渦巻く権謀術数
「さて、こっからは建前抜きの話だ。集中して聞けよ新入り」
そう前置きし、メリーさんはテーブルに手を付いて立ち上がった。
「魔法使いが単独で行動することは、まず無い。魔法系は人に疎まれるから行動し辛いし、何より一人で戦える奴がほとんどいない」
「そうなんですか?」
「魔法系の最大手、黄金暁はあくまで研究機関だ。戦いには向いてない。ステータス補正はほぼ無しで、魔力ですら追加分が無い」
「じゃあどういう加護が掛かるんですか?」
「知らん。魔法系とはなかなか会う機会が無いし、あいつらは基本的に秘密主義だ」
「でも、当人が戦えなくても、召喚魔法で魔物を呼び出して戦うとか手はあるんじゃないですか?」
「強い魔物を作る術はあっても、それを操るのは九天の鞭の領分だ。逆に言うと、いくら強いのを作って調教しても、本職の奴の支配魔法には及ばない。苦労して作っても、一瞬でそれを奪われる危険が残るんじゃ割に合わない。強いの作って九天の鞭に売るって取引はあるみたいだけどな。……分かったか」
「はい!」
質問をしたのは俺なのに、何故か元気に返事をするセラちゃん。条件反射になっているのだろうか。
「で、アタシが言いたいことは分かるか?」
えーと、魔法使いは一人では戦わない。つまり――。
「他に別の敵がいる?」
「そりゃ当たり前だが、まあいいか。基本から順に話していこう。魔法系と交流を持ってる大手クランは3つ。九天の鞭、天秤と剣、ゆるほわ食堂だ。九天の鞭はさっき言った通り、魔物を使う都合上魔法系と仲が良い。召喚・支配といった魔法を使う奴もいる。そして天秤と剣は傍迷惑な中立主義。相応の対価さえ払えば、たとえ相手が魔王だって構わず契約を結ぶって話だ。で、うちら食堂は消極的な中立。組織単位での行動は基本的に無し。個人に任せるから好きにしろって方針だ」
「全部キブリに集まってますね」
「東の魔王が攻めてきた時、この3つは襲撃対象から外れてたからな。見逃されたんだ。だから、この3つがキブリに集まったんじゃない。いろいろ集まってきた中から3つだけ残った」
「えっと、ゆるほわ食堂って魔王側とも繋がりがあるんですか?」
「ねえよ。戦略だろ。全滅したら敵討ちにやっきになったかもしれないが、非戦的なとこだけ残ったら街を復興する方向に力を注ぐのが自然な成り行きだ。――話を戻すぞ。魔法使いは一人じゃ戦わない」
メリーさんに見つめられると思わず視線を逸らしたくなる。でも、なんとなく視線の意味は分かってきた。
「はい!」「はい」
「状況から見て、今回使われたのは初歩的な魔法。それを大規模もしくは複数回発動したと思われる。小分けにしてればバレなかったかもしれないのにな。バレていい、戦いになってもいい、って考えてるとしか思えん」
「はい!」「はい」
「さて、アタシらの敵は、誰だ?」
魔法使いと手を組むとしたら、魔物使いの九天の鞭か、傭兵集団の天秤と剣か、ゆるほわ食堂か。そりゃあもう消去法から考えて――。
「はい! 九天の鞭ですね」
「馬鹿が。お前『フランセットさんは良い人だから敵じゃない』とか思っただろ。ゆるほわ食堂はそもそも考えなかったろ」
「はい。すいません!」
先に言わなくてよかった。
軽く頭をはたかれただけなのに、セラちゃんの頭が一向に上がってこない。机に顎を付けた状態で固まっている。
「ゆるほわ食堂は個人個人が好き勝手やってるだけだ。ゆるほわ食堂の一員が裏にいないとは限らない。そしてフランセットだが、こいつが一番怪しい」
「あの! そんなことないです。魔物が出たとき、いっしょに村を守ってくれたじゃないですか! フランセットさんが敵なわけないです」
「じゃあ聞くけど、うちに傭兵が来始めたのは?」
「はい! コンラートさん以外は、半年ほど前から。フランセットさんが来るようになってから増えてきました」
机に頭を置いて前のめりな状態から、視線だけ上を向く変な体勢。それでも返事だけはいいセラちゃん。
「なんで街にもっと大きくて普通な店があるのに、わざわざうちに来るんだ?」
「それは、師匠の料理は師匠にしか作れなさそうですし」
「なおさらだ。アタシの料理を最初から絶賛して『次もまた来よう』なんて言いだすのは百人に一人いるかいないかってとこなんだよ。何かの間違いで2,3回食べちゃった奴が、首かしげながらもう一回だけ食べてみるかーって来るのが普通だ」
