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役目を終えた元魔王の現代ダンジョン配信~腹パン魔王に配下の食レポを添えて  作者: やしき丸


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20/26

新宿ダンジョン40層到達耐久配信01

 今日は40層到達耐久配信の日だ。破竹の勢いでダンジョンを進む俺たちは、界隈では注目の的となっている。

 事前に告知しておいたのが良かったのか、待機の時点ですでに1万人を超えるリスナーが集まっている。


「すごい集まってるな……」


「なんだか緊張しますね」


 ミディアがらしくないことを言っている。


「やることは基本的に変わらない。いつも通りやろう」


「はい!」


 俺は配信開始のボタンを押した。




 『【耐久】40層まで【シュウ/ShuuMaT】』




「どうもこんにちはー。シュウです」


「ミディアです!」



:きちゃああああ

:ミディアさん!

:待ってたぞ!

:今日はすごい集まってるな

:やれんのか!


 開始早々コメントの流れが速い。まだ目が慣れてないのもあって、全く読み取ることができない。


「今日は40層まで一気にいくからな!時間かかると思うけど、みんな食料とか用意してあるか?」


:もちろんよ

:パンとか用意した

:さすがに途中で仮眠取る

:買い出ししてきた

:途中で買いにいく


 かろうじて読めたコメントを見るに、大体何かしら用意してたり、そもそも途中で寝る人もいるみたいだ。


「みんなは無理はしないでいいからな?眠くなったら寝るように。それじゃ、行こうか」


「はい!」


 俺とミディアは探索を開始した。


 30層からは深層と呼ばれるエリアになる。モンスターも強くなるし、フロアも広くなる。

 30層より先で配信する人は少ないし、俺の元リスナーとしての知識も、そろそろ役に立たなくなってくるかもしれない。



 雑談しながら歩いていると、早速モンスターが現れた。

 カラフルなバカデカい蜘蛛。配信でも見たことがないやつだ。


「初めて見るモンスターだな。ミディア、食えそうか?」


「任せてください!」


 巨大な口が現れ、蜘蛛を一口で飲み込もうとしたが、回避されてしまった。思ったより素早い。


「さすが深層って感じだな。これまでのようにはいかないってか」


 すかさず俺が突っ込んで蜘蛛の体の下に潜り込み、腹パンを叩きこむ。

 蜘蛛は吹っ飛んでダンジョンの天井に激突したが、まだ生きている。


「うへえ……。ついに俺の腹パンで倒せないやつがでてきたか」


 蜘蛛はこちらを警戒するように距離をとったまま、何かを吐き出した。糸ではなく、球体の何かだ。


「私がやります!」


 ミディアが槍を創り出し、蜘蛛に向かって踏み込む。

 球体から針が飛び出しミディアを襲う。しかし、ミディアはこれを華麗に避けて蜘蛛を串刺しにした。

 モンスターはまだ生きていたが、そのままミディアの口に食べられてしまった。


 ぐちゃぐちゃもきゅもきゅと咀嚼音が鳴り、ごくりと喉を通る音がする。


「うっ……これはまずいです。毒があるのでピリっとした刺激があるのはいいのですが、生臭い上にどろっとしているので、泥を食べている気分です。星1つですね」


 ミディアがしかめっ面で食レポをする。

 毒があったのか。まあ俺たちに効くほどではないだろうけど、みくちゃんが言っていたとおり、30層からは、ダンジョンも死の危険性が出てくるんだな。


 蜘蛛のドロップは糸の束だ。綺麗な糸だが、何かに使うんだろうか。

 ドロップを回収してまた二人で歩き出す。


「腹パンで沈まなかったのは意外だったな。ミディアの口もかわされたし。さすがは深層だな」


「手を抜かずにきちんと戦った方が結果的に早く片付きそうですね」


「そうだな」


:腹パンで起き上がったのは初か?

