新宿ダンジョン15層まで
今日も俺とミディアは新宿ダンジョンに来ている。みくちゃんと約束もしたし、早く追いつくためにもさくさく攻略していかなければ。
10層は前回宝箱探しで散々探索したし、リスナーさんも見飽きただろう。配信を始める前に超えておくことにした。
『【とにかく進む】さくさくいくぞ【シュウ/ShuuMaT】』
配信開始のボタンを押すと、一斉にコメントが流れて行く。今日から試験的に配信の枠を先にとっておいて、リスナーさんの待機場所にしておいたのだ。
:きたきた
:待ってたぞ
:枠があくまでどきどきするんだよな
:今日もみくちゃんいる?
:ミディアちゃん!お顔みせて!
配信開始時点でのリスナー数は2418人。これまでも右肩上がりだったが、それに加えて前回のみくちゃんとの突発コラボ探索で一気にチャンネル登録者が増えた。宝箱探し回は切り抜きもたくさん上がっていて、そっちからもリスナーが流れてきているようだ。
特に、俺が空っぽの宝箱の前で膝から崩れ落ちるシーンは大層ウケたらしく、たくさんのコメントが書かれていた。
「どうもこんにちはー。シュウです」
「ミディアです」
:ミディアちゃん!
:うおおおミディア様!
:お顔見せて!
:みくちゃんは?
「今日はみくちゃんはいないぞ。前回のはたまたま一緒になっただけだから。ミディアの顔はもう少し待ってね。美容室の予約取ったから、近い内にまともな髪型でお披露目するよ」
「お手入れがめんどくさそうで、今から憂鬱です……」
:あのお顔を隠したままなんてとんでもない!
:むしろ今すぐ美容室にいけ
:ミディアちゃんのお顔早くみたい!
コメントの流れが速い。全部読もうとすると目が回りそうになる。世の人気配信者達はこれを捌いているのか……。これは慣れるまで時間がかかりそうだ。
「コメントが速すぎて追いきれない……全部は読めそうにないな」
:探索に集中しろ
:文字のことは気にするな
:いつも通りにやれ
「じゃあ気を取り直して。今日は11層から攻略していくぞ。さくさく攻略していくから、楽しみにしててくれ」
:さくさく攻略宣言
:初心者なのに
:初心者のくせに強い
:深層到達RTA?
「とりあえずマップがある15層までは最短で行こうかな。その後はちょっと時間かかるかも」
購入したマップは15層までだ。つまり、そこから先は完全攻略まではされておらず、自分達で探索して道を見つけていかなきゃならない。
俺とミディアはマップを頼りに11層を進んで行く。
この層で新たに出てくるモンスターはソルジャービー。でっかい蜂型のモンスターだ。尻の先に太い針があって、それで刺されたり噛みつかれたりするとめっちゃ痛いらしい。毒はないので、やはりこの辺りはまだ『優しい』領域なんだろう。
しばらくの間、流れの速いコメントに返答しながら歩いていると、前方から羽音が聞こえて来た。この層で羽音を立てるのはソルジャービーだけだ。
「きたぞ。あれがソルジャービーだ」
:針でさされると痛いやつ
:噛みついたりもする
「ミディア。初見だし、お前が食っていいぞ」
「はい!」
ミディアの返事と共に巨大な口が現れ、ソルジャービーを飲み込んで閉じた。口の中からはバリバリと咀嚼音が聞こえてくる。ねちゃねちゃとネバついた音よりはマシに感じる辺り、咀嚼音にもだいぶ慣れて来た。
ミディアは言葉を選んでいるのか、それとも味わっているのか。しばらく沈黙が続いた。そして、
「サクっとした食感がいいですね。香ばしい風味と凝縮されたうま味がマッチしています。これは素晴らしい。星5つです」
なんと、ソルジャービーに最高評価が付いた。
「そんなにうまかったのか?」
「はい。これまで食べたモンスターの中では断トツです。揚げたらとってもおいしくなると思います。オススメです」
:蜂を食べるところもあるしまあ……
:蜂はエビみたいだって聞いたことある
;昆虫食と考えればそんなに変でもないのか?
