新宿ダンジョン制覇へ01
「初めまして。ナギサよ」
「……どうも。みくです」
「……」
気まずい。
元勇者のナギサから40層に到達したと連絡があったのが昨日。それじゃあ40層の探索前に顔合わせをしようと集まったのだが、みくちゃんとナギサの間には、なんとも言えない空気が流れている。
ナギサはこの世界の勇者を興味深そうに見ているが、みくちゃんは珍しく少し刺々しい態度で挨拶している。
(この二人を合わせたのはまずかっただろうか……)
みくちゃんからしたら、ナギサは俺を一度殺した人間だ。あまり良い印象はないのだろう。俺が普通にナギサに接していれば、時間が解決してくれると思うが、もうこの後すぐ40層探索が始まる。
なんとか表面上だけでも普通の態度になってもらわなければ困る。
「ナギサのスキルってなんだったんだ?」
とりあえず適当に話題を振って空気を誤魔化とうと試みる。
「世界に勇者は一人だけって言われちゃって、勇者じゃなくなっちゃったのよねえ。今のスキルは『根性』よ」
「へえ。土壇場に強そうな良いスキルじゃん」
「今のところ活躍してるわよ。短時間で40層まで駆け上がるのに『根性』を使って寝る間も惜しんで攻略を進めたから」
「そういう使い方もあるのか」
「光属性は使えなくなったけど、強さは引き継いでるから苦戦はしないし、今のところ戦闘には使ってないわね」
本気の俺に勝っただけあってナギサは強い。光属性が使えなくなったとしても、俺とほとんど変わらない強さを今でも持っていると思って良いだろう。
「正直なところ、戦闘より配信に映ることの方が不安だわ。変なことやっちゃわないかしら」
「そこは俺とみくちゃんでフォローするから大丈夫だろ。ミディアだってまだ配信のことはよくわかってないし」
「……そうですね」
やはりまだみくちゃんの反応がぎこちない。
みくちゃんはプロの配信者なので、本番ではなんとかすると信じよう。
「それじゃあ、40層に転移して配信開始するぞ」
他の三人が頷いたのを確認して、俺たちは転移結晶で40層に転移した。
『【40層から】新宿ダンジョン制覇を目指して【シュウ/ShuuMaT】』
SNSで配信告知を出してから待機枠を立てていたのだが、今の時点で1万人を超えるリスナーが待機している。
掲示板ではみくちゃんが加わることを予想していた人もいたし、40層より先を配信する人はまずいない。色々な要素が相まって、リスナーの期待も高まっているようだ。
俺はもう一度他の三人の顔を見回してから配信開始のボタンを押した。
「どうもこんにちはー。シュウです」
「ミディアです」
打ち合わせ通り、最初は俺とミディアだけが映るようにしてある。
「告知した通り、今日から40層の攻略を進めていくぞ」
:きちゃああああ
:待ってたぞ
:40層は初めて見る
:目指せ完全制覇
:ミディアさん頑張って!
初っ端から爆速で流れるコメントを眺めるが、やはり完全には読み取れない。
ちらっと目に入ったコメントから判断するが、俺たちを応援してくれるコメントがほとんどのようだ。
「さて、前に言ってたサプライズだけど、早速発表しようか」
:ミディアさんが漏らしそうになってたやつね
:なんだろう
:噂ではみくちゃんが加わるって
:みくちゃんこい!
コメントの流れがさらに加速した。断片的にしか読めないが、やはりみくちゃんの名前が多くあがっているみたいだ。
「俺とミディアのパーティに、新宿ダンジョン制覇までの期間、二人の探索者が加わってくれることになりました!この二人です!」
「こんにちはー!みくです!」
「ナギサよ」
:やっぱりみくちゃんだ!
:みくちゃん!
:みくちゃんきたああああ
:もう一人は初めて見るな
:誰だろう
:ここにいるってことは39層のボスを倒したってことなんだろうけど
:謎の強者感
みくちゃんを歓迎するコメントで溢れる一方で、やはりナギサの登場に困惑しているリスナーもいるようだ。
「みくちゃんはみんな知ってるよな。ナギサは……まあ、俺の知り合いだ。めちゃくちゃ強いから、頼りにしてる」
:魔王の知り合いか
:配信者ではないんだな
:魔王基準でめちゃくちゃ強い評価なのか
:魔王並みってこと?
:ナギサちゃんもかわいい
流れが速くて全部は読み切れないが、今のところナギサに否定的なコメントは見当たらない。
「新宿ダンジョン制覇まではこの四人のパーティで攻略を進めていくから、よろしく!」
:一気に賑やかになったな
:魔王のハーレムパーティかよ
:魔王許せねえ
:羨ましすぎる
:そこ代われ!
