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【全62話完結済み】幼なじみと異世界転移したら俺だけ禁忌の闇属性だった——だけど、この力の代償を俺はまだ知らない  作者: 夕凪航


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魔物

 警報が鳴ったのは、深夜二時だった。

 甲高い音が寮中に響いた。魔素灯が赤に変わる。緊急事態を示す色。

 飛び起きた。心臓がバクバクしている。隣の部屋からフタバの悲鳴が聞こえた。

「何!? 何なの!?」

「落ち着け」

 ユウスケの声。冷静だ。こいつはどんな時でも冷静だ。

 廊下に出ると、生徒たちが寝巻きのまま走り回っている。教官の声が響く。

「全生徒、寮から出るな! 結界を突破した魔物が侵入している! 繰り返す、寮から出るな!」

 魔物。学園の結界を破って入ってきた。

 フタバがリクトの後ろに隠れている。ハルカが窓の外を見た。

「——見て」

 中庭に影が走っていた。巨大な影。四足の獣。赤い目が暗闇の中で光っている。転移した夜に遺跡で見たやつと似ている。あの時より——大きい。

「教官たちが対処するはずだ」ユウスケが言った。「俺たちは待つべきだ」

 正しい。それが正しい判断だ。ランク外の俺が出て行っても邪魔になるだけだ。

 ——でも。

 中庭の反対側に、もう一つの影が見えた。

 人影。一人だけ。魔物に向かって走っている。

 金色の髪が、月明かりに光った。

「リーシャ……!」

 体が動いていた。


    ◇


 寮の窓を蹴破るように飛び出した。——嘘だ、普通にドアから出た。でも速かった。

 中庭を走る。石畳を蹴る。夜風が冷たい。

 前方で、剣戟の音。金属と何かが衝突する硬い音。

 リーシャが一人で戦っていた。

 銀の剣が月光を反射して弧を描く。速い。鋭い。朝の模擬戦の比じゃない。本気の剣。

 魔物が唸る。爪を振り下ろす。リーシャが横に跳んで避ける。着地と同時に斬り返す。刃が魔物の前脚を掠めた。黒い血が飛ぶ。

 強い。リーシャは強い。

 ——でも、一人だ。

 魔物は一体じゃなかった。

 二体目。建物の影から飛び出してきた。リーシャの背後。死角。

「危ない!」

 俺の声にリーシャが振り返った。——遅い。二体目がもう跳んでいる。

 俺は走った。間に合え。間に合え。間に合え。

 間に合った。

 リーシャと魔物の間に、体をねじ込んだ。木剣を構える。魔物の爪が振り下ろされる。

 受けた。

 衝撃。体が吹き飛んだ。石畳の上を転がる。木剣が折れた。半分になった木の棒が手に残っている。背中が痛い。息ができない。

「来るなと言ったでしょう! ランク外のあなたじゃ——」

 リーシャの声。怒っている。でも——震えている。

 石畳に手をついた。指が震える。立て。立て。

 膝が笑っている。口の中に血の味がする。視界がぐらつく。

 ——立った。

 足を引きずって、リーシャの前に戻った。二歩。たった二歩が、百歩より重い。

 魔物が二体、俺たちの前にいる。赤い目が四つ、こっちを見ている。

 木剣は折れた。武器がない。力もない。ランク外。何もない。

 ——でも。

 俺の後ろに、リーシャがいる。

 退くわけにはいかない。


「来いよ」


 声が出た。震えていた。でも、出た。

 魔物が跳んだ。同時に二体。

 ——右手が、熱くなった。

 前にも感じた熱。指先から腕全体に走る電流のような衝撃。でも今回は——前より強い。ずっと強い。

 弾けた。

 黒い光。

 俺の右手から放たれた光が、夜の闇を裂いた。漆黒の閃光。矛盾している。黒いのに、光っている。闇が、光として弾ける。

 魔物が二体とも、空中で動きを止めた。金縛りにあったように。

 一秒。二秒。

 その隙に、銀の軌跡が走った。

 リーシャ。

 二閃。二体の魔物が同時に崩れ落ちた。

 静寂が戻った。


    ◇


 膝をついた。力が抜けた。右手が痺れている。黒い光の余韻が、指先でちりちりと残っている。

 足音。教官たちが駆けつけてきた。「大丈夫か!」「怪我は!」

