ミディア襲来
「この一撃で……決める!」
少女は満身創痍。己の限界を超えて強く握りしめた剣が、光を放つ。
最後の力を振り絞り、命の灯すら力に変えて。
「はあああああ!!!」
少女は魂ごと吐き出すかのように叫び、剣を振りぬく。光の奔流が俺を呑みこみ――。
「うわぁっ!?」
俺は飛び起きた。
「夢か……」
役目を終えて日本に帰って来て1年。最後の光景は今でもたまに夢に出てくる。
「自分が死んだ瞬間だもんな……。そりゃ夢にも出てくるわな」
5年前のあの日、俺は異世界に召喚された。『やられ役』の魔王として。
そんなもの自分の世界の中だけでやれと抗議したが、『選ばれた以上変更は不可』と一蹴された。その上で、『役目が終わったら元の世界に戻してやる』と説得され、俺は仕方なく従った。
普段俺が何かをする必要はなかった。配下が全てやってくれたからだ。ただ、『殺されるのを待つだけの日々』というのは落ち着かなかった。
勇者が目の前に現れた時は震えが止まらなかった。セリフを噛んで少し微妙な空気になったりもしたが、なんとか最終決戦の流れには持ち込めた。
そして勇者に討たれて立派に役目を果たした俺は、約束通り日本へと帰還したのだった。
「汗だくじゃねえか……シャワー浴びよ」
日本に帰還して感じたのは、現代の便利さ。
蛇口をひねれば水もお湯も出てくる。良い香りのシャンプーにボディソープ。俺はそれら現代文明の全てに感激した。
シャワーで汗を流し、いつもの日課であるダンジョン配信を観る。
「日本に帰ってきたら、こっちもファンタジーになってるんだもんなあ」
日本に帰還した俺を待っていたのはファンタジー化した地球だった。ダンジョンやらスキルやらが当たり前の世界になっていたのだ。
「おっ。みくちゃんやってんじゃん!」
最近ではダンジョン配信が人気コンテンツになっている。人気配信者には企業がスポンサーに付くのも当たり前になっていて、有名配信者が使用している装備は飛ぶように売れるんだとか。
配信者がモンスターを倒すと武器に刻まれたメーカーのロゴが映る。かっこいいし、映える。売れるのも納得だ。小学生がなりたい職業の1位がダンジョン配信者だとこの前ニュースでやっていた。世は大ダンジョン配信時代である。
ちなみに俺の推しはみくちゃん。MIQQuuMと書いてみくと読む。一見わかりづらいが、みくだけだと被りが多いからだと雑談配信でみくちゃん本人が言っていた。有名配信者となった今では誰もが知っている。
「今日は新宿ダンジョンの35層か」
みくちゃんの良い所はかわいらしさと強さが共存しているところだ。
画面では茶髪のセミロングの髪が揺れている。戦闘中はキリっとする大きな目。すっと筋の通った鼻に小さな口がかわいらしい。少し幼く見える美少女だが、戦闘力は高い。
みくちゃんのスキルは『光属性付与』。
これは異世界の勇者が持っていたのと同じスキルで、最初に見た時はどきっとした。
みくちゃんはスポンサーであるメテローラ社製の剣に光属性を付与して戦う。
素早い動きで敵を翻弄しつつ、鋭い剣技でモンスターをばったばったと倒していくのだ。
「華があるよなあ」
みくちゃんはコラボで他の配信者と一緒にダンジョンを探索することはあるが、基本はソロだ。
ダンジョンはパーティで探索するのが一般的だが、彼女は普段の配信では誰とも組まない。
『余計な人物が配信に入ってこない』。これもみくちゃんの配信が人気な理由の一つだ。
――ピンポーン
みくちゃんの配信を見ていると、インターホンが鳴った。訪ねて来るような人に心当たりはない。通販で何かを買った記憶もない。何かの勧誘かセールスかと警戒しながら玄関を開けてみると、そこには本来ここにいるはずのない懐かしい人物が。
「魔王様!」
いきなり近所迷惑なバカでかい声で俺を魔王と呼んだこいつはミディア。俺が異世界で魔王だった時の配下の一人だ。
前も後ろも長い髪を垂らしていて表情を見る事はできない。ジャパニーズホラーの幽霊のような見た目だが、これで結構えげつない能力を持っている。
「声がでかい!……っていうか、何でお前がこっちにいるんだよ」
