新宿ダンジョン制覇へ02
翌日、俺たち四人は、昼に集まって45層から探索を開始した。
前に決めてあったとおり、今日はみくちゃんのチャンネルで配信することになっている。
『【目指せ制覇!】今日もシュウさんたちとコラボ!【みく/MIQQuuM】』
「こんにちは!みくです!今日は昨日の続きから!シュウさん、ミディアさん、ナギサさんと一緒に攻略していきます!目指せ、新宿ダンジョン制覇!」
:みくちゃん頑張ってー!
:みくちゃんかわいい!
:みくちゃーん!
:みくちゃんの名を歴史に残すぞ!
:ミディアさんとナギサちゃんも頑張って
:魔王を許すな
さすがトップ配信者だ。
配信開始時点ですでに5万を超えるリスナーが集まっている。未踏の領域の攻略という話題性も相まって、今俺たちはかなりの注目を浴びている。
早速探索を開始した俺たちだったが、出現するモンスターは昨日と同じく色違いばかり。苦戦らしい苦戦もないまま、順調に進んでいく。
「なんか……もうちょっと頑張って作って欲しかったっていうか……」
「ゲームだとあんまり気にならないですけど、現実でやられるとかなり気になりますね……」
「ドロップを考えたらむしろまずいまである」
「ここで狩りをする気は起きないですねえ」
みくちゃんと話しながらナギサの戦闘を眺める。
ナギサは色違いのキックの蹴りを華麗に避けて、勢いのまま二つに切り裂いた。
ドロップの丈夫な革を回収し、再び歩き始める。
その後も順調に進み、俺たちはついに49層に辿り着いた。
「49層……扉……っていうことは」
「ボスがいるってことだな」
49層の入り口には巨大な扉があった。これは39層と全く同じ作りで、この向こうにボスがいることを示唆しているようだった。
「ボスまで色違いってことはないですよね?」
「……さすがに、それはないと思いたい」
俺とみくちゃんで扉を開けていく。
中は広い部屋になっていて、奥にはこの部屋の主、ボスが寝そべっていた。
「……」
「……色違いじゃなかったな」
「ドラゴン……ですよね?」
「ドラゴンだな」
ボス部屋で寝そべっているのは、どこからどうみてもドラゴンだった。
全身を茶色い鱗に覆われ、大きな翼は外であれば自由に空を飛び回りそうだ。
部屋の高さがそこまでないので、あまり有効活用はできなさそうだが。
ドラゴンは俺たちに気付くと、のっそりと立ち上がってから、あまり高くはない天井付近まで飛び上がった。
「どうする?誰がやる?」
「私は無理そうです」
確かにこれまでの戦闘を見る限り、雑魚相手にも苦戦していたみくちゃんでは難しいかもしれない。
「私がやるわ」
ナギサが立候補したので、俺たちは壁際で観戦することにした。
先制攻撃はドラゴンからだった。
ドラゴンは大きく口を開け、炎のブレスを吐き出した。
ナギサは冷静にそれを避け、途中でキャンセルできないのかまだ炎を吐き続けているドラゴンに向かってジャンプして、片方の翼を切り裂いた。
『グァォォオオ!!』
ブレスを吐き終わったドラゴンの口から悲鳴のような咆哮が放たれる。
傷ついた翼では飛行できないのか、ドラゴンは地面に降り立って、二本の脚で走ってナギサに突っ込んでいった。
「はっ!」
あまり速くはないドラゴンの突進を素早くかわしたナギサがドラゴンの片足を切り飛ばす。
体勢を崩したドラゴンが倒れ込み、そこへすでにジャンプしていたナギサがドラゴンの頭に剣を突き刺した。
『グゥァァァ』
断末魔の咆哮をあげたドラゴンがぐったりして動かなくなり、やがてそれが消えてドロップへと変わった。
39層の時と同じく、ボスのドロップは次の層へ続く扉の鍵だった。
「お疲れ、ナギサ」
「本当にこれで終わりなの?あんまり強くなかったけど」
:ドラゴンと戦った感想がそれなんだ……
:強すぎだろ
:初めてみたわ生ドラゴン
:すげー迫力だった
:あんまり強くないらしい
ナギサが拾ってくれた鍵を受け取り、50層に続く扉の前に四人で立つ。
「さて、この先は終点か、それとも続きがあるのか……」
少しだけ緊張しながら鍵を開け、ゆっくり扉を開いていく。
俺たちは新宿ダンジョン50層に到達した。
「あれ?みんな見えてる?」
:見えない
:画面まっくら
:音声もなくなった
:ここで機材トラブル?
:いいところなのに!
