お披露目
ここ数日、色々あった。みくちゃんの40層到達に、探索者協会の理事だという八継さんに聞かされた政府の動き。
監視されるのは気分が悪いが、普通にしていればきっと大丈夫なはず。
みくちゃんとの約束もあるし、どんどん進んで行こう。
『【中層】今日もさくさくいくぞ【シュウ/ShuuMaT】』
配信を開始する直前の時点で、待機人数は3000人を超えている。みくちゃんが配信していないのもあって、直近で絡みのあった俺のところに、彼女のリスナーが来てくれているのかもしれない。
前回の配信では最終的に5000人を超えるリスナーが俺の配信を観に来てくれていた。右肩上がりの数字は嬉しいが、少しだけプレッシャーも感じる。
:あくしろ
:待機
:待機
:焦らすなー
:たいき
:待機
配信特有の待機コメントが並ぶ中、急かすようなコメントもちらほら見える。
あんまり待たせる意味もないので、俺は配信開始のボタンを押した。
「どうもこんにちはー。シュウです」
「ミディアです……」
:あれ?
:ミディアちゃんどこ
:ミディアちゃんを映せ!
:ミディアちゃんを返せ
:ミディアちゃーん!
コメントが加速する。この速さのコメントにはまだ慣れないが、皆がミディアを求めていることはわかる。
ミディアを映していないのはわざとだ。
せっかく髪を切ってもらったのだから、きちんとお披露目しようというわけだ。
「まあ待て。突然だが、皆にお知らせがある」
:なんだ?
:やめろ改まるな嫌な知らせに聞こえる
:まさか
:あー。そういうことか
:ついにくるのか!?
リスナーは配信者の「お知らせ」という言葉に敏感だ。これまでの歴史から、改まって言われると反射的に悪い報せかと身構えるようになってしまった。
もちろん、ミディアが映っていないことと最近の話題から察している人も多い。
「実は……ミディアを美容室に連れて行ったぞ!」
:うおおおおおお
:ついにミディアちゃんのお顔が!
:よくやったぞ魔王!
:ミディアちゃんのお披露目回か
:10000年待ってた
:はやく!はやくみせて!
リスナーは大盛り上がりだ。あまり焦らすのはかわいそうなので、早速ミディアのお披露目といこう。
「俺は優しいから焦らさずにぱっと見せてやろう。……では。これが、ミディアだ!」
カメラを操作してミディアを映す。
「担当してくれた美容師さん曰く、『襟足を長めに残し、トップにボリュームを持たせたロングウルフ。背中まで伸びた髪はレイヤーになっていて、動くたびに不揃いに揺れる。顔の周りはそぎ落とすようにカットされていて、絶妙なバランスでアシンメトリーに整えられている。近寄りがたくもあり、それでいて目が離せない……』、ということらしい」
:う、うつくしい
:あああああ
:かっこいい……
:美しさという概念の擬人化。計算され尽くしたワイルドさ。星5つです
:美容師さん良い仕事したな。これは完璧だわ
一部壊れてしまった人もいるようだが、大好評のようだ。
「どうだミディア。皆喜んでくれてるだろう?」
「それは良いんですが……やはりお手入れが大変で、それだけが不満です」
「まあそう言うなって。これでこれからはタクシーに乗って帰れるし、ちらちら見られることも……いや、別の意味で増えたな」
髪を切る前は不審者を見る目を向けられていたが、髪を切ってからはすれ違った人が振り返って二度見することが増えた。
「よし。お披露目はこれくらいにして、今日もさくさく行くぞ!」
カメラを自動撮影モードに切り替えて、今日の探索を開始する。
「魔王様。ずっと気になっていたことがあるのですが」
歩きながら、ミディアはふいに声をかけてきた。
「なんだ?」
「攻略を早めるなら、道を知っている方に頼んで先導してもらうのはだめなんですか?」
知識がないが故の純粋な疑問。確かにそういう考えの人もいるが――。
「それはだめだ。そういう行為はブースティングと言われて嫌われる。あくまで攻略は自分たちの力で、ってのが基本だからな」
コラボ配信とかでも、基本的には近い階層同士で組むのがセオリーだ。片方が道を知っていて攻略をショートカットするような行為は、ズルをしたと認識されてめちゃくちゃ嫌われる。コメントも荒れるし、掲示板やSNSでも叩かれる。
配信者であれば炎上待ったなしだ。
みくちゃんとの突発コラボが受け入れられたのは、目的が『進む事』ではなくて『10層の宝箱を探す事』だったからにすぎない。
「そうなんですねえ。みくさんに頼んで連れて行ってもらえばいいと、安易に考えてしまいました」
ミディアが危うい発言をしてしまった。これでは俺がみくちゃんと連絡が取れるようになったと言っているようなものだ。
:みくちゃんを頼るな
:連絡とれるの?
