新宿ダンジョン40層到達耐久配信01
今日は40層到達耐久配信の日だ。破竹の勢いでダンジョンを進む俺たちは、界隈では注目の的となっている。
事前に告知しておいたのが良かったのか、待機の時点ですでに1万人を超えるリスナーが集まっている。
「すごい集まってるな……」
「なんだか緊張しますね」
ミディアがらしくないことを言っている。
「やることは基本的に変わらない。いつも通りやろう」
「はい!」
俺は配信開始のボタンを押した。
『【耐久】40層まで【シュウ/ShuuMaT】』
「どうもこんにちはー。シュウです」
「ミディアです!」
:きちゃああああ
:ミディアさん!
:待ってたぞ!
:今日はすごい集まってるな
:やれんのか!
開始早々コメントの流れが速い。まだ目が慣れてないのもあって、全く読み取ることができない。
「今日は40層まで一気にいくからな!時間かかると思うけど、みんな食料とか用意してあるか?」
:もちろんよ
:パンとか用意した
:さすがに途中で仮眠取る
:買い出ししてきた
:途中で買いにいく
かろうじて読めたコメントを見るに、大体何かしら用意してたり、そもそも途中で寝る人もいるみたいだ。
「みんなは無理はしないでいいからな?眠くなったら寝るように。それじゃ、行こうか」
「はい!」
俺とミディアは探索を開始した。
30層からは深層と呼ばれるエリアになる。モンスターも強くなるし、フロアも広くなる。
30層より先で配信する人は少ないし、俺の元リスナーとしての知識も、そろそろ役に立たなくなってくるかもしれない。
雑談しながら歩いていると、早速モンスターが現れた。
カラフルなバカデカい蜘蛛。配信でも見たことがないやつだ。
「初めて見るモンスターだな。ミディア、食えそうか?」
「任せてください!」
巨大な口が現れ、蜘蛛を一口で飲み込もうとしたが、回避されてしまった。思ったより素早い。
「さすが深層って感じだな。これまでのようにはいかないってか」
すかさず俺が突っ込んで蜘蛛の体の下に潜り込み、腹パンを叩きこむ。
蜘蛛は吹っ飛んでダンジョンの天井に激突したが、まだ生きている。
「うへえ……。ついに俺の腹パンで倒せないやつがでてきたか」
蜘蛛はこちらを警戒するように距離をとったまま、何かを吐き出した。糸ではなく、球体の何かだ。
「私がやります!」
ミディアが槍を創り出し、蜘蛛に向かって踏み込む。
球体から針が飛び出しミディアを襲う。しかし、ミディアはこれを華麗に避けて蜘蛛を串刺しにした。
モンスターはまだ生きていたが、そのままミディアの口に食べられてしまった。
ぐちゃぐちゃもきゅもきゅと咀嚼音が鳴り、ごくりと喉を通る音がする。
「うっ……これはまずいです。毒があるのでピリっとした刺激があるのはいいのですが、生臭い上にどろっとしているので、泥を食べている気分です。星1つですね」
ミディアがしかめっ面で食レポをする。
毒があったのか。まあ俺たちに効くほどではないだろうけど、みくちゃんが言っていたとおり、30層からは、ダンジョンも死の危険性が出てくるんだな。
蜘蛛のドロップは糸の束だ。綺麗な糸だが、何かに使うんだろうか。
ドロップを回収してまた二人で歩き出す。
「腹パンで沈まなかったのは意外だったな。ミディアの口もかわされたし。さすがは深層だな」
「手を抜かずにきちんと戦った方が結果的に早く片付きそうですね」
「そうだな」
:腹パンで起き上がったのは初か?