 リーシャが「問題ありません」と答えた。いつもの冷たい声。でも、俺を見下ろす目は——さっきと違っていた。

 教官たちが魔物の処理を始めた。生徒を寮に戻す指示が飛ぶ。喧噪の中で、俺とリーシャだけが取り残された。

 月明かりの廊下。二人で並んで座っている。壁にもたれて。さっきまで戦っていたのが嘘みたいに、静かだった。

 リーシャが口を開いた。

「……ありがとう」

 小さかった。蚊の鳴くような声。プライドが邪魔しているのが丸分かりだ。

「聞こえない」

「……二度は言わないわよ」

 俺は笑った。リーシャが横を向いた。耳が赤い。月明かりでも分かる。

 しばらく沈黙が流れた。虫の音と、遠くで教官たちが話す声だけが聞こえる。

「あの黒い光」

 リーシャが静かに言った。

「何なの、あれ」

「……分からない」

 正直に答えた。本当に分からない。

「でも——お前を守れたなら、いい力だ」

 言ってから、「お前」呼ばわりしたことに気づいた。王女に。

 リーシャが俺を見た。怒るかと思った。

「……変な人」

 怒らなかった。むしろ——少しだけ笑った。口元が、ほんの少し上がった。

 月明かりの廊下で、王女が笑った。たぶん、この学園で誰も見たことのない顔だ。


    ◇


 翌朝。食堂。

 テーブルについた瞬間、ユウスケが隣に座った。いつもより近い。

「あの黒い光」

 小声。周囲に聞こえないように。

「コントロールできてないだろ」

「……分かってる」

「昨日の、転移の夜より強かった。加速してる」

 ユウスケの目が真剣だった。いつもの無表情の奥に、心配の色がある。

「あれが何か分からないまま使い続けるのは——危ない」

「……ああ」

「一人で抱えるなよ」

 ユウスケが俺の肩を叩いた。軽く。でも、その一瞬に全部が詰まっていた。

 お前は一人じゃない。何があっても、俺はここにいる。言葉にしないけど——ユウスケの「肩を叩く」は、そういう意味だ。

「……ああ。ありがとう」

「礼は要らない。——ただ、無茶はするな」

 無茶をするなと言われても。昨日、リーシャの前に飛び出した瞬間、頭は何も考えていなかった。体が勝手に動いた。

 ——守りたいと思った時、体が動く。それが俺の唯一の取り柄かもしれない。

 でもユウスケの言う通り、あの光が何なのか分からないまま使い続けるのは危ない。

 右手を見た。

 何かがいる。この手の中に。眠っている。少しずつ目を覚ましている。

 それが何なのか——まだ分からない。

 でも。

 分からないことが、少しだけ怖くなくなっていた。


 右手の奥で眠っている何か。

 それが目覚めた時、俺は——何になるんだろう。

はじめまして。

本日より連載を開始しました、新人の**夕凪ゆうなぎ わたる**と申します。

数ある作品の中から、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。

この物語は、読者の皆様に「世界で一番美しい夕暮れ」と、その裏にある「切ない代償」を届けるために、全62話、すでに結末まで書き上げております。

処女作ではございますが、途中で更新が止まることは絶対にありません。最後まで、緻密に設計した「感情の波」をお約束します。

もし少しでも「この先の展開が気になる」「世界観が好きだ」と思ってくださったら、下の【ブックマークに追加】をポチッと押して、ワタルたちの旅を最後まで見守っていただけないでしょうか。

皆様のブックマークひとつが、新人作家である私にとって、何よりの執筆の原動力になります。

明日からは**【18:00】**に毎日更新します。

あとがきまで読んでいただき、本当にありがとうございました!!

また「あの丘」でお会いしましょう!

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― 新着の感想 ―
まず言わせてください、めちゃくちゃ面白い! ランク外のはずなのに、何かがおかしい。そして王の反応、リーシャの変化……全てが繋がるときに何が起こるのか 本当に続きが楽しみです ブクマも☆も入れさせて頂…
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