【第25話】 自称リーダーとの出会い
「……ここは? どこ……?」
冷たい空気が私の肌を刺し、冷えた酸素が肺に流れ込む。
次第にぼんやりとした視界と意識が色を持ち始める。
そこは見知らぬ場所で、私の知っている場所ではないのをおなかに残る鈍痛がイヤでも教えてくれる。
何者かに誘拐されてしまった事実を。
とりあえず、簡易ベッドから身を起こし、周囲を見回してみる。
それほど広くなく取立て特徴がないのが特徴ともいえる部屋だ。
私以外だれもいない。
出入り口の扉は一つ、開いているのだろうか? いずれにせよ、ここで時間を費やす訳にはいかない。
アルくんたちにも心配を掛けてるだろうし、行動しなくては。
扉へ移動しようとする矢先に、コツコツと足音が聞こえてきた。
私を誘拐した人だろうか? それとも? 足音の目的地はこの部屋なのか、どんどん近づいて来て、やがてガチャリと扉の施錠を外した音が響くと、ギギィと扉が開き、足音の主が現れた。
「……お! うぇーい! 気が付いてんジャン! 気分は……テンサゲってか。オイオイオイオイ、そんなに怖い顔して睨むなよ。手荒に扱っちゃったみたいだけどよ、おまえのためでもあるんだぜ?」
部屋に入ってきたのは、私の知らない人間だった。
赤を基調にしたジャケットに、所々が破れた青いマント。
黒髪の短髪に中肉中背の体系、典型的な日本人男性がそこにいた。
その中で特に目を引く要素が一つ、この人――首輪が付いていない。
野良ということなんだろうか? それにしてもこの人、初見の印象としては、なんかチャラそうな感じだ。
馴れ馴れしいし。
「シカトかよっと。オイオイ、言葉のキャッチボールくらいしようぜ。和気藹々《わきあいあい》は無理でもよぅ、とりま名前くらいは教えてくれてよくね?」
「……人に名前を尋ねる前に、自分が名乗るのが礼儀じゃないの?」
「お! ハイキタ! キャッチボール成立しそうな予感。いいねいいね~。そして、テンプレな返しもありがとう的な。言わせてみたかったんだよね~」
なんだろうこの人、なんかむかつく!!
「んじゃ、名乗らせていただきますかい。やあやあやあ、遠くの者は音に聞け。近くば寄って目にも見よ。我こそは人間の自由と解放を誓いし『理想郷の鐘』がリーダー、音無 響夜。『紅焔と蒼炎の魔術師』とは、あ! 俺様のことよ!!」
「………………」
「ふっ、俺の正体に驚きが隠せないのかい? 子猫ちゃん」
なにかの決めポーズなのか表現しづらいポーズを取ってこちらを見てるんだけど、もう突っ込んでいいですかね?
「あなた、何歳?」
「えっ? あ、十八だけど?」
私の冷えた口調に虚取りながら、彼は質問に答える。
「そう、私より年上ね。私は悠久 桃華。子猫ちゃんじゃないのでよろしく。あと、あくまで善意で言わせてもらうけど、チャラ男で廚二病でナルシストがリーダーってあなたの配下の人たちは不安な毎日を送っているんじゃないの?」
グサグサグサと言葉の棘でも刺さったのか、彼は小刻みに体を痙攣させた。
なんだこの細かいリアクションは。
しかも、半べそをかいている。
これはちょっと、面白いかも。
「いや、ちょい前にかち合った天使側の人間が取っていたポーズがマジッべエーカッコよくてマネたんだけど~……ダメぽよ?」
「人のマネをすぐにするなんて、リーダーなのにポリシーがないんですね。分かります、分かります。主体性がないリーダーってホントに配下の人たちは不安だろうなぁ」
だ~んっと派手な音を発てて、彼はまるでなにかに殴られたかのように吹っ飛んだ。
ヤバイヤバイヤバイ、なんだこのリアクション王は! 面白すぎる。
まだまだ、っと言わんばかりに彼はむくりと起き上がろうとしている姿を見ると、はやくはやくと急かしたくなる。
なにかイケナイものが覚醒めそうな予感の中で次の弱点の提供を待っていると、
「もうやめてあげて! リーダーのライフはゼロよっ!!」
バンッと、扉が開かれ、新しい人物が部屋に飛び込んできた。
「おお、クローディアたん。俺は俺はっ! チャラ男で廚二病でナルシストでその上、ポリシーがないダメンズリーダー的な存在?」
クローディアと呼ばれた女性が彼を助け起こし、優しくあやすようにささやいた。
「大丈夫ですよ、リーダー。ダメなんてことはありません。チャラ男で廚二病でナルシストですよ? 十分なポリシーではありませんか。昔、日本の友人からそれらは三種の人棄という素晴らしいモノだと聞いたことあります」
感想。
頭が痛くなるようなせりふをはく変な人だ。
ここは変人の集まりなんだろうか? そして、励まされた彼はむくむくと起き上がると。
「フェニックスのごとく、ふっか~~~つ」
声高々に叫んだ。
「だよね~! チャラ男で廚二病でナルシスト、十分なポリシーじゃね的な? この俺のリーダーポジを疑ってもらっては――」
「痛々しいわね」
「ぐはっ」
バッサリと斬り伏せてやった。
「ちょっと、あなた! この人、チャラ男で廚二病でナルシストな上に、メンタルも弱いんだからあまり苛めないでくれる?」
クローディアと呼ばれた女性が私を咎めてきたけど、そちらこそ傷口に塩を塗るような発言な気がする。
「お、俺はチャラ男で廚二病でナルシストでメンタルも弱い、苛められっこなリーダーだったん……なにそれ、へこむわ~」
しおしおとへたり込むところを彼女が支える。
このやりとり、いつまで続くんだろ?
