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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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召喚獣

 召喚獣契約の授業は、入学してから全員が楽しみにしていたものだった。

 この世界の騎士は、一人に一体の召喚獣を持つ。魔法陣を通じて契約し、一生のパートナーとなる。相棒。分身。命を預け合う存在。

「さあ、一人ずつ前へ。魔法陣に立ち、魔力を流せ。お前たちに応える存在が、必ず現れる」

 教官が講堂の中央に巨大な魔法陣を展開した。紫色の光が床に走っている。

「召喚獣には種族がある。だが名前はない。名前はお前たちが与えるものだ。名を与えた瞬間、契約が完了する。——一生を共にする名だ。よく考えて呼べ」


 次々と生徒が呼ばれていく。

 猫のような獣を召喚した男子が「よっしゃ!」とガッツポーズ。鷹を出した女子が腕に止まらせて誇らしげに戻ってくる。小さなトカゲに「え……これだけ?」と落胆する生徒もいた。

 教官がそれぞれの種族を説明する。「戦闘型」「支援型」「希少種」。希少種が出ると歓声が上がり、一般種だとため息が漏れる。

 ——全員が、何かを召喚できていた。全員。


 最初にユウスケが出た。

 魔法陣の中に立つ。目を閉じる。風が渦を巻いた。緑色の光が溢れる。

 光の中から、影が現れた。

 狼だ。白銀の毛並み。鋭い碧の目。体高はユウスケの腰くらい。精悍で、凛々しくて——美しい。

 狼がユウスケと目を合わせた。二人とも動かない。二秒。三秒。

「風狼。極めて珍しい希少種だ!」

 教官の声が上ずった。講堂がざわめく。

 ユウスケは狼の目を見たまま、迷いなく呟いた。

「……フェンリル」

 隣で聞いていて思った——こいつ、なんでその名前が出てくるんだ。でも、他の名前は想像できなかった。フェンリルが静かに頭を下げた。契約成立。似た者同士。寡黙で、強くて、隣に立つだけで信頼できる。


 次にハルカ。

 魔法陣が白く輝いた。光属性の光。温かい。

 光の中から出てきたのは——ふわふわの白い小動物だった。手のひらに乗るサイズ。丸い目。柔らかそうな毛。

「光精霊。回復と浄化に特化した支援型だ」

「可愛い……!」

 ハルカが両手で受け止めた。小動物がハルカの肩に登って、髪の中に潜り込んだ。

「きゅう」

 小さな声。ハルカが目を細めた。

「……ルミ。あなたの名前、ルミ」

 ハルカがそう呼んだ瞬間、ルミが「きゅう」ともう一度鳴いて、ハルカの首元に頬を寄せた。光るから——ルミ。ハルカらしい名前だと思った。

 フタバが「フタバも触りたい!」と手を伸ばしている。


 フタバの番。

 魔法陣が赤く燃えた。火属性。轟、と低い音がした。

 現れたのは——大きかった。子象くらいある。灰色の肌。太い四本足。額に赤い宝石が埋まっている。象に似ているが、もっとゴツい。岩を固めたような体だ。

「岩炎獣。攻撃と防御の両面をこなす万能型だ」

「わー! おっきい!」

 フタバが見上げた。その巨体が——太い鼻をフタバに押し当ててきた。ぐりぐりと。

「あはは、くすぐったい! ——よし、お前はガン!」

「早いな」教官が苦笑した。

「だって見た目がガンって感じだもん! ね、ガン!」

 ガンが「ブオォ」と鳴いた。了承らしい。フタバとガン。サイズが正反対。でも、なぜか合っている。


 リクト。

 魔法陣が茶色く光る。静かに。穏やかに。

 現れたのは亀だった。甲羅の直径が三十センチくらい。甲羅の表面に、青白い光の線が走っている。データのような紋様。

「地鑑亀。解析と探知に特化した知性型だ」

「興味深い……」

 リクトが眼鏡を押し上げて覗き込む。亀は動かない。甲羅の紋様がちかちかと点滅している。

「データを蓄積する甲羅……。シェル。お前の名前はシェルだ」

 シェル。データの器。リクトらしい命名だった。シェルは微動だにしない。相性抜群だ。


 リーシャ。

 魔法陣が金色に輝いた。眩いほどの光。

 現れたのは鳥。鳳のような翼。金と白の羽根。気高く、美しく——高い場所から全てを見下ろすような目をしている。

「鳳鳥。偵察と空中戦に秀でた希少種だ」

 リーシャの腕に止まった。二人とも、まっすぐ前を見ている。似ている。立ち姿が。

「ソラ」

 リーシャが静かに言った。空を翔ぶ者。それだけ。短く、迷いなく。リーシャらしかった。

 ソラがリーシャの肩で羽根を整えている。まるで「当然」とでも言うように。


    ◇


 そして——俺の番だ。

 魔法陣の中央に立った。足元で紫の光が回っている。

 ——魔力を流せ、と言われた。でも俺には魔力がない。属性がない。ランク外。

 目を閉じた。

 集中する。何を集中すればいいのか分からないけど、とにかく集中する。右手に意識を向ける。あの光が宿る場所に。

 一秒。五秒。十秒。

 何も起きない。

 魔法陣は紫のまま。光は変わらない。何の反応もない。

 講堂がざわめき始めた。

「やっぱりダメか」

「ランク外だしな」

「召喚獣も出ないとか……」

 隅でディオンが鼻で笑うのが見えた。

 拳を握った。もう一度、集中する。右手に力を込める。何かがあるはずだ。あの夜、俺を守った力。リーシャの前で弾けた光。

 ——来い。

 頼む。

 俺には、何もない。でも——お前がいてくれたら。

 

