのだ。物珍しさも手伝って、あっという間に行列が伸びた。

 フタバがガンに乗って会場を練り歩いている。

「いらっしゃいませー! 異世界カレー、美味しいですよー!」

 子象サイズのガンの上に小さなフタバ。目立ちすぎる。でも宣伝効果は抜群だった。人が集まってくる。ガンがフタバの指示で鼻を上げると、赤い光が飛び出して空にハートマークを描いた。

「あの子可愛い!」「召喚獣すごい!」

 フタバのアイドル性が爆発している。

 ユウスケがカウンターで冷静に接客していた。「一杯三百ギル。おかわりは二百ギル」。淡々と。でも正確で丁寧。ルーク先輩がふらりと立ち寄って、何も言わずに皿を洗い始めた。「……頼んでないが」「……暇だ」。似た者同士は行動も似る。

 ハルカが接客の合間に、疲れた客にルミの光を当てていた。「お疲れ様です。少し回復しますね」。ルミの浄化と、ハルカの笑顔。カレーと癒しのセット。行列がさらに伸びた。

「ありがとうございます」「お疲れ様です」。ハルカの笑顔が効いている。カレーより、笑顔の方が集客力があるんじゃないか。

 ——行列の男子の何人かが、明らかにカレー目当てじゃない顔でハルカの前に並んでいる。食べ終わった皿を持ったまま、もう一杯頼もうとしている。お前もう三杯目だろ。

「あの光属性の子、めちゃくちゃ可愛くない?」「名前なんていうの?」「ハルカさん。転移者の」

 ……なんだろう。胸の奥がざわつく。

 別に怒っているわけじゃない。ハルカは俺のものじゃない。ただ——あいつら見すぎだろ。

「ワタル先輩、焦げてる」

 フタバの声で我に返った。フライパンの上の肉が黒くなっていた。


 問題は——ノクスだった。

 盗み食い。

 屋台に並べた肉を、調理済みの肉を、他の屋台の肉を——手当たり次第に奪って飛び回っている。

「ノクスーーー! 商品だぞそれ!」

 俺が追いかける。ノクスが翼をバタバタさせて中庭を飛ぶ。手のひらサイズのくせに速い。

「クゥ!」

 口に肉を咥えたまま、得意げに鳴くな。

 フェンリルが冷めた目で見ている。ルミがハルカの肩で目を丸くしている。シェルは微動だにしない。ソラが屋根の上から見下ろして、かすかに首を傾げた。「何やってるの」と言いたそうだ。

 最終的にフタバがガンの鼻でノクスを捕まえた。

「確保ー!」

「クゥ……」

 ノクスがしょんぼりしている。反省はしていない。


    ◇


 午後。行列が途切れた隙に、一人の客が来た。

 ディオン。

 銀灰色の髪。冷たい目。いつもの無表情。

 同じクラスなのに、準備の段階から一切手伝わなかった男。「くだらない」の一言で不参加を決め込んでいた。なのに——客として来るのか。

 カウンターの前に立って、屋台の看板を見ている。

「……異世界カレー」

「食ってく?」

 俺が皿を差し出した。ディオンが一瞬、怪訝な顔をした。ランク外の俺が気安く話しかけたことに。

 でも——皿を受け取った。

 スプーンで一口。

 沈黙。

「……こんなものが」

 二口目。三口目。四口目。

「……悪くない」

 小さな声。聞こえるか聞こえないかのギリギリ。皿は空になっていた。

「おかわりもあるけど」

「要らない」

 ディオンが背を向けて去っていった。

 ——皿は、綺麗に空だった。


    ◇


 夜。祭りの最後のプログラム。

 魔法の花火。

 教官たちが魔素を空に放つ。魔素が夜空で弾けて、光になる。赤、青、緑、金、紫。元の世界の花火とは違う。光の粒子が空中に留まって、ゆっくりと渦を巻く。螺旋を描いて消えていく。星空に光の花が咲いて、散る。

 きれいだった。

 五人で——いや。

 ふと、周囲を見た。リーシャの姿がない。食堂で一人だった時の横顔を思い出した。祭りの日も、一人でいるんだろうか。

「ちょっと待ってて」

 走った。会場の端。案の定——リーシャが一人で、建物の影から空を見上げていた。ソラが肩にいる。

「リーシャ」

「……何」

「一緒に見よう。花火」

 リーシャが目を見開いた。

「……なぜ」

「なぜって——きれいなものは、一人より誰かと見た方がいいだろ」

 手を差し出した。リーシャがその手を見た。数秒。長い数秒。

「……勝手にしなさい」

 手は取らなかった。でも——歩き出した。俺の隣を。

 戻ると、フタバが「あ! リーシャ!」と飛びついた。「一緒に見よう!」。ハルカが微笑んだ。ユウスケが小さく頷いた。

 六人で並んだ。

 リーシャが空を見上げている。光が金髪に反射して、宝石みたいに輝いている。

「……こういうのは、初めて」

 リーシャが呟いた。

「花火?」

「花火を……誰かと、見るの」

 王女として花火を見たことはあるだろう。でも——誰かと「一緒に」見たことはなかった。専用の観覧席で、一人で。臣下に囲まれて、でも一人で。

「えー! じゃあ来年も一緒に見よう!」

 フタバが即座に言った。空気を読むとか、遠慮するとか、そういうものがフタバにはない。だからこそ、この子は強い。

 リーシャが目を見開いた。それから——

「……勝手にしなさい」

 横を向いた。でも口元が、ほんの少し上がっていた。ソラが肩の上で羽を広げた。リーシャの感情を映すように。

 ハルカが穏やかに笑っている。ユウスケが腕を組んで空を見ている。リクトがノートに花火のスケッチを描いている。フタバがガンの背中に座って「きれー!」と叫んでいる。

 ノクスが俺の肩で「クゥ」と鳴いた。光を見て目がキラキラしている。

 ——この時間が、ずっと続けばいいと思った。

 六人と、六体の召喚獣と、光の花と、笑い声。

 永遠に続くはずのない時間。

 でも今はまだ——この瞬間が全てだった。


 光が空に舞う。みんなが笑っている。

 この景色を、俺は忘れない。

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