「ポリシーはありますよ。人間の自由と解放という強い信念を持っているでしょう? 頼りになりますし、仲間思いで高いカリスマ性も持っている私たちの自慢のリーダーですよ」
「マジサンクス……クローディア、おまえだけだぜ。そう言ってくれるのはよ」
――クローディアさんしか言ってくれないって組織のリーダーとしてヤバイと思うんですけど、ここはツッコむのを我慢して、話を進めよう。
「……聞きたいことが山ほどあるんだけど、いいかしら?」
「おう、いいぜ! 何でも聞いて――」
「なにかしら? 質問の内容によっては、答えられないものもあるけど、それでも構わないならどうぞ」
彼をずいっと奥へ押し出し、クローディアさんが代わりに返答した。
――涙を誘うほど哀れだ。
「ありがとう。クローディア……さんでいいのかしら? 私は悠久 桃華。とりあえず、よろしくでいいかしら?」
「ええ、その呼び方で構わないわ。あらためてクローディア=ファーファリスよ、よろしく。そして、ようこそ『理想郷の鐘』へ。悠久 桃華、歓迎するわ」
艶然とほほ笑みながら握手を求めてくるクローディアさん。
年齢は私より少し年上だろうか? 亜麻色のショートヘアに、青い瞳。
そして、白銀のような真っ白い肌は、白と青のコントラストのドレスで包まれていて、まるでフランス人形のようだ。
どことなく雰囲気がトトさんに似ており、知的な印象を受ける。
誘拐犯の仲間に違いないんだろうけど、敵意は感じられない。
私は素直に握手に応じた。
「よろしく、クローディアさん」
「クローディアで構わないわ。あと、誘拐にも近いマネしていうのもなんだけど、私たちはあなたの敵ではないわ」
「私も桃華と呼んでください。……クローディア、どうして、あなたたちが私の敵ではないといえるのですか?」
「私もリーダーもそして、あなたを誘拐した人間もあなたと同じ世界の人間だからよ。こちらの世界、『エデン』でも人間はいるけど、人間であることの誇りを持っているのは異世界から来た私たちくらい」
誇り、愛玩動物であること、家畜であることを拒むこと。
それはたしかに人間という自分の尊厳が確立している人間であれば持ちえるものだろう。
「……まぁ、例外もいるけど。実際に誇りと呼べるものを自覚できたのはこの世界に迷い込んだおかげともいえるけどね。そして、桃華、あなたにも人間としての誇りを持っているように見える。人種は違えど、同じ世界の仲間を勧誘するのは一種の本能だともいえるわね」
「それはなんとなく分かります」
私たちは群れる生き物だ。
こんな異境で同じ仲間が孤独で彷徨っていれば手を差し伸べたくもなる。
居場所がない世界で、少しでも互いに孤独を忘れるために。
「理解してくれて嬉しいわ。桃華、あなたの認識に合わせて私たちは誘拐と表現したけど、私たちには誘拐という罪の意識はないし、むしろ、仲間を救出したという清々しい気持ちに満たされてるわよ」
クローディアの表情には、実際に悪い事をしたという罪悪感ではなく、目標を達成した時のような満ち足りた表情が浮かんでいる。
奥でうん、うんと頷いているリーダーもどきにも。
「それはどういう意味ですか?」
「そのままよ。額面通りの意味。悪い天使の元からお姫様であるあなたを助けたってだけよ」
――ムカッとした。
アルくんたちを絶対悪と決め付けたような言葉にも、大きなお世話としか言えない自己満足にも。