:口をよけられたのも初かも
:やっぱ深層はこええ
:大丈夫かな……
:がんばれー
相変わらず爆速で流れて行くコメント。同接をみると、2万人を超えている。
深層での耐久も俺の知る限りではこれまでなかったし、目新しいのが効いているのかもしれない。
◇
「魔王様!」
コメントをちらちら見ながら歩いていると、ミディアに呼び止められた。
「どうした?」
「罠です」
ミディアが指差す先を見ると、細い糸が張られているのが見えた。
「この糸にひっかかると起動するタイプか」
「どうされますか?」
基本的にトラップの先には正解の道はない、というのが定説だ。
「一旦引き返して、他の道を進むか」
:深層のトラップは即死ありだからな
:トラップの先に道はなし
:引き返すで正解
:一筋縄ではいかんなやっぱ
:よく気づいたミディアさん!
俺たちは来た道を少し引き返し、一つ前の分岐を曲がって探索を進めていく。
「お。やっと30層終わりか……」
配信開始から約2時間ちょっと。これまで1層にかかった時間では最長だ。
「これはほんとに長い配信になりそうだなあ」
:ガチの耐久だなこれは
:集中力切らすなよ
コメントの流れが少し緩やかになってきた。のんびり眺めている人が増えてきたのかもしれない。
「今日はマジで長くなりそうだから、みんなのんびり見てくれよな」
かじりついて見ていたらもたないだろう。配信は娯楽だし、気楽に見てほしい。
◇
31層はすぐに突破できた。運よく正解の道を選び続けられたのだ。
「……魔王様。私の懸念は当たってしまったかもしれません」
なんだか元気がないなと思っていたところで、ミディアがぽつりと呟いた。
「ん?」
「モンスターがまずいです。これは由々しき事態です!おいしいモンスターがいないなら、ダンジョンなど……ッ!」
ミディアが大げさに騒ぎ、それに引き寄せられたのか、モンスターが現れた。
「おいミディア。モンスターだぞ」
現れたのはカニのような見た目のモンスター。色は緑だが、カニならおいしいかもしれない。
「カニ!」
ミディアが槍を構えてモンスターに突っ込む。
まずはハサミのついた腕を斬り飛ばし、続いて脚を斬って身動きを封じ、動けなくなったところを巨大な口が飲み込んだ。
「どうだ?」
「……」
ミディアは目を閉じて味わっている。いつも以上に時間をかけている。これは良い評価が出るかもしれない。
「カニですね。おいしいのはおいしいですが……目新しさという点ではマイナスです。星4つです」
「辛口だな……」
:カニだからな
:まんまカニなのはちゃうかったか
:求めてるのは新しい味
:でもちゃんと星4つ
:おいしいのはおいしいんだな
目新しさはないと言いつつも、おいしいモンスターに出会えたからかミディアの機嫌も直ったようだ。
32層はカニが多く出現して、ミディアはカニパーティを楽しんだのだった。
◇
昼すぎに開始した耐久配信も折り返しの35層に到達した。
俺たちは順調に進んだが、ここまでは初見のモンスターかカニばかりだったので、ほとんどミディアが食べてしまっていた。
今日お披露目しようとしていた魔法の出番もなく、どうしようかなどと考えていたのだが、ここでちょうど良くミノタウロスが出現した。
ミディアが「牛!」と突撃しようとしたのを制止して、こいつに向かって魔法を使うことにした。
手のひらをミノタウロスの方に向けると魔法陣が現れ、バチバチと漆黒の火花が弾ける。
【――闇の雷】
魔法陣から黒い雷が放たれ、ミノタウロスに直撃。その上半身を消し飛ばした。
すぐにミノタウロスは消え、ドロップアイテムの超高級牛肉だけが残された。
(初級魔法でこれかあ……)
魔法はいらなかったかもしれないなあ、などと考えつつ、ドロップを回収する。
:なにいまの
:え?
:魔王お前魔法使えたんか
:格闘専門だと思ってた
:え、まって。もしかして今までスキルなしで戦ってたの?
:そんなことある?
:まじかよ……
コメントが今日一番の爆速で流れていく。
「……魔王様」
「ん?」
ミディアが神妙な顔つきで声をかけてきた。何か問題でもあっただろうか。
「次は私に食べさせてくださいね!」
「お前ほんと食いしん坊キャラが板についてきたな」
その後出てきたミノタウロスはミディアに食べられ、無事高評価を得た。
まあドロップが牛肉な時点でな……。




