外部接続。不正アクセスには『地盤改良』で対応します
「……管理者権限を奪ったイレギュラー(バグ)とは、貴殿らのことか」
平坦になったばかりの荒野。その上空に、音もなく「亀裂」が走り、光り輝く翼を持つ男が降り立った。
純白の法衣に身を包んだその姿は、この世界の住人が見れば「神」と崇めるだろう。だが、リゼの端末が弾き出したアラートは、その正体がさらに不気味なものであることを示していた。
「マスター、気をつけて! 奴の魔力波長、この世界のどのプロトコルにも該当しないわ。……外部ネットワーク、つまり『別の世界』から送り込まれた監査用プログラムよ!」
「監査官、だと?」
「ええ。第2章でアタシたちが仕様を書き換えたせいで、上位サーバーのセキュリティに引っかかったんだわ。奴、このエリアを『汚染区域』として強制隔離するつもりよ!」
監査官が冷徹な瞳で俺たちを見下ろし、掌を大地にかざした。
「規約違反を確認。これより、外部コードによる『強制上書き(オーバーライト)』を実行する。――滅びの紫光よ、全てを初期化せよ」
男の掌から、毒々しい紫色の雷が地表へと放たれた。
その雷が触れた地面は、ドロドロとした黒い泥のような液体へと変わり、周囲の「正常なデータ」を侵食しながら広がっていく。
それは魔法というより、世界のルールそのものを腐らせる「外部ウイルス」だった。
「まずいわ! あの泥に触れたら、マスターの管理者権限も、アタシの意識も全部上書きされて消されちゃう!」
「なるほど、汚染土壌ってわけか。……なら、混ぜて固めて『無害化』してやりゃいいんだろ?」
俺は襲い来る紫の泥を前に、新たな重機を召喚した。
「重機召喚――【地盤改良機】! 外部インジェクション、中和開始!」
現れたのは、巨大なタイヤと、車体下部に強力な回転式ミキサー(ローター)を備えた、地盤強化のスペシャリストだ。
俺は機体を急加速させ、侵食が広がる紫の泥の海へと、真っ向から突っ込んだ。
「セメント系固化材、最大噴射! 混ぜて、固めて、二度と動けなくしてやるぜ!」
ギュルルルルル……ッ!!
車体下のローターが、紫の泥と、俺が噴射した「魔力固化剤」を猛烈な勢いで撹拌していく。
外部から注入された「破壊のコード」は、物理的な質量を持つ土と、俺の固化剤に無理やり混ざり合わされ、その論理構造をズタズタに破壊された。
『うおおお! 「神の雷」を物理的に土と混ぜて固めてやがるww』
『「インジェクション攻撃には地盤改良」って、どんなセキュリティ対策だよ!』
『同接九十万人突破! 監査官の顔が、どんどん「ありえない」って顔になっていくぞ!』
監査官が放った「初期化の泥」は、俺の重機が通り過ぎるたびに、カチカチに固まった清潔な「地盤」へと変わり、その機能を完全に停止させた。
「……バカな。我が『最上位命令』が、ただの物理的な撹拌で無効化されるだと!? 貴様、一体この世界に何を構築しているのだ!」
「何って……誰もが安心して歩ける『安全な現場』だよ」
俺は地盤改良機のハッチを開け、驚愕に震える監査官を指差した。
「あんたの『外部コード』は、この世界の土質には合わないようだ。……リゼ、仕上げだ。隔離される前に、こっちから奴を『サンドボックス(砂場)』に閉じ込めろ!」
「了解、マスター! 固まった地盤を『仮想化境界』に設定。――外部監査官、隔離完了よ!」
リゼが端末を叩くと、俺が固めた地盤から光の壁が立ち上がり、監査官を鳥籠のように閉じ込めた。
外部からの不正アクセスを、物理的な「土木作業」で物理層から封じ込めた瞬間だった。
「……ふぅ。現場の安全確認、ヨシッ。さて、監査官さん。ゆっくり『利用規約』を読み直してもらうぜ?」




