【第16話】 友達の条件
――そう考えれば、アルくんが私に首輪を着けさせようとしたことも、トトさんの行為も納得がいく。
私を守るために、主が愛玩動物を守るために首輪を付け、躾を教える。
私の世界でも大切なことだ。
証明を忘れれば、社会の適用項目から外され、規定を破れば人間からペナルティーを科せられることもある。
それに部屋に案内されるときに話したトトさんの言葉。
「トウカ、あなたの世界にも愛玩動物がいたのでしょう? もし、あなたのご両親やあなたの尊敬に値する方があなたに『犬に服従し、誠心誠意、丹精こめて尽くせ!』と言われたらどういたします?」
私がこの言葉を考えた通りに翻訳すればトトさんは、
『アルくんに愛玩動物である私に服従し、誠心誠意、丹精こめて尽くせ!』と命令を受けている状態なんだろうか?
正直、私は犬に対して、服従するなどできないだろう。
例え、父さん、母さんに言われようとも。
人の持つ尊厳を蔑ろにする命令には従えない。
けど、この考えも人間だけが持つ価値観で独善的なものな気がする。
私の世界では言葉というコミュニケーションが取れて、関係を構築できるのが人間だけだからこそ霊長類として、世界を征服している。
目的を言葉で共有し、臨機応変に行動し適材適所で個性を活かし、人間自身さえも滅ぼしかねない装置や兵器を利便性や交渉の手段として有する人間は世界最強と謳っても過言ではないだろう。
この世界でも科学は同じ、ううん、私の世界以上に発展しているように見える。
なら同じ条件を満たし、魔法という未知なる力、さらに翼という神秘的な要因も含めて、人間の上位の存在『天使』がこの世界を支配していると見るのが自然にでる答えだ。
いずれにしても私は犬に服従することはエゴといわれようともできない。
だけど、友達にはなれる。
犬の言葉は解らなくても、意思の疎通は取れる。
心は豁然と開け、一切の煩悶を片付け、私は取る行動を定めた。
私はトトさんの質問への返答を胸にしまいこんだ――と同時に睡魔に襲われ、うとうとと抗うこともなく眠りについた。
――どれくらい眠ったのだろう。
コンコンとドアをノックする音で目が覚めた。
急ぎ、「は~いっ」とドアを開けると、そこにはトトさんがいた。
「お待たせいたしました、トウカ。食事の準備ができましたので、食堂までご案内いたします」
そう告げるとスタスタと先陣を歩いていくトトさんの後を急いで付いて行く。
寝起きだから、身嗜みに時間を欲しかったけど、トトさんはそのようなことを言わせない空気を醸し出している。
足早に先を行くトトさんの背中から私は声を掛けた。
「トトさん、さっきの問い掛けだけど」
「さっきのと、言われますと?」
こちらを向かずに声だけ返ってくる。
「私の父さん、母さんが私に愛玩動物に対して服従し、誠心誠意、丹精こめて尽くせって言われたらどうするのかってはなしですけど」
「………………」
「私は服従もしないし、そんな指示には従わないでしょう」
――沈黙、廊下に足音だけが響き渡る中で、トトさんは「そうですか……」とだけ言葉をはいた。
「けど」
「……けど?」
鸚鵡返しにトトさんが聞いてくる。
「友達としてなら対等に精神誠意、心を込めてささいなことでも笑いあえる仲になります。例え、姿形、言葉が通じなくても、想いは伝わりますから」
「……そうですか。それがトウカの答えですか」
トトさんが立ち止まり、クルリとこちらを振り向く。
体の反転に合わせて、スカートも一緒になびく様はとても扇情的で蠱惑的だ。
トトさんの青い瞳に映る私は真っすぐにトトさんと向き合っている。
苦手意識は凍結済み、むしろ、払拭する理由も心には付与済みだ。
一度目のあのときはトトさんのこと、少しも分からなかった。
けど、良くも悪くもトトさんの言葉は着飾っても、芯は真っすぐだ。
だからこそ、今なら多少は理解できる気がする。
この天使は本当にアルくんのことが大好きで大事で何があっても守る母親のような存在なのだ。
意思の疎通は可能。
なにより、最大のコミュニケーションである会話ができるんだ。
人間の利点であり私の長所、思いを言葉に乗せるのはいつだって行動だ!
「だから、トトさん。私とお友達になってよ」
「!!!」
驚いた表情をしていた。
一度目の時、以上に。
――私の方をジッと見ていたトトさんは会釈後に、クルリと再び反転し、目的地へ歩き出す。
またしても、いい返事がしてもらえなかったか、と落ち込む私に
「……考えさせてください」と小声でトトさんが呟いた言葉を一言残さず、私の耳を通して脳に記憶した。
一度目と同じ返答だけど、私の気持ちは伝わった気がした。
多少でも一歩前進できてたらいいな。
そんなことを考えながら、トトさんの後を付いていくつかの階段を下りていく。
目的地である食堂前の扉でトトさんに「どうぞ」と先を促され、それに従い扉を開けた。




