【第2部】第19話:黒い瘴気を身に纏い
背後に聞こえる爆音。
遠くに見える大型の魔法陣。
目に入るもの全てを、シャルロッテは脳内で否定し続けた。
大切なものが蹂躙されるイメージ。
破壊される大切なもの。
それは全て幻想であると、必死に言い聞かせる。
ただ一心不乱に馬の腹を蹴り、荒れ果てた街道を当てもなく駆け続けていた。
やがて夜が明け、かつての魔法陣も見えなくなる。
それでも、彼女の脳内には『彼』の声が響いていた。
『自分だけ幸せになるのか。復讐は忘れてしまったのか』
幻聴だ。わかっている。
最愛の師は、そんなことは決して言わない。
いつも肯定し、背中を押してくれた父であり、愛しい人。
だが、並走する馬の影の中に、あるいは木々の隙間に、愛してやまないクラウスの姿がはっきりと見えた。
「違う! わたくしは、先生のことを片時も……!」
『エリオの言葉に、君は温かさを覚えた。師を殺したことを忘れ、自らはぬるま湯につかることを選んだ』
幻影のクラウスは、優しく、ひどく残酷な笑みを浮かべる。
『ひどい裏切りだ。ひどい裏切りだ。何のためにその力を授けたというのか。ウラギリダ――』
「あああああああっ!!」
シャルロッテは絶叫し、手綱を手放して馬から転げ落ちるように地に這いつくばった。
違う。違う、違う、違う!
幸せなどいらない。温もりなどいらない。先生のいない世界で、わたくしだけが平穏を得るなど、絶対にあってはならない。
胸の奥底で溶けかけていた角砂糖を、自らの手で粉々に砕き、無理やり泥水で満たしていく。
綺麗に分離した液体に、両手をぶち込み、ごちゃごちゃに混ぜていく。
混ぜれば混ぜるほどに、シャルロッテの心は壊れ、深く深く、闇へと落ちていく。
「おい、見ろよ。こんないい女が、一人で転がってやがる」
下卑た笑い声と共に、草むらから十数人の野盗が姿を現した。
戦乱に乗じて略奪を繰り返す、ハイエナのような男たちだ。
戦闘地域からは遠く離れたこの安全地帯には、既に多くの野盗が潜んでいる。
だが、彼らがその欲望を満たす時間は、一秒たりとも与えられなかった。
シャルロッテの影から這い出た異形の思念体は、無言のまま野盗たちの四肢を引きちぎり、瞬く間に肉塊へと変えていく。
返り血を浴びても、彼女の表情は微塵も動かなかった。
(壊せ壊せ壊せ壊せコワセコワセコワセコワセコワセ)
シャルロッテの異形は肉塊と馬を飲み込むと、そのまま彼女を包みこんだ。
黒い瘴気を全身にまとった騎馬兵。
まさにダークナイトと呼ぶべき姿に変わったシャルロッテは、さらに道を駆ける。
街道をひた走り、やがて




