1-3:食い違うページ数
「とりあえず、拾得物としての基本データを記録しておこう。廃棄するにしても、一応リストには載せないといけないからな」
三嶋は事務作業のルーティンに戻るため、パソコンの管理画面を開き、本の仕様をメモすることにした。定規で縦横のサイズを測り、最後にページ数を数える。
ペラり、ペラり、と、湿って硬くなった黒いページをめくっていく。
やはり、どのページをめくっても、あの奇怪な歪んだ文字が余白を残さず、びっしりと敷き詰められていた。
挿絵や図形のようなものは一切ない。ただ、黒いインクのような文字だけが、狂ったように並んでいる。
「……よし、最後。これで終わりだな。ぴったり、128ページだ」
三嶋はキーボードを叩き、『総ページ数:128』と入力した。
「ん? 待てよ」
横でノートに文字のスケッチを取っていた白井が、怪訝そうに顔を上げた。
「128ページ?
そんなはずはないだろう。僕もさっき、君がめくるのを横で見ながら、大体のページ数を頭の中で数えていたが……。
131ページあったはずだぞ」
「は? 何言ってるんだよ。
俺は今、1枚ずつ指で押さえて確実に数えたんだぞ。
ほら、もう1回数えてやるよ」
三嶋は少しイラつきながら、再び本の最初のページに指をかけた。
「1、2、3、4……」
白井は無言で、三嶋の指先をじっと見つめている。
狭い事務室の中に、紙が擦れる硬い音だけが規則正しく響く。
その音が、なぜかいつもより大きく、耳障りに響いた。
「……126、127、128。ほらみろ、終わりだ」
最後のページをめくり終え、三嶋は白井の顔を見た。
「128ページだろ? お前の数え間違いだ」
だが、白井は納得のいかない表情で、自ら本をこちらへ引き寄せた。
「おかしいな。僕の目が狂っているわけがない。貸してくれ、今度は僕が数える。君も横で見ていてくれ」
白井はピンセットを使い、三嶋よりもさらに慎重に、1枚1枚をめくり始めた。
「1、2、3……」
三嶋は冷めた目でそれを見ていた。
白井の指先は確かに1枚ずつページを捉えている。二重にめくっているような様子は微塵もない。
三嶋も白井の指に合わせて、頭の中で数を刻む。
「……128」
三嶋が頭の中でそう呟いた瞬間。
白井の指は、まだ止まらなかった。
「129、130、131。……ほら見ろ。131ページだ」
「はあ?
お前、どこかで数え間違えたんだろ。嫌がらせならやめろよ」
三嶋は身を乗り出した。
信じられない。
自分の目には、さっき確かに128ページで終わりに見えた。
なのに、白井がめくると、まるで最初からそこにあったかのように、さらに3枚のページが地続きで現れたのだ。
「間違えていない! 確かに131ページあった!
三嶋、君こそちゃんと数えていたのか?
事務員としての仕事が雑になっているんじゃないか?」
「俺の目が節穴だって言いたいのかよ!
目の前で見てただろ!」
二人の間に、一瞬、刺々しい沈黙が流れた。
普段ならこんな些細なことで言い争うような二人ではなかった。
お互いに温厚で、不毛な衝突は避けるタイプの人間だ。
だが、なぜかその時は、お互いに自分の数え方が絶対に正しいという、妙に頑なで、排他的な確信が胸の中に渦巻いていた。
相手が間違っている、相手が嘘をついている――そんな猜疑心が、急速に膨らんでいく。
三嶋は、背中に冷たい汗が伝うのを感じた。
二人で同時に同じ机の上で、同じものを数えたはずなのに、結果が違う。
(……俺が、疲れているだけか?
倉庫のあのひどい埃のせいで、感覚が狂っているのかもしれない)
三嶋は、自分の数え間違いとして処理しようと、無理やり自分を納得させた。
そうしなければ、自分の足元が崩れていくような、奇妙な恐怖に耐えられそうになかったからだ。
だが、胸の奥につかえた不気味な違和感は、どれだけ呼吸を整えても消えてくれなかった。




