【第31話】 魔法アイテム
あらためて、自分がとんでもないなことに足を踏み入れようとしているのが分かる。
実質、これから向かうメンバー全員とはまだ顔を合わせてないけど、私がお荷物なのは火を見るより明らかだ。
戦うかどうかは別にして、護身用の武器くらいは持っていた方が良いかもしれない。
「ありがとう、クローディア。けど、私にも扱えるものはあるかしら? あまり重たいのもだけど、銃とか使ったこともないし不安なんだけど」
「そうね。ここにあるのはどれも魔法アイテムだから天使の障壁は貫通できるので、その点は問題ないけど、銃の扱いは訓練しないと味方にも被害が出るから消去法で行くと…………この辺りになるかな」
クローディアが案内してくれた一覧には、ショーケースの中に色鮮やかな物から毒々しい感じのナイフが綺麗に陳列されていた。
「後ろにもあるわよ」
後方のショーケースには西洋から東洋と幅広いさまざまな刀剣の数々が豪華な鞘に納まっており、どれも美術館の展示会で並べてあれば否応にも人目を惹き付ける物ばかりに思える。
見るだけなら自分はもちろん、誰にも危害を加えることはない。
けど、今回は護身を目的としている。
確かに自分の身を守るのに、これほど適応する物はないだろう。
手の中に収めるだけで相手に十二分な威圧を与えることはできる。
だけど、私は刃傷沙汰は御免被りたい。
「クローディア、もうちょっと控えめなのがいいかな。スタンガンとかないの?」
「スタンガンはないわね。何より、桃華はそれが使える距離までに無事でいられることはないでしょう」
冷静な分析結果が、私の背筋を凍らせる。
「私のお薦めはこれ! まだら幻蝶の毒が練り込まれたナイフ。かすり傷でも負わせれば速攻性の毒で体の自由が奪える優れものよ」
クローディアが一つ一つのナイフをショーケース越しに指差して解説を熱弁してくる。
「いや、そういう物騒なのじゃなくて……ん?」
私の視線がショーケースの一番下にある茶色い物を捉える。
「これ? 木刀? なのかな?」
「ええ、木刀ね。霊験あらかたな神木で彫った一品ってリーダーから聞いたことあるわ」
「リーダーが?」
申し訳ないけど、あの人が絡んだ瞬間、本当にすごい物だったとしても胡散臭いものに見えてくる。
けど、少なくとも、これなら周囲にある刃物より相手の命を奪う確率は一番低そうだ。
「私、この木刀がいいわ」
私の発言が、よほど斜め上をいったのかクローディアが素っ頓狂な声を出した。
「ちょっと、桃華正気? これじゃ相手を仕留めることなんて簡単にはできないわよ。もっと致命傷を与えやすい物にするべきだわ」
「ううん、これがいい。リーダーがいうには有難い木刀なんでしょ? 私もこれがなんか不思議な力を秘めてるように見える。なんか……魔法が早めに使えそうな予感……がする」
適当なことをデッチ上げる。
不思議な力どころか京都の修学旅行でよくあるお土産の一品にしか見えない木刀だ。
だけど、こうでも言わなきゃ本当にクローディアに押し切られて殺傷性の高い物を持たされる羽目になる。
「そ、そうなの? なんかリーダーだけの言葉だけだと……正直に言うとね? 胡散臭いものにしか見えなかったんだけど、桃華が言うとなんか私もこれが不思議な力を秘めてるように見えてきたわ」
クローディア、ごめんなさい。
完全にうそです。
適当に吹いてます。
良心の呵責に苛まれるもなんとか刃物系は回避でき、ショーケースから出された木刀を受け取る。
うん、どっからどう見てもただの木刀だ。
クローディア、私がいうのもなんだけど自分の感性を信じてあげて。
「え? や、やっぱり桃華はすごいわ」
「?」
クローディアが私の手の中にある木刀と私を交互にみる。
なにがすごいのかしら?