「配信落ちちゃったのかな……」
「ちっと配信は切らせてもらったぞ」
50層の中から老人のような声が聞こえて来た。
どうやら俺の予想は当たったらしい。
「さあ。新宿ダンジョン制覇おめでとう。最深部へ入ってきなさい」
言われるまま俺たちは50層に足を踏み入れた。
50層は小さな部屋があるのみで、先へと続く道はない。やはりここがゴールだ。
部屋の中には何かの装置のようなものがあり、その隣に人の形をした白い影が立っている。
「ようこそ、新宿ダンジョン最深部へ。初のクリア者じゃな。おめでとう」
「……神様」
「うむ。いかにも神じゃ。魔王と勇者はよく知っておるじゃろう?」
「……そうね」
「ナギサは『元』だぞ。俺はスキル的にまだ魔王なんだろうけど」
「細かいことをは気にするな。……それで、どうじゃった?ダンジョンは」
神がダンジョンの感想を聞いてきた。
「どうって……あんまり深く考えて作ってないなっていう印象かしら」
ナギサが代表して俺たち四人の感想を答えてくれた。
「ふむ。まあそうなるか。確かにゲームを参考に適当に作ってしまったからのう」
神は大して気にした様子もなく、飄々とした態度を崩さない。
「一つだけ答えてほしい。どうして地球にダンジョンがあるんだ?」
これは俺が日本に帰還してからずっと思っていたことだった。元々地球にはダンジョンなんてなかった。それなのに、俺が帰還したら、いつの間にかダンジョンは当たり前のように存在していた。
召喚されたのと同じ時間に帰還したのにもかかわらず、だ。
これは絶対におかしい。
「簡単なことじゃ。ダンジョンは、勇者と魔王への褒美の一つだからじゃな」
「なっ!?」
「……」
「ありあまる強さを引き継いで、ただの一般人として生きるのは辛かろう?ちょうど資源問題もあったことだし、ついでに少々テコ入れすることにしたのじゃ」
「時間を巻き戻して歴史の書き換えまでしたんじゃぞ」とえらそうに神は言う。
「それにしては難易度がぬるかったように思えるけど?」
一般人が強くなっていくにはちょうど良いかもしれないが、最初から強い俺とナギサへの褒美にしては、難易度が低すぎる。
「それはこのダンジョンがチュートリアルだからじゃな」
「……なるほど。そういうことか」
神がやりたいことがわかった気がする。
「つまり、新しいダンジョンをまた作るつもりなんだな?」
「そういうことじゃ。お主ら四人は新宿ダンジョンをクリアした。報酬は、次のダンジョンへ入場する権利じゃ」
「新宿ダンジョンがチュートリアルってことは、次のダンジョンが本当の難易度ってことか」
「そういうことじゃ。魔王や元勇者であるお主らでも苦戦するであろう難易度に調整してあるのでな。期待してよいぞ」
神はおもちゃを自慢するように言う。
「俺たち以外がこのダンジョンをクリアしたらどうなるんだ?」
「ワシはもうおらんが、この装置に触れれば新しいダンジョンに入れるようになる。まあ、しばらくは現れないだろうが」
確かに今の調子だと次のクリア者は当分先になりそうだ。
「さて、それでは説明も終わったし、ワシは帰るぞ。その装置に手を載せれば新しいダンジョンが出現し、入場できるようになるからな」
そう言って神は溶けるように消えていった。
:あ、映った!
:これ最深部じゃね?
:ってことは……
:新宿ダンジョン制覇達成!
:おめでとー!
神が消えると同時に配信が復活し、コメントが爆速で流れていく。
「ごめーん!ちょっとカメラの調子がおかしかったかも!見ての通り、新宿ダンジョンはここがゴールみたい!」
みくちゃんがうまくフォローしてくれている。
「どうやらこの装置に手を載せるらしい」
最初に俺が手を載せる。すると装置が動き出し、光が俺の手をスキャンするように走って消えた。
「……これでいいのか?」
続いてみくちゃん、ナギサ、ミディアと手を載せていき、四人全員が新しいダンジョンへの入場権を獲得した。
:都内地震!
:やば、なんか揺れてる
コメントで地震の報告があるが、ダンジョンが生成されてるんだろうか。
「危険を感じたら、配信みるのをやめて避難してね!命だいじに!」
みくちゃんがリスナーに身の安全を守るよう呼びかけている。
:揺れおさまった!
:結構でかかったな
:怖かったー!
:ニュース速報みて!
:ダンジョンらしきものが都内に出現だって!
:新しいダンジョンができたから揺れたのか
やはり新しいダンジョンを生成するための揺れだったようだ。
「みんな大丈夫そうでよかった!新しいダンジョンについては、また今度話そうね!」
「俺も自分のチャンネルで話すよ」
「それじゃ、新宿ダンジョン制覇!ってことで、おつかれさま!ばいばーい」
少し強引に配信を終わらせる。
「お疲れさまでした!」
みくちゃんの挨拶に各々返事を返す。
「やっぱりいましたね、神様」
「ああ。新しいダンジョンは予想外だったけど」
「どうしますか?新ダンジョン」
「一度様子は見にいこうと思ってるよ。ただ、すぐには入れないだろ」
「国の調査もありそうですしね」
「とりあえず、新宿ダンジョン制覇を祝して打ち上げでもしよう」
「おいしいご飯が食べたいです!」
ずっとテンションが低かったミディアが急に元気になった。
「おいしいお店知ってるんで、私が予約とりますね!」
俺たちは50層にあった転移結晶で入口に帰還し、みくちゃんが予約してくれた店に向かった。




