初配信
『233番の方。どうぞ』
探索者登録をすべく、俺たちは協会へとやってきている。受け取った受付表を手に持って待っていると、俺の番号が呼ばれた。目の前のドアには『鑑定室』と書かれたプレートが。
俺はミディアに自分の番までここで待っているように言い残して部屋に入り、奥に座っている担当の女性職員に受付表を渡した。
「真桐 周さんですね?スキルの鑑定を行いますので、こちらの板に手を載せてください。左右どちらでも構いません」
探索者として登録する時には必ずスキル鑑定を行う。スキルはピンからキリまで色々あるが、ほとんどの人は自分のスキルを活かしてダンジョンを探索している。
自分のスキルは『使える』のか。俺は少し緊張している。
右手をアクリルのような板の上に載せた。するとほんの数秒で『ピピッ』と音が鳴った。鑑定が終わったようだ。
「はい。完了しました。こちらが結果になります」
担当してくれた女性職員が、鑑定結果が書かれた紙を俺に差し出した。あまりにも事務的だ。
(内容全く確認してなさそうだったけど、良いのかな?)
しかしすぐにお役所仕事はこんなものかと思い直し、受け取った鑑定結果が書いてある紙を手に、鑑定室を出てミディアの元に戻った。
印刷されたばかりなので、鑑定結果が書かれた用紙はまだほんのり温かい。
「魔王様!どうでしたか?」
ミディアは俺のスキルが気になるようだ。
「俺のスキルは……」
俺は鑑定結果が書かれた紙に目をやる。するとそこには――
「は?」
鑑定結果の欄には、漢字二文字で『魔王』と書かれていた。
気のせいか、俺にはその文字がやたらとでかく強調されて見えた。
「スキルが魔王ってどういうことだよ……」
魔王は職業名では?それがスキルって……。
「さすがです!生粋の魔王様ですね!」
ミディアは無邪気に喜んでいる。
スキルは星の数ほどあると言うし、中には職業みたいな表記がされることもあるのかも知れない。俺は深く考えることをやめた。
続いて呼ばれたミディアが鑑定室へと入っていった。俺の時と同じく1分ほどで出て来たミディアに変わった様子はない。
「私は『捕食』でした!」
ミディアが胸を張って鑑定結果を俺に見せつける。そこにはやはり漢字二文字で『捕食』と書かれていた。
「まあそうだろうな」
ミディアは敵を『食う』。文字通りむしゃむしゃと何でも食べてしまうのだ。
その凶悪な能力で、人間達からは『暴食のミディア』と恐れられていた。
◇◇◇
探索者登録を終えた俺達は、買い物を済ませてファストフード店に入った。
「これで私達の姿を映すんですか……?」
ミディアが不思議そうに俺が購入した『フライビットカメラ』を見ている。つつこうとしているミディアを、カメラは華麗に避け続けている。
このフライビットカメラは、登録したユーザーの周囲を飛び回って撮影してくれるダンジョン配信者御用達のカメラだ。
どうせ探索するなら視聴者さんとわいわいしながらの方が良いと思い、配信機材としてここに来るまでに買ってきたのだった。
「ただダンジョン攻略してもつまらないだろ?視聴者さんとわいわいやりながらなら、きっと楽しくやれるはずだ」
「たくさん見に来てくれるといいですね!」
ミディアは初めてのハンバーガーの味に驚きながら無邪気にはしゃいでいる。
「人気配信者にはなれなくても、身内ノリっぽくわいわいできればいいかな」
人気配信者に憧れはあるが、常連の視聴者との内輪ノリも楽しそうだ。
「今日はこの後すぐにダンジョンに行きますか?」
「今日は配信のテストを兼ねて新宿ダンジョンを覗きに行こうと思ってる。テストだし、1層だけだけどな」
「なんだかわくわくしますね!これまで味方だったモンスターを倒すのも、背徳感があります」
ミディアが微妙に共感しづらい事を言い出した。
俺が魔王だった頃、モンスターは全て俺の配下ということになってはいたが、俺が直接何かを指示した事はなかった。なので、モンスターが味方だったという認識はあまりない。
俺は異世界にいた頃、そのほとんどの期間を練習で費やしていた。ラスボスらしく威厳たっぷりに振舞う練習だ。
結局本番でセリフを噛んでしまったのだが、あの時の勇者のかわいそうなものをみる目は今も忘れることができない。
◇◇◇
「ここが新宿ダンジョン……」
新宿ダンジョンの入り口で探索者証を提示してダンジョンの中に入ると、中は少しひんやりとしていた。
「普通のダンジョンですね。あっちと同じです」
「それじゃあ配信をつけるからな?視聴者さんが常に観てるって事を忘れるなよ?」
「任せてください!」
ミディアに念を押したが、本当にわかっているかは怪しい。
俺はフライビットカメラを起動して、配信を開始した。カメラが浮いて俺の周りと飛び回る。
◇◇◇
『ダンジョン探索デビュー配信【シュウ/ShuuMaT】』
こんなタイトルで配信を始めたが、まだ視聴者数は0人だ。
シュウだと被りが多いだろうと、みくちゃんに倣って名前の表記は少し変えた。
「弱いモンスターはあんまりおいしくないですねえ」
これまでに出て来たモンスターはゴブリンが5体。全部ミディアが食った。
今も新たに出現したゴブリンを、空中に現れた巨大な口が飲み込んだ。配信画面だと大迫力だろう。
これがミディアの『捕食』だ。
「その口って味覚も共有してるのか?」
「してますよ。味はもちろん、食べた物はきちんと私の栄養になります」
「そうなんだ……」
オークの肉は美味いと異世界にいる時に聞いたことがあるが、ゴブリンの味を知りたいとはあまり思わない。羨ましくはない機能だ。
「魔王様!視聴者さんが来ました!」
ついに俺の配信に初めての視聴者さんが来てくれた。
:魔王様?