:この前の突発の時に連絡先でももらったんか
:羨ましいぞ魔王
案の定コメントが少しざわついている。ここは触れないでおこう。
しばらく喋りながら歩いていると、前方にモンスターが現れた。あのふざけた見た目は……。
「キャッシュだ!」
「?」
キャッシュというのは、ダンジョンにごく稀に現れるレアモンスターだ。札束に羽が生えたような見た目をして、ふよふよと飛び回っている。
「ミディア。ついでにもう1つお披露目といこう。食べる以外にも戦えるところを見せてやれ」
「わかりました」
「あいつは逃げるからな。一撃で仕留めるんだぞ」
ミディアは返事の代わりに槍を創り出した。見た目はシンプルだが、その槍からは禍々しいオーラが放たれている。
ミディアがキャッシュに向かって踏み込んだ。リスナーには、瞬間移動したように見えたかもしれない。
次の瞬間、カメラには串刺しにされたキャッシュが映されていた。
:え
:はや
:ミディアちゃんも強いのか……
:ただの腹ペコキャラじゃなかった
:キャッシュ裏山
串刺しになったキャッシュを、いつものように巨大な口で食べるミディア。しばらくもぐもぐわしゃわしゃと咀嚼音が聞こえて、ごくりと喉を通る音がした。
「まずいです。ただの紙ですね。インクの味もします。これは食べ物ではありません。星ゼロです」
心底嫌そうな顔をしながら、ミディアはそれでも食レポをやめなかった。
「そりゃそうだろうな。こいつは、飛んでるだけの札束だし」
:さすがにキャッシュはキャッシュ
:あの見た目でうまいはずもなく
巨大な口がぺっとドロップアイテムを吐き出す。
キャッシュのドロップアイテムは、ずばり『現金』だ。
キャッシュはレアなだけでどの層にも出現するが、ドロップする金額は層によって変わる。
「10万円!おいしい!」
今回ドロップしたのは10万円。中層なら大体これくらいだろう。深層にもなると100万円がドロップすることもあるらしい。
ちなみにキャッシュが落とす現金は、すべて本物であることがわかっている。
初期の頃は偽札を疑われたが、徹底した鑑定の結果、本物であることが判明した。仮説によると、全国の遺失物が回収されてドロップに回されているのではないか、と言われている。
現在は『キャッシュからのドロップは遺失物等横領罪には当たらない』という見解が公式に出されている。
キャッシュを倒して現金を手に入れた探索者は、公式ショップで鑑定を受けて、本物であることを確認してから使用することがマナーとなっている。
「いやーラッキーだったなあ。宝箱の時の不運が返ってきたかな」
:10万ドン!は羨ましい
:このダンジョン作ったやつおかしいよ
:ミディアちゃんの槍さばきすごかったな
:串刺しにして食べる用だから捕食スキルの範疇なのか
ミディアは魔王軍の幹部だった女だ。当然食べるだけなわけがない。
戦えば強いし、槍と突然現れる口のコンボはかなり強力だ。
「今日は幸先がいいな。このままどんどんいくぞ!」
この後も順調に攻略を進め、20層の転移結晶までたどり着いたのだった。