 右手が、熱くなった。


 魔法陣の色が変わった。紫から——漆黒に。

 講堂の空気が変わった。温度が二度下がったような感覚。全員が息を呑んだ。

 黒い光が魔法陣から吹き上がる。渦を巻く。天井まで届きそうな闇の柱。

 その中心に——何かがいた。

 小さい。手のひらに乗るくらい。

 黒い鱗。小さな翼。細い尻尾。赤い瞳。

 ドラゴン。手のひらサイズの、黒い小さなドラゴン。

 闇の柱が消えた。

 ドラゴンが——俺の肩に降りた。

 軽い。子猫より軽い。でも、温かい。小さな爪が制服の肩に引っかかって、ちょこんと座った。

 赤い目が、俺を見ている。まっすぐに。

 講堂が凍りついていた。誰も動かない。誰も声を出さない。

「黒い……」

「闇の……召喚獣……?」

 教官も動揺していた。記録を確認している。

「これは……前例がない。闇属性の召喚獣など、記録にない」

 ——記録にない。俺だけ。世界で、俺だけ。

 肩の上で、小さなドラゴンが「クゥ」と鳴いた。

 甘い声。高い声。こんな小さいのに、さっきの闇の柱を出したのか。

「……よろしくな」

 名前が浮かんだ。なぜか、最初から知っていたような気がした。

「ノクス」

 ノクスが「クゥ」ともう一度鳴いた。俺の首に小さな頭を擦りつける。

 温かい。

 禁忌の闇。世界に記録のない召喚獣。——でも、この温もりは本物だ。


    ◇


 放課後。中庭が動物園みたいになっていた。

 フェンリルが木陰で寝そべっている。ユウスケがその背中に手を置いて、同じように目を閉じている。完全に一体化している。

 ルミがハルカの髪の中で昼寝している。ハルカが動くたびにもそもそ動く。「くすぐったいよ、ルミ」。

 ガンの上にフタバが座っている。「進め! ガン!」「それ乗り物じゃないだろ」とガルド先輩が突っ込む。ガンは嬉しそうに歩いている。

 シェルは動かない。リクトが甲羅のデータ紋様を手帳に写している。「データの更新速度が素晴らしい」。シェルの沈黙がリクトの賛辞に聞こえる。

 ソラは校舎の屋根の上にいる。高い場所から全員を見下ろしている。リーシャが中庭の端に座って本を読んでいる。ソラとリーシャ。どちらも高い場所が好きらしい。


 そして——ノクス。

 こいつは問題児だった。

 食堂で俺の皿から肉を奪った。手のひらサイズのくせに、自分の体の半分くらいある肉を丸飲みにした。

「おい! 俺の肉!」

「クゥ」

 悪びれていない。赤い目がキラキラしている。肉が好きらしい。

 フェンリルに近づいたら睨み合いになった。フェンリルが低く唸る。ノクスが翼を広げて威嚇する。体格差は百倍くらいあるのに、一歩も退かない。

 三秒後、じゃれ合いに変わった。フェンリルの尻尾にノクスが飛びついている。ユウスケが「放っておけ」と言った。

 ガンの頭の上に乗ろうとして、ガンに振り落とされた。フタバが「ノクスー! 大丈夫ー!?」と拾い上げた。ノクスはフタバの手の中で「クゥ」と鳴いた。

 ルミに近づいたら、ルミがハルカの髪の奥に隠れた。ハルカが「ノクス、怖がってるよ」と笑った。ノクスがしょんぼりした。


 ——こいつ、可愛いな。


    ◇


 夜。寮の自室。

 ベッドの上で横になっていると、ノクスが俺の胸の上に乗ってきた。小さくて温かい。呼吸に合わせて体が上下する。

 赤い目が、俺を見ていた。

 ——その目が。

 ふと、変わった。

 さっきまでのキラキラした目じゃない。肉を奪った時のいたずらな目でもない。

 悲しそうだった。

 深くて、静かで、何かを知っているような目。

「なんだよ、その目」

 ノクスは答えない。言葉を喋れない。ただ、小さな頭を俺の手に擦りつけた。ぐりぐりと。

「……何か言いたいのか?」

「クゥ」

 小さな声。甘い声。でも——寂しい声に聞こえた。

 気のせいだろうか。今日会ったばかりの召喚獣に、何が分かるというんだ。

「まあ、いいや。一緒に寝ようぜ」

 ノクスの頭を指で撫でた。ノクスが目を細める。小さな体が、俺の胸の温もりに沈んでいく。

 すぐに寝息が聞こえた。

 俺も目を閉じた。


 黒い小さな竜が、俺の胸で眠っている。

 闇の召喚獣。禁忌の属性。世界に一体しかいない。

 ——でも、こいつの温もりは、本物だ。

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