コメントを見るに、リスナーもギリギリ納得できる評価ということらしい。
『頑張って納得しようとしている』という表現が正しいかも知れないけど。
「よし。15層までは新しいモンスターも出ないし、俺も戦ってどんどん進もう」
15層まではダンジョンウルフ、ダンジョンスライム、ソルジャービーしか出てこない。スライムはミディアに飲んでもらって、あとは全部俺が殴って瞬殺していこう。
「魔王様。ドロップアイテムをお忘れです」
巨大な口からペッと吐き出されたのは、ペットボトルに入った蜂蜜。この蜂蜜はコクのある濃厚な甘さが評判で、めちゃくちゃうまいらしい。中層までのご褒美ドロップとして有名だ。
ソルジャービーの蜂蜜を使用したホットケーキを提供する店もあって、世間では高級品として扱われている。
「この蜂蜜は換金しないでうちで使おう。ミディアもきっと気に入るぞ」
「楽しみです!」
ミディアはこの世界の食べ物をかなり気に入っている。この蜂蜜をかけたホットケーキもきっと気に入るはずだ。
:ソルジャービーの蜂蜜を忘れるなんてとんでもない
:はちみつください
:まじでうまいやつ
:ホットケーキにかけると神の味になる
リスナーだった頃は一度食べてみたいなんて思っていたのに、先を急ぐあまり、蜂蜜の回収を忘れるところだった。
さくさく進みはするが、探索は雑にならないようにしないとな。
蜂蜜を回収した俺達は、11層をさくっと抜けて12層へ到達した。
「12層も11層とそんなに変わらない。出てくるモンスターも同じだし」
ほとんど変わり映えしない層が続くのは、『探索者への配慮』だという説がある。『優しい』領域であるダンジョンの低層や中層には、多くの探索者がひしめき合う事になる。そこで、似たような層をいくつか用意して混雑しないように『配慮』されているんだという説だ。
そんな馬鹿なという意見が圧倒的に多いが、そういう人ほどダンジョン中層までの『優しさ』と、見え隠れする『配慮』を列挙されて反論に窮する。
ちなみに俺はダンジョンは作為があってこうなっていると考えている派閥だ。実際に神はいたし、何か考えがあってわざとこういう作りにしたんだと思っている。
出てくるモンスターに片っ端から腹パンを叩きこんで沈めて行く。スライムだけは触りたくないのでミディアに飲んでもらう。魔法を使えばスライムくらい簡単に倒せるが、配信で魔法をお披露目するのは、そこそこ強いモンスターが出てくる深層からにしたい。
時折コメントと雑談しながら、俺たちはあっという間に15層に辿りついた。
「15層についたぞー!」
:さくさくやったなあ
:魔王様。食レポが不足しております
:はやすぎ
:公式のマップはここまでだぞ
:強さだけなら上級者やな
:リスナーだったから知識もあるのええな
「コメントにもあるけど、公式のマップはこの層までしかない。次の層からは自力探索するしかないんだよなあ」
:リスナーだったなら多少は道わかるんじゃないの?
:リスナー時代の知識を生かせ
:思い出せ……リスナー時代にみた配信の景色を……!
「画面で見るのと実際に歩くのじゃ結構違うんだぞ。多少は役立つと思うけどね」
今日はここで終わるつもりなので、配信を締める流れに持って行く。
「ここからはまた違うモンスターも出て来るし、続きは次回にしようか。新しい食レポも期待しててくれ」
「新しい味!ソルジャービーを超える味を待ってます!」
「それじゃーまたね。ばいばーい」
いつも通りミディアと並んでカメラに向かって手を振る。配信終了のボタンを押して、動きをとめたカメラを回収する。
「……ミディア」
「なんですか魔王様?」
「ソルジャービーって、そんなにうまかったのか?」
「とってもおいしかったですよ?」
当たり前のことをなんで聞くんだ?と言いたげなミディア。
「そうなんだ……」
ミディアが取れ高を気にするとも思えないし、ほんとにおいしかったんだろう。
「さて、帰ろうか。次は配信前にここまで来ておかないとな」
「はい!」
来た道を引き返して10層の転移結晶でダンジョン入口に帰還した。
公式ショップでドロップアイテムの査定を待っていると、スマホに通知が来た。
通知音に反応して何人かが俺の方を見て、すぐに視線を外した。
『みく:明日39層にチャレンジします』
短い文で書かれたチャットからは、みくちゃんの強い決意が伝わって来た。
『シュウ:絶対見る。応援してるから、頑張って』
俺の返信にはスタンプが返って来た。
『おー!』と拳を突き上げているのは、かわいらしくデフォルメされた、みくちゃんの公式スタンプだった。




