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見えません

 チェルシーが嘘を吐いているようには見えないと主張したが、メリーさんは顔色を変えずに受け流した。はっきり否定されると、俺の方もなかなか強く出れない。


 人の心を推し測ることに自信はない。チェルシーは信じていい、と思う一方で、そう考える自分は当てにならないとも思う。

 やがてメリーさんに押し切られる形で、チェルシーの話は終わった。


「ところで、人のステータスってどうやって見るんですか?」

「は?」

「あの! 見えないんですか?」

「見えないけど……」


 セラちゃんにまで首を傾げられた。


 武器・防具の数値やスキルは見える。モンスターの名前・レベル・一言コメントも見える。

 でも、俺はまだ人のステータスを見たことがない。


 だからチェルシーのステータス値を前提にした会話も、いまいちピンとこなかった。


「お前、他人に興味ないだろ」

「……。そんなこと無いと思いますけど」


 今の間はなんだと無言で問いかけられているようで、居心地が悪い。

 メリーさんの灰色の眼は、光の加減によっては銀色に光っているよう。それが尚更、抜身の刃みたいなイメージを助長する。


 そんなに見つめられても、俺に大した中身は詰まってませんって。


「じゃあ実は女嫌いのゲイなのに、これまで女にしか会ってこなかったとか?」

「違います」


「でもナガツキって欲を感じさせないよな。アタシはともかく、セラは結構可愛いと思うんだが」

「可愛いと思いますよ」

「言い方が他人事なんだよな。てめぇの感性の問題だろうが」


「あの! 私、師匠はたまに可愛いと思います。私なんかより、ずっと」

「そーいう話はしてない。そもそもお前の『可愛い』は意味が広すぎて意味分からん。基本から離れすぎなんだよ」


 俺からセラちゃんを経由して左下へと下がっていったメリーさんの視線は、そのままテーブルの一角を睨み始めた。少し唇を噛んでから口から開く。


「……知り合いに一人いる。最初の頃、人のステータスが中々見えなかったって言ってた奴がな。そいつは、他人に興味無かったのが原因だろうって」

「それでどうやって解決したんですか?」

「別に。ようは意識して見ればいいだけだ。コツも何も無い基本事項。見ようと思えば見える」


 そう言われても……。


「お前、坂からチェルシーが転げ落ちたときに反射的に手を出したそうだけど、代わりに見知らぬおっさんとかが同じ目に合ってたらどうしてた?」

「えっ、いや、助けたんじゃないですか? そもそもあのときも意識してませんでしたし」

「そういうことだ。それ、あの子には言うなよ」


 なるほど、分かりません。


「ちなみにさっきの話の奴な、お前も会ったことあるぞ」


 メリーさんは背を向けた。そのまま部屋の奥へ。地下に続く階段へと足を踏み入れて、付いてこいと身振りで示した。


「ここで誰の話だったのか気にしないあたりがまた、なぁ……」



                 ◆



 階段を降り切ると、すぐにT字路に出る。

 お祭りの最中にメリーさんの指示で何度か材料を取りに行った時には、右側は崩落が怖いから近寄るなと言われていた。


 けれど、メリーさんは右側の方へ進んでいく。


 こちら側は掃除が行き届いていないようで、壁には苔が生えている。魔法の光も無く、進むほどに暗くなっていく。

 足元が不安になってくるが、かといって苔の生えた壁に手を付くのも躊躇われる。


 セラちゃんの服の裾を掴もうかと思ったが、流石に恥ずかしいのでやめておく。


 やがて行き止まり。壁が崩れて道が塞がっている。


「ナガツキ、何か感じるか?」

「ちょっと肌寒いな、って思います」

 

 地下室というと空気の澱んだイメージだが、時折冷たい風が通り抜けていくのを感じる。

 エアコンの無い世界なりに、構造を工夫してあったりするんだろうか。


「違う。魔力だ。五感強化の箸を持て」


 言われるままにお箸を持ってみるが、特に何かあるようには感じられない。

 そもそもこれまでは何か探したいものがあって、それに集中するやり方しかしてこなかった。何だか分からないものを感じろと言われても困る。


「ダメか?」

「分からないです」


「アタシは気になる。遮蔽物が多いし、距離もあるから今一掴み辛いけど、何かある。お前の方が感知系は得意みたいだからちょっと期待してたんだが本当に何も分からないのか?」


「まだ食べ物と生き物にしか集中したこと無いですし。あ、あと食事中は感覚が鋭くなってる気がします」

「箸だしな。食事中に効果を発揮するってのは頷ける話だ」


「でもナマモノ限定の察知なのかもしれませんよ?」

「食堂のスキルは融通が利く。大抵は気持ちの持ちよう次第だ。ほら、豚骨だって無機物だけど立派な食材だろ」

「出汁って骨の有機物部分から出てるんじゃないですか?」


 メリーさんに叩かれた。意外に痛くない。髪も乱れてない。


「とにかく、ここらでクラン同士の衝突が起きるとしたら、原因の心当たりはこれくらいしかない。転移魔法前の地形測定だと思えば、広範囲かつ基本的な魔法にもつじつまが合う」

「あの! どうしてこれまで放置されてきたんですか?」

「アタシの店は小規模だから、別にこっち側を補修しなくても地下スペースは十分だったんだよ。あと、キブリの魔力反応は掘り起こしてみると魔王の残した厄物だったりするから、発掘計画が捗らない。いざ確かめてみたら呪いのアイテムだとか、アンデッド系が長年魔力吸い続けて待ち構えてました、とか嫌だろ。スケルトンは倒しても出汁にしかならないし」


「師匠! ゾンビの方が嫌な臭いとか付いてて使えないんじゃないですか?」

「氷山大陸のゾンビは状況次第で食えるらしいぞ。腐敗っていうより発酵しててな。アークティックラビットゾンビの溶けかかった内臓をパイで包むと結構イケると聞いたことがある。一度試してみたいものだ」


 うわぁ……。


「いや、食堂勢は基本的に腹壊さないから大丈夫だって。あんまり知られてないけど、これって相当役に立つ加護だぞ」


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