いきなり魔王様呼びが聞こえたからだろう。コメントから困惑が伝わってくる。
:そういうロールプレイ?
「そ、そうそう。ロールプレイしながら探索してるんだ」
何とか誤魔化そうとしたが、ちょっと噛んで挙動不審になってしまった。肝心なところで噛む癖は治ってないらしい。
デビュー配信だから緊張してると思ってくれることを祈り、俺とミディアは探索を続けて行った。
:強くね?
:何その口。怖いんだけど……
:魔王様は戦わないの?
ミディアの捕食を見て視聴者さん達がざわついている。俺の配信の視聴者数は、今では15人。ほぼ全員がリアクションしたのか、一瞬コメントが加速した。
コメントが付くようになって、配信者になった実感が湧いてきた。
ただ、ミディアが魔王様呼びをやめないので、視聴者さんも俺の事を『魔王様』呼びするようになってしまった。
「俺?俺も戦うよ。次に出て来たやつは俺が倒そうか」
ちょうど良く別のゴブリンが現れた。低層はゴブリンが多い。低層配信ではおなじみの光景なので誰も驚いたりはしない。
「じゃあ観ててねー」
俺はゴブリンに近付き、その腹に軽くグーパンをお見舞いした。ゴブリンならこれくらいでもオーバーキルだろう。
――パァン!!
破裂音とともにゴブリンは消滅し、ドロップアイテムが残された。ミディアはうんうんと頷いている。
ゴブリンのドロップアイテムは耳。本物の耳ではなくプラスチック製の耳だ。
「これをリサイクルするんだよな。塵も積もれば……ってやつで、結構馬鹿にならないらしい」
ダンジョンでモンスターを倒すと死体が消えてドロップアイテムが残される。
低層は資源が多く、深層になるとマジックアイテムが出たりもする。
なぜこんなゲームのような仕様になっているかは解明されていない。モンスターを倒した探索者が強くなることも同じく謎として議論されていて、『神がゲームを参考にした仕様』と言われたりしている。
:えぐ……
:ゴブリン相手とはいえ威力やばない?
:腹パン魔王……
「浅い層ならこんなもんかな。いずれ深層にも挑戦したいから期待してて。今日はテストだけだからこの辺で。じゃあねー」
ミディアと並んで手を振って配信を締めた。動きをとめたフライビットカメラを回収する。
「ふう。初配信にしては結構視聴者さん来てくれたな」
「色んな人とお話ししながらだと楽しいですねー」
ミディアも楽しんでくれたようで良かった。
視聴者数も最終的には20人を超えていた。充分過ぎる成果だろう。
何とか初配信をやり切った満足感と共に、俺達は来た道を引き返してダンジョンを出て、その日は帰宅したのだった。
そして翌日。
自分のチャンネルの昨日の初配信のアーカイブ再生数を見て俺は驚いた。短時間の、しかも1層の探索配信の再生数が、なんと1000を超えていたのだ。
「思った以上に再生されてるな……なんでだろう」
俺は疑問に思ったが、再生数が伸びる分にはいいかと深く考えなかった。
「次はもっと強いモンスターを食べたいです」
「昨日はテストだけだったからな。次回からはどんどん進んで行くぞ」
自分達の評判がどうなっているかなど知りもせず、俺は次回の探索に向けて意気込むのだった。
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