「し、師匠! 自分の料理にもっと自信をもってください!」
「自信はもってる。話を逸らすな」
メリーさんには悪いけど、説得力がある理由だ。あの料理で人が集まるとは思えない。
100人いたら、うち30人くらいはカブトムシ鍋の調理過程を見て完成前に逃げ帰るんじゃないかと思う。
「あの! でも、その……傭兵さん達は、街だと肩身が狭いですから。うちに来るのはそんなに変じゃないと思います。天秤と剣のリーダーは、街を魔王に売ったから……」
「え、ええ!? そうなの!?」
そういえば情報の断片はあった。転移結晶が悪用されて、キブリは内側から攻められたって言ってた。あれは天秤と剣の人が裏切っていたのか。
「それにしたって、今の騒動が始まったタイミングで、都合よく5人もこっちにいるのは異常だろ。勢揃いじゃないか。怪しむなって方が無理な話だ」
「で、でも!」
「じゃあとりあえず保留にして話を進める。相手がいきなり大規模な魔法を使った理由は?」
「はい! 分かりませんっ!」
なんだか泣き出しそうな表情になりながら、セラちゃんは大きな声で答えた。
対するメリーさんの視線は低温を維持したまま。セラちゃんが答えたあと、その矛先は俺に向かう。怖い。
「……少しずつじゃいけない。急ぐ必要があったから、ですか?」
「もう一歩考えてもらいたいとこだな。余裕無いからアタシが言っちまうと、考えられる理由は2つ。一つ目は、内側の理由。権力争いの都合とかで、早々に結果出さないといけない場合。ただ、それならもっと早く次に進んでるはずだ」
「次……ってどういうことですか?」
「まさか魔法打って地脈乱してそれで終わりってことないだろう。別に目的があるはずだ。そこについても後で話すが……ともかく、何かやるならアタシらが魔物の処理に追われてる間に進めた方が効率的だ。だから、内側の都合じゃないと思う。で、二つ目」
「はい! じゃあ外側の理由です」
「言ってて意味分かってるのか若干不安だが、当たりだ。他のクランに計画がバレた、あるいは他のクランが同目的で動き始めた、ってあたりだな。特にここいらで強いとこって言やあ、九天の鞭がいる。九天の鞭を警戒しているなら、魔物が湧いてるタイミングで動かなかったことに筋が通る。あいつらの中には、大量の雑魚を一瞬で支配し、まとめて使役するタイプがいるからな」
話を聞いているうちに、たしかに天秤と剣が怪しい気がしてきた。
九天の鞭の存在を気にしながら動いているのだとしたら、逆に犯人は九天の鞭以外ってことになる。
それにフランセットさんが、店番を任されていたセラちゃんを店から離して代わりに店を守っていた……っていう話もどこか怪しいところがある。
「というわけで、アタシは天秤と剣の連中を敵とみなして動くことにする。お前らにもその方針に従ってもらう」
「じゃあ、兵士さんといっしょにいったチェルシーは……」
「敵が誰なのか、完全には断定できない。――勘違いするなよ、古馴染のコンラートを信じろって言ってるわけじゃない」
「どういう意味ですか」
「アタシは、チェルシー・モンタギューが味方かどうか分からないから、出てってもらったんだ」
「あの! チェルシーさんはまだどこのクランにも入ってないですし……」
「それが本当かどうか、アタシらには分からない。アタシらに見える情報は、名前とレベルとステータス補正量、そしてゆるほわ食堂かどうかだけだ」
「はい! でもレベルとステータス補正量から言って、どこの加護も受けてないと思います」
「1つあるだろ、あのレベルとステータス量でありうるクラン。アタシの話をよく思い出せ」
加護によるステータス補正がほとんど無い。
それって――。
「あの! もしかして魔法クラン代表、黄金暁……? でも、そんなことって」
「可能性の一つとしてありうるって話だ。それに、未加入の奴を捕まえて、『言うとおりにしたら好待遇で迎えてやる』とか言われてる可能性もある。加盟試験のやたら厳しい円卓なんかは、入れてやるってだけでも十分なエサになるしな」
「だったら、ここに残って何かやろうとするんじゃないですか?」
「疑われてるのを悟って素直に逃げたって見方もできるだろ」