かわいらしい女性に囲まれている俺を羨むコメントが目立ってきたが、あくまでこれは攻略のためのパーティなので、そういうのはスルーする。
「それじゃあ早速進んで行こう」
こうして四人となったパーティは探索を開始した。
◇
40層は比較的穏やかで、モンスターも今のところ多くない。多くはないのだが……。
「来ました!モンスターです!」
みくちゃんがモンスターの出現を知らせる。
現れたのはブルボア……の色違い。40層に出現するモンスターは、どうやら低層に出て来たモンスターの色違いのようだった。今現れたこいつは紫色をしている。
「色違いって……こんなとこまでゲーム要素かよ」
:これは凝ってると言って良いのだろうか
:ちゃんと強くなってるんだよな
:ミディアさん曰く味は一緒
:このダンジョン作ったやつはゲーマーか?
最初に現れた色違いのブルボアをミディアに食べさせたのだが、味は低層のブルボアと変わらないらしい。
新しい味を求めていたミディアはもうすでにテンションが落ちている。
「はっ!」
ナギサが猪に斬りかかり、紫のブルボアが真っ二つに切り裂かれた。ドロップの角が残された。
「低層と同じ鉄製に見えるけど、何か違いがあるのかね?」
:低層と同じだったらここに来る意味なくない?
:純度が違うとか?
:稼ぐための場所じゃないということでは?
:ナギサちゃん強いな
:かわいくて強い
コメントでも様々な意見が出ている。
40層に出てくる色違いのモンスターを倒しても、ドロップは一見同じなのだ。鑑定すればはっきりするだろうが、低層とドロップが同じなら、わざわざここにきて狩りをする意味がない。
俺はダンジョンに稼ぎに来てるわけではないから気にならないが、普通の探索者にとってはうま味のないゾーンなのかもしれない。
その後も色違いのモンスターたちを倒しながら進み、あっさりと40層を突破した俺たちだったが、さすがはトップ配信者というべきか、みくちゃんも明るく振る舞っているので、良い雰囲気で攻略は進んでいる。
ナギサも最初は緊張していたみたいだが、今ではすっかり慣れて、興味深そうにコメントを眺めたりしている。
唯一ミディアのテンションだけは低いままで、こればっかりはどうしようもないと諦めている。ソルジャービーの色違いでも出てくれば、きっと元に戻るだろう。
◇
41層、42層と色違いのモンスターを倒しながら探索を進めてきたが、俺たち四人は苦戦することなく、現在の最高到達地点である43層に辿り着いた。
「さて、ここからは誰も見たことのない領域だ。多分大丈夫だろうけど、気を引き締めていこう」
俺の呼びかけに他の三人が頷いて応えた。
:この四人強すぎでは?
:ナギサちゃんがマジで強い
:魔王より強いのでは?
:魔王の評価でめちゃくちゃ強いらしいからな……
:逆にいうとこれくらいのメンツを集めないときついってことか
即席パーティなので連携に不安はあったが、よく考えれば俺とミディアも連携なんてしたことはなかったので気にするのはやめた。みくちゃんを除いた他の三人にとっては、この辺りのモンスターは相変わらず雑魚だったからだ。
みくちゃんだけはまだ一人だと苦戦しがちだが、それでも頑張ってなんとか倒せている。連続して狩りをするのはきついだろうが、交代で戦う程度なら充分だ。
色違いモンスターはかなり強力になってはいるが、それでも俺たちの攻略速度は落ちることはない。
そして、俺たちはついに45層に辿り着いた。
「お?転移結晶がある」
45層の入り口には、なんと転移結晶が設置してあった。深層の探索ペースを考えた上での『配慮』だろうか。
「ちょうどいいし、今回はここまでにしておくか」
「そうですね。結構いい時間になってますし」
みくちゃんも同意してくれたし、今回はここまでにしておこう。
「次はみくちゃんの枠で続きから攻略していくから、みんな見逃さないでくれよ!」
「どんどん最高到達地点を更新していくから、みんな見に来てね!」
「それじゃまたねー。ばいばーい」
最後に全員で並んで手を振って配信停止のボタンを押した。
「よし。配信切ったぞ」
「お疲れ様でしたー」
「結局新しい味はなし、ですか……」
ミディアのテンションは最後まで落ちたままだった。ソルジャービーの色違いは出てこなかったからなあ。
「次回はいつにする?」
「いつでもいいですけど、あまり間をあけたくはないですね」
「私はいつでもいいわ」
「それじゃあ、明日やっちゃおうか。このペースなら、明日には50層に着くはずだ」
俺の予想通りなら、明日で新宿ダンジョン制覇だ。