:口をよけられたのも初かも

:やっぱ深層はこええ

:大丈夫かな……

:がんばれー


 相変わらず爆速で流れて行くコメント。同接をみると、2万人を超えている。

 深層での耐久も俺の知る限りではこれまでなかったし、目新しいのが効いているのかもしれない。



「魔王様!」


 コメントをちらちら見ながら歩いていると、ミディアに呼び止められた。


「どうした?」


「罠です」


 ミディアが指差す先を見ると、細い糸が張られているのが見えた。


「この糸にひっかかると起動するタイプか」


「どうされますか?」


 基本的にトラップの先には正解の道はない、というのが定説だ。


「一旦引き返して、他の道を進むか」


:深層のトラップは即死ありだからな

:トラップの先に道はなし

:引き返すで正解

:一筋縄ではいかんなやっぱ

:よく気づいたミディアさん!


 俺たちは来た道を少し引き返し、一つ前の分岐を曲がって探索を進めていく。


「お。やっと30層終わりか……」


 配信開始から約2時間ちょっと。これまで1層にかかった時間では最長だ。


「これはほんとに長い配信になりそうだなあ」


:ガチの耐久だなこれは

:集中力切らすなよ


 コメントの流れが少し緩やかになってきた。のんびり眺めている人が増えてきたのかもしれない。


「今日はマジで長くなりそうだから、みんなのんびり見てくれよな」


 かじりついて見ていたらもたないだろう。配信は娯楽だし、気楽に見てほしい。



 31層はすぐに突破できた。運よく正解の道を選び続けられたのだ。


「……魔王様。私の懸念は当たってしまったかもしれません」


 なんだか元気がないなと思っていたところで、ミディアがぽつりと呟いた。


「ん?」

 

「モンスターがまずいです。これは由々しき事態です!おいしいモンスターがいないなら、ダンジョンなど……ッ!」


 ミディアが大げさに騒ぎ、それに引き寄せられたのか、モンスターが現れた。


「おいミディア。モンスターだぞ」


 現れたのはカニのような見た目のモンスター。色は緑だが、カニならおいしいかもしれない。


「カニ!」


 ミディアが槍を構えてモンスターに突っ込む。

 まずはハサミのついた腕を斬り飛ばし、続いて脚を斬って身動きを封じ、動けなくなったところを巨大な口が飲み込んだ。


「どうだ?」


「……」


 ミディアは目を閉じて味わっている。いつも以上に時間をかけている。これは良い評価が出るかもしれない。


「カニですね。おいしいのはおいしいですが……目新しさという点ではマイナスです。星4つです」


「辛口だな……」


:カニだからな

:まんまカニなのはちゃうかったか

:求めてるのは新しい味

:でもちゃんと星4つ

:おいしいのはおいしいんだな


 目新しさはないと言いつつも、おいしいモンスターに出会えたからかミディアの機嫌も直ったようだ。

 32層はカニが多く出現して、ミディアはカニパーティを楽しんだのだった。



 昼すぎに開始した耐久配信も折り返しの35層に到達した。

 俺たちは順調に進んだが、ここまでは初見のモンスターかカニばかりだったので、ほとんどミディアが食べてしまっていた。

 今日お披露目しようとしていた魔法の出番もなく、どうしようかなどと考えていたのだが、ここでちょうど良くミノタウロスが出現した。


 ミディアが「牛!」と突撃しようとしたのを制止して、こいつに向かって魔法を使うことにした。


 手のひらをミノタウロスの方に向けると魔法陣が現れ、バチバチと漆黒の火花が弾ける。



 【――闇の(いかずち)



 魔法陣から黒い雷が放たれ、ミノタウロスに直撃。その上半身を消し飛ばした。

 すぐにミノタウロスは消え、ドロップアイテムの超高級牛肉だけが残された。


(初級魔法でこれかあ……)


 魔法はいらなかったかもしれないなあ、などと考えつつ、ドロップを回収する。


:なにいまの

:え?

:魔王お前魔法使えたんか

:格闘専門だと思ってた

:え、まって。もしかして今までスキルなしで戦ってたの?

:そんなことある?

:まじかよ……


 コメントが今日一番の爆速で流れていく。


「……魔王様」


「ん?」


 ミディアが神妙な顔つきで声をかけてきた。何か問題でもあっただろうか。


「次は私に食べさせてくださいね!」


「お前ほんと食いしん坊キャラが板についてきたな」


 その後出てきたミノタウロスはミディアに食べられ、無事高評価を得た。

 まあドロップが牛肉な時点でな……。

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