【第33話】 教えて、クローディア先生 その2
「消えたわ」
「ええ、うまく私の特殊能力が発動したってことよ」
うまくできたんだ。
できるか半信半疑だったけど、ちゃんと私にもできてちょっとうれしい。
うれしいけど。
「クローディア、木刀どうやって取り出すの?」
もっともな疑問を口にする。
「簡単よ。今度は木刀を見えないロッカーから取り出すイメージをしてみて」
「分かった。こうかな?」
私はさきほどの感覚に従い、右腕を肩まで上げると、木刀を引っ張り出すイメージで腕を手前に引っ張った。
すると右手にはすっぽりと木刀が収まっていた。
「上手上手、これでいつでもその木刀は桃華の意思で出し入れできるわよ。それじゃ、それを仕舞って、少しでもなにか食べなきゃね。はい、ウェットティッシュ」
「うん、ありがとう。それじゃ遠慮なくいただきます」
どこからともなく現れた目の前のウェットティッシュで軽く手を拭き、宙を浮くゴミ箱に捨てる。
「はいどうぞ」と渡された菓子パンを頬張る。
メロンパンの中にチョコが入っておりとてもおいしい。
もらったイチゴジュースを適度に飲みながら、空腹感を埋めていく。
「本当はお弁当や果物を用意したいんだけど、生物は異空間でも腐っちゃうし、果物は有機体だから異空間に入れることができないの。ごめんなさいね」
「ううん、そんなことない。食べ物を戴いているのにケチなんて付けられないわよ」
「そう? よかった。まだまだ、菓子パンはあるから遠慮なく食べてね」
「うん、ありがとう」
とはいっても、一つ目の菓子パンだけでも結構、おなかが膨れた気がする。
菓子パンて見た目に反して、カロリーとっても高いのよね。
せっかくだし、受け取ったもう一つも戴くことにする。
こっちはジャムパンだ。
中に入ってる甘いジャムとイチゴジュースの組み合わせは――なかなかのものだった。
まずいわけではないですよ?
廊下に立って食事を取るのも含めて、周囲に浮かぶゴミ箱やらナイフやらがとても、さっきまで歩いていた同じ廊下とは思えない様相に仕上がっている。
ごっくんと喉を鳴らし終えると、
「ごちそうさまでした」
と、食事を終えた合図を送る。
「はい、お粗末さまでした。それじゃ、行きましょう。私の『異空間固定』の説明と実演は終わったから、最後は特殊能力についてね」
クローディアがパチンと指を鳴らすと、今度は周囲にあったナイフやゴミ箱が一瞬で消えていた。
「特殊能力だけど、これは魔法アイテムのルールみたいなものね。魔法アイテムの容量があれば魔法が使える人の一部のスキルを付与できたりするの。その付与されたスキルが特殊能力って呼ばれるのよ」
「すごい機能だね。それじゃ、この木刀にたくさんの特殊能力を付与したら、私でもすごい魔法使いになれるのかな?」
「う~ん、そううまくいかないのよ」
クローディアが少し困った顔をした。
「確かにその木刀も桃華もポテンシャルは通常の魔法使いとは一線を画しているけど、桃華は魔法をいつ使えるか分からないでしょう? その木刀も特殊能力のルールからはさすがに逸脱できないの」
「ギフトのルール? まだあるの?」
「ええ、魔法アイテムに付与されたスキルは成長しないの。私の魔法の初歩的な一端しか発動できないから付与した『異空間固定』のスキルはその木刀を異空間からの出し入れしかできないわ」
「なんかすごい代物なんだけど、すごくない気がしてきたわ」
「あら、そんなことないわよ。だって、スキルをたくさん詰め込めればどんなに弱くても応用力は無限に広がるわよ」
「あ、やっぱり弱いんだ」
「それはやはり、木刀だしね。けど、スキルに関しては殺傷力なんかより使い道は多々あるわよ? 『理想郷の鐘』のメンバーにあったら付与をお願いしてみるといいわよ。今からすぐに会うしね」
「……お願いきいてくれるかな?」
まだ会ったことない人ばかりだ。
同じ世界の人間と分かっていても、緊張する。
「大丈夫よ。みんなの人柄はリーダー以外は保障するわ」
人柄を恋人にも保障されないリーダーって、この世界のことも踏まえるといろいろと世紀末なリーダーだわ。
もう最初の部屋に着くころだろうか? そう考えてた矢先に、クローディアが足を止めた。
「桃華、いい? 今から大事なことをいうけど、覚えておいてね」
「え? な、なに? クローディア」
振り返ったクローディアの真剣な表情に思わず、気圧されながら返事する。
「天使もそうだけど、私たちの組織内でも油断してはダメよ。特にブラックフォースのメンバーには!」
「味方なのに?」
「味方なのにです。味方であるからこそ、とても頼もしくあり、とても恐ろしくもあるのですから」
クローディアの声は私の身を案じているのがとても伝わった。
味方内でも一癖も二癖もある人物がいるのは、あのリーダーからして仕方ないかも。
どんな組織だって一枚岩ではないのは、ある意味お約束かな。
「桃華、誤解がないように言いたいのですが、リーダーのせいでそのような忠告をしたわけではないのですよ? あの連中はリーダーだからこそ手綱を握れているのですから」
まるで私の心を読んだ上での指摘にドキっとする。
「あのリーダーの第一印象からすれば、しっかりしたイメージは持ちにくいですからね。それでも、これから行くところでは桃華は絶対にリーダーの側から離れてはいけませんよ?」
「ええ、分かったわ」
「よろしい! では、部屋に入りましょうか」
クローディアが私が最初にいた部屋のドアを開けた。