「神からの伝言です。『配下を一人プレゼント!』だそうです!」
「確かに人型だとお前くらいしかいなかったけど……何で配下を?」
とりあえずミディアを部屋に入れて飲み物を出してやる。お茶なら大丈夫だろうと思ってペットボトルごと渡してやった。
「冷たくておいしい……すごく発展した世界だって聞いてきましたけど、本当にすごいですね」
ミディアは俺が住むアパートに来るまでに見た日本の光景を話し始めた。
馬もなしに走る馬車、奇妙な服装の人々、高い建物の数々……。見る物全てが新鮮だったらしく、髪に隠れて見えない顔はきっと興奮して紅潮しているんだろう。
「魔王様は今は何をしてるんですか?」
「俺か?俺はだらだらしてる」
俺が魔王役を終えて帰還する時に、神はいくつか褒美があるから楽しみにしておけと言っていた。とりあえずしばらく暮らすのに充分な金は用意してやると言われ、帰還してすぐに確認した口座には1000万円が入金されていた。人生アガリとはいかない絶妙な金額だ。
『税金は気にせんでいいぞ』と言っていたので、俺はそれを使って遠慮なくだらだらとダンジョン配信を観て過ごしていたのだった。
「魔王様は命懸けでしたし、それで良いと思います」
ミディアは落ち着いたテンションで今の俺を肯定してくれた。
文字通り命を使って役目を果たした俺は、残りの人生に対して、すっかりやる気を失ってしまっているのだ。
ミディアは俺がいつも不安そうにしていたのを傍で見ていたし、今更何かを頑張れと言うような鬼畜じゃない。
「それ……何かを映す道具ですか?」
ミディアはパソコンのモニターに映るダンジョン配信に興味を引かれたようだ。
「これはこっちの世界のダンジョンを攻略している様子を見ているんだ」
「へえ……。面白そうですね」
ミディアはみくちゃんが戦う様子を興味深そうに見ている。
「この女の子、どことなく勇者に似てませんか?」
ミディアも気付いたようだ。
「やっぱりそう思うよな。俺も最初勇者かと思ったんだけど、似てるのは雰囲気とスキルだけだな」
「確かに……よく見ると顔は全然違いますね」
ミディアはダンジョン配信が気に入ったのか、食い入るように見ている。
「この女の子、良い剣を使ってますね」
「メテローラっていう会社が作っている剣だな。俺も持ってるぞ」
みくちゃんグッズを飾ってある祭壇から、同じモデルの剣を持ってきてミディアにみせてやる。
「これは良い剣ですね。どこぞの国の宝物庫に飾ってありそうな、立派な剣です」
「こっちは技術力が凄まじいからな。しかも同じ物をたくさん作れる」
ミディアは剣と配信を交互に見て、なにやら考え込んでいる。そして、
「魔王様。わがままを言ってもいいですか?」
「どうした急に」
「やりたい事がありまして……」
「やりたい事?」
「ダンジョンに行ってみたいです」
どうやらミディアはダンジョンに興味を持ったようだ。
しかし、元魔王とその配下である俺達がダンジョンへ行って面白いかと言うと……。
「うーん……」
「私達って以前はモンスターを使役する側だったじゃないですか。その私達が、今度はモンスターを倒して攻略する側になるのも面白いんじゃないかと思うんです」
確かにと思ってしまった。
「特にやることもなくだらだら過ごしているなら、暇つぶしにダンジョンに行ってみるのも良くないですか?」
魔王時代の力は引き継がれている。ダンジョンの深層までなら楽勝だろう。
ガチの攻略として考えると物足りない。でも、暇つぶしと考えれば丁度良いかも知れない。神からもらった1000万円も、いつかはなくなる。
ダンジョン探索者は稼げる。
俺にとってミディアの提案は、暇を潰せて金も稼げる良い案のように思えた。
「でも、ダンジョン探索者になるには身分証がいるぞ。お前戸籍とかないだろ」
ミディアは異世界の、分類上は魔族だ。こっちに戸籍なんかない。
「用意してもらいました!」
ミディアがジャジャン!と見せつけて来たのはマイナンバーカード。
名前の欄には『田中 ミディア』と書かれていた。
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