「武器はこれでいいわね。あとは身を守るための装飾品が欲しいわね。ちょっと待ってて」
クローディアはそう言って奥の方へ消えていく。
「あった。これこれ」と声が聴こえると、小さな箱を持って戻ってきた。
クローディアがその箱をパカッと開ける。
中には小さな一対の紫色のイヤリングが入っていた。
「桃華、これを身に着けて」
「これは?」
「それはスペルガードの魔法アイテムよ。これがあれば多少の魔法から身を守ってくれるわ。ただ、あまりにも強力な魔法を受けると壊れるし物理的な攻撃には無効だから注意してね」
話を聞くだけでも、とても便利そうなアイテムに聞こえる。
「いいの? なんかすごい便利な物に聞こえるけど、これって結構、貴重品じゃないの?」
「気にしなくていいわよ。貴重だからって温存するより、必要なときに友達を守ってくれた方が私も上げるかいがあるしね」
「これ? クローディアのイヤリングなの? そんなのなおさらもらえないよ」
「いいからいいから。さっきも言ったけど、これから桃華が向かうところは本当に地獄のような場所だから、私からの餞別っていうのも変だけど御守りとして持っていってよ」
私はクローディアの気持ちに感謝して、イヤリングを手に取る。
「私が着けてあげるね」と言う言葉に甘えて、クローディアに渡した。
「これでヨシと。はい、鏡。似合っているわよ」
クローディアがコンパクトでかわいらしい手鏡を私に向ける。
イヤリングを着けるのは初めてだけど、そのせいだろうか? 鏡に映る私は少しだけ大人っぽく見えた。
昨日、トトさんからもらった金のアミュレットも合わせて、急にアクセサリーを着ける機会が増えてきた気がする。
「ありがとう、クローディア。大切にする」
「うんうん。そう言ってもらえると上げたかいもあるもんだ」
心なしかクローディアの言葉遣いも固さがなくなってきてる気がする。
少女のようなしぐさも含めて、こっちが彼女の素なのかもしれない。
「あら? 桃華が右腕に着けてる金のアミュレット……なにか不思議な感じがするわね」
「これ? 昨日、トトさんからもらったの?」
「トトから!? ちょっと見せて」
「ええ、いいけど」
私は腕からアミュレットを外し、クローディアに渡す。
クローディアはまるで鑑定士のようにさまざまな角度からアミュレットを舐めるように見る。
う~んと呻き、しばらく動きを止めるとはぁっとため息を漏らした。
「う~ん、トトが絡んでいる以上、なにかの魔法アイテムなのは間違いないと思うんだけど、どんな効果があるのか私には分からないなぁ。あいつなら分かるかもしれないけど」
トトさんからもらったこのアミュレットも魔法アイテムだったんだ。
どんな効果があるのか私も聞いてないけど、きっと呪いとかではなくプラスな面での効果があるとトトさんの天使柄から推測できる。
「……ねぇ、桃華これ調べてみたいから預かったりするのはダメかな?」
「もらい物だから、それはちょっと。クローディアだって私がさっきもらったネックレスを人に預けたらいい気がしないでしょ?」
なによりそんなことしたら、トトさんを傷つけてしまう。
「そうね、そんなことされたら傷つくかな。けど、なにか気になるのよね」
クローディアはアミュレットをあらゆる角度で、眺めたり、撫でてみたりしているが、アミュレットにこれといった変化は訪れなかった。
「……まぁ、桃華の話を聞いた限りだと、何度か危ない目にあったりしてたみたいだし、桃華の身を守るために魔法アイテムを渡したってところなのかな。ちょっと信じられないことだけど」
「きっと、そうよ。トトさん、優しいし」
クローディアは「そう」と返事すると、私の手にアミュレットを戻す。
「装備品はこんな感じかな。あら、もうこんな時間だわ。思ったよりここに長居していたわね」
原因は隙あらば行われたクローディアのナイフの懇切丁寧な説明会にあると思うけど、ツッコまないのがお約束でしょう。




