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英雄の系譜  作者: 松葉
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第二話:理不尽な判決

大規模改稿作業完了しました!

 聖都エリュシオンの大法廷。

 重厚な大理石で囲まれた法廷は、傍聴に詰めかけた市民たちで埋め尽くされていた。



 それもそのはずである。

 十年前に終結した魔族との百年戦争。その戦争の勝利に大きな貢献をした英雄達――神聖騎士団・第四部隊の裁判が、まさに終わろうとしているのだ。




「主文――」

 裁判長が、重々しい声で判決を読み上げていく。




「……魔術協会最高幹部、メルクリウスの暗殺。いかに相手が長年対立してきた組織の重鎮であろうと、決して許される凶行ではない。罪状を鑑みるに、本来は死刑が妥当である。だが、百年戦争に多大なる貢献をした第四部隊の武功に免じて減刑とし、神聖騎士団第四部隊の解体、および構成員全員の国外追放とする」




 冷酷な判決が、告げられる。

 



 市民たちのざわつきの中、第四部隊の隊長クラウスは、手をグッと握りしめていた。

 


 証言台に並ぶ証人たち……。

 


 この作戦を命令した神聖騎士団総長のヴァレリウス。

 そして、その命令を聞いていた各師団長たち。

 


 全員が揃いも揃って虚偽の証言をしたことで、クラウスたちの有罪が決定的となった。

 雪原でのメルクリウスの最期の言葉が、クラウスの中で繰り返される。



(嵌められた……)

 



 百年戦争時、何度も彼らの窮地を救ってきた。

 部下と共に死地に入り、多くの無理難題をこなしてきた。


 その結末がコレか……。



 戦争が終結した後、『英雄』は不要になった。

 英雄の仕事は、『平和を守る』ことから、平和な世の裏で『手を汚す』ことに変わってしまった。



 魔族の扱う強大な魔法。

 その魔法に対する最強の切り札であった『クオリア』の力は、大戦が終結して十年が経った今、敵となる魔族がいなくなったことで、無用の長物に成り下がった。


 犠牲になった多くの仲間のため、そしてこの国の脆い平和を守るためだと信じて、数々の汚れ仕事を引き受けてきた。


 だが、その結果がこれだ。


 聖王国最強の魔術師集団と呼ばれた魔術協会・クリスト派。

 そのトップであるメルクリウスの暗殺。


(第四部隊が適任の任務であることに間違いはないと言っていたが、クーデターを画策していたからではなかったのか!)



「ヴァレリウス総長!」



 ざわつく会場の騒音を吹き飛ばすように、クラウスの怒声が法廷に響いた。



「メルクリウスはクーデターを画策していたのではなかったのか! 貴様に言われた通りにやった! なぜ、嘘をつく!」


「黙れ、クラウス」

 ヴァレリウスが、氷のように冷たい声でクラウスの訴えを遮った。



 その目には、長年汚れ仕事を担ってきた部下への思いなど微塵もない。あるのは、ただの『政治的な打算』だけだった。



「仮にそのような噂があったにせよ、推測の域を出ない段階で独断専行し、凶行に及んだ罪は重い。クーデターの証拠とやらも、貴様らが罪を逃れるためにでっち上げた偽造品だという、魔術協会の厳正なる鑑定結果が出ている」

「……ッ!」



 クラウスの横に座っていたヴァルグが、獣のような低い喉を鳴らした。


「白々しいこと言ってんじゃねえぞ、総長! あんたが俺たちに『殺せ』って言ったんだろうが! ふざけんな!」

「静かにせよ、愚か者! これ以上、見苦しい嘘を重ねて騎士団の品位を汚すなら、武功への温情も取り消さねばならなくなるぞ」



 ヴァレリウスの表情は微動だにしない。

 裁判官や評議員の貴族たちも、まるで結果を知っていたかのように朗らかな表情を浮かべていた。



 クラウスは理解した。これは、出来レース。第四部隊は、政敵の処分として使い捨てられる運命だったのだ。


 厄介な政敵であるメルクリウスを俺たちに殺させ、その後に残った利権を神聖騎士団と魔術協会のセーニャ派で分け合う。



 ヴァルグだけではない。

 第四部隊の他のメンバー、カミラ、バルガスも必死に怒りを抑えていた。


 やろうと思えば、この場にいる騎士も、魔術師も、ふんぞり返る貴族たちも、数分で皆殺しにできる。

 

 それをやらないのは、まだ『英雄』としての自覚が残っているからに他ならない。

 ここで止めなければ、歴史に汚名を残すことになってしまう。




 クラウスは、ふぅと息を吐き、第四部隊のメンバーたちへ深々と頭を下げた。


「本当に、すまない……」


 カミラが、ポンポンとクラウスの肩を叩く。

「隊長、気にしないでいいって。いつの時代もさ、英雄ってこんなものじゃない?」

 

 バルガスも腕を組み、ゆっくりと頷く。

「うむ。どちらにせよ、ここにわしらの居場所はない。ちょうど良かったということだろう」




 守るべき国は、もうここにはない。

 絶望的な劣勢の中で剣を握り、泥と血にまみれて戦い抜いた。多くの仲間が死んだ。彼らの犠牲の上に成り立った尊い平和は、腐敗という名の蛆虫に食い荒らされ、とうの昔に死に絶えていたのだ。




 クラウスら、第四部隊の面々は、席を立つ。




 衛兵が止めようと近付いてきたが、圧倒的な殺気で近付くことすらできなかった。



「希望通り、ここを出ていく。自分の足で、ここを出ていくのだ」




 最強の英雄たちは、守るべきものを自ら捨て、祖国を背にして大法廷の重い扉を開け放つ。

 聖都エリュシオンの淀んだ風が、頬を撫でた。




 これが、英雄の落日。

 そして――後に世界の全てをひっくり返すことになる、物語の始まりである。

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