【第30話】 ここで装備していきますか?
「それじゃ、早速だけど武器庫に行きましょう。桃華は魔法が使えないわけだし、せめて身を守る武器くらいは持っておかないとね」
クローディアがついて来てと、部屋のドアを開ける。
誘われるままに、クローディアの後に続き、部屋の外に出る。
すると窓一つない青いタイルでできた廊下に出た。
こっちよ、と先を歩くクローディアの背中を追う。
青白い蛍光灯の明かりと足音がやけに響く廊下から鬱屈とした印象を受ける。
「なにかの施設みたいな感じのところだね」
「実際、施設のようなものよ。リーダーは俺たちの秘密基地だ! って、はしゃいでるけど私もいま桃華が持ってる印象と同じものを抱いてるわ」
はぁっと、ため息をクローディアがつく。
一つ一つのしぐさが艶めかしい。
思わず、オネエサマと呼んでしまいそうだ。
「桃華」
「はい、オネエサマ」
あ! 呼んじゃった。
「お姉さまって、まぁ、いいわ。正直に白状するとね、最初は同じ世界の人間を助けるためと奇麗事を並べたけど、いえ、事実、それもあるのだけど、それだけの理由ではアルフェルから助け出そうとはしなかったでしょうね」
「本来ならアルフェルがこの街に来ること事態が例外中の例外なの。桃華、あなたという存在がアルフェルを私たちを動かしたのよ」
「私がみんなを動かした?」
クローディアのいうことがイマイチ、ピンと来ない。
「リーダーも言いましたがあなたは特別です」
特別。
たしかにリーダーから特別と呼ばれたけど、私としては魔法も使えないわけで、完全記憶能力なんていう私たちの世界でも超能力といえそうなものも私は持ちえてない。
良くも悪くも普通の女の子というのが悲しいほどの私の認識だ。
「今までで見たこともない魔力の渦、いいえ、嵐が桃華から観測されてるのですから、当然、私たちはあなたを保護するために、この街に来ましたがアルフェルたちも恐らく、同じ理由でこの街に先に来ていました」
「それってつまり、クローディアもアルくんも私がこの世界に来ることを知っていて、保護してくれようとしたってこと?」
「そうです。ただ、今回のアルフェルたちの行動は予測外でしたが……桃華を保護しようにも先にアルフェルが接触をされたのも誤算でした」
この世界の最初に接触したのがクローディアたちだったら、また違った出会いになっていたのかな。
―――――― ダメだ! あのリーダーが話しかけてきたら、怪しさ満載で初めてアルくんと出会ったとき同様、ダッシュで逃げるオチしかみえない。
「真っ向勝負などしたら勝ち目はありませんので、桃華には悪いですが、私たちはあなたのことを諦めました。アルフェルたちは間違いなく災厄となるあなたを殺しに来たと思いましたから」
クローディアの言葉からは遠回しに見殺しにしたと告げられた気がした。
「だけど、あなたは生きていてくれた。私たちはそれがとてもうれしかった。だからこそ、今回はなんとしてもあなたを救いたかった。ただその一心でリーダーたちはあなたを助けに向かったのです」
その言葉が真実だと切実でひたむきな表情で語るクローディアの透き通った声が耳にスーッと入ってくる。
「桃華にとっては大きなお世話だったでしょうが、どうかリーダーたちの気持ちも汲んであげてくださいね」
罪悪感はないとクローディアは言っていたが、さすがに自分たちが私の最大の目的を妨害したと感じてるのか、やりきれない負い目を感じてるように見える。
「ううん、気にしないでって言うのも難しいかもしれないけど、さっきも言った通り元の世界の人たちに会えたのは私にもうれしいことだから。それにみんなのアルくんたちの誤解を解くチャンスかもしれないし」
「それはないわね。誤解も何も真実は一つしかないんだから」
取り付く島もないくらいに言い切られる。
居心地悪い空気が閉鎖的な廊下と相俟って憂鬱な気分を押し付けてくる。
「ごめんなさいね。この話はとりあえず、いったん終わりましょう」
「あ! いえ、こちらこそごめんなさい」
確かにこの話はこれ以上ここではしない方がいいかもしれない。
多分、それは建物内にいるみんなに対してもいえるだろう。
わざわざ、自分から地雷原に踏み込むこともない。
「着いたわよ」
五分ほど歩いただろうか? クローディアはセキュリティカードみたいなのを財布から取り出すと、部屋の施錠を管理しているっぽい機械に差し込む。
ピーッと電子音が小さく響くと、部屋のドアが自動で開いた。
「あのクローディア」
「なに?」
「この世界でも元の世界と同じくらいに科学が発展しているのね」
「みたいね。他のメンバーも同じようなことを言っていたわ」
「みたいってどういうことです?」
「私がこっちの世界に来たのは今から十二年前、七歳の頃だったわ。だから元の世界が私がいた頃から、どう発展しているのか分からないの」
十二年前、そんな昔からこの世界にいたなんて。
私はアルくんの力や魔法という超常的な力ですぐに帰る方法は見つかると思っていたけど。
じわりと胸の内側に不安が淀む。
いけない、今は妹のことだけに集中しよう。
「ただ、こっちの技術は元の世界より劣っているけど魔法アイテムが大きく、それを凌駕しているってこの機械を作った人が言ってたわね」
「魔法アイテム?」
聞いたことない単語が出てきてた。
「百聞は一見に如かずよ。この武器庫にそれがあるから、桃華に合うものを選んでいきましょう」
どうぞと中へ入るように促されて、武器庫へ足を踏み入れる。
そこは部屋中に武器とよべるものが揃っていた。
拳銃やゲームの設定資料集で見たことある剣などが壁に掛けられてたり、ショーケースの中に納まっていた。
「すごい! まるでゲームの武器屋さんみたいですね」
「ゲームの武器屋がどんなのか分からないけど他の支部と比べても、ここは豊富にそろっているわ」
まるでゲーム内での武器屋にいる店員さんのようにクローディアが説明してくれる。
「桃華は日本人だし……手裏剣なんてどう? 刀もいいわね。ニンジャは首をはねるのが得意なんでしょう? たしか女性のニンジャはクノイチっていうのよね?」
「いや~、私には無理かな~」
そもそも武器を持って戦うってことが突拍子すぎて、ついていけない。
「そう? 似合うと思うのに」
「あの、クローディア? 私、戦ったりするのはちょっと……」
「え? そ、そうよね。戦うわけじゃないのよね。ごめんなさい。ただ、それでも護身用にはなにか持って行った方がいいわ。これから桃華が向かうところはリーダーも言った通り、地獄のような場所よ」
地獄のような場所。
リーダーは天使がいるのに地獄のような場所と表現してた。
地獄といえば鬼や閻魔大王を連想するのに、なんで天使なんだろう。
普通、天国ではないのかしら?
「捕まれば、間違いなく人生が終わる。桃華は女性だから、なおさら危ないの。キツイ言い方になるけど、もっと危険意識を持って!」
ごくりと生唾を飲む。
あのフランクに襲われそうになったときのことを思い出した。




