黄金のターミナル。世界の『ガベージコレクション』が始まっています
「……管理者権限の開放を確認。でも、ここから先はアタシの端末じゃ『権限不足』で弾かれるわ!」
リゼが黄金に輝く立方体――世界の記録が眠るアーカイブを前に、悔しそうに拳を握った。
表面には複雑なプロテクトの紋章が走り、どんな魔法も、どんなハッキングも受け付けない「絶対的な拒絶」を放っている。
「マスター、これ、物理的な硬度も異常よ! 空間そのものを固めて作られてる。……普通の重機じゃ、刃が立たないわ」
(空間を固めたプロテクトか。……なら、空間ごと切り開くしかねえな)
俺は新たな機材を召喚した。
それは重機というより、巨大な滑車と、キラキラと輝く細いワイヤーのセットだった。
「機材召喚――【ダイヤモンドワイヤーソー】。切断作業に入る」
俺はアーカイブの周囲に滑車を設置し、ダイヤモンドの粒子を定着させた特殊ワイヤーを、黄金の立方体に巻き付けた。
強力なモーターが唸りを上げ、ワイヤーが超高速で回転を始める。
キィィィィィィィィィィィン……ッ!!
火花ではなく、黄金の光の粒子が飛び散る。
世界の最深部、その「核」を形成する超硬質の空間が、俺のワイヤーによってミリ単位で削り取られていく。
本来なら触れることすら叶わない「世界の理」が、物理的な摩擦と熱によって、ついにその中心部を露わにした。
パカッ、という乾いた音と共に、立方体が左右に割れた。
中から溢れ出したのは、これまでの階層の全記録、そして「創造主」のものと思われる、平坦な合成音声だった。
『――エラー検知。全セクターのデータ蓄積量が上限に達しました。
これより、メモリ確保のための【ガベージコレクション(不要データ消去)】を開始します。
対象:第1階層から第10階層までの全生命体、および構造物。――』
「……なんですって?」
リゼの顔から血の気が引いた。
端末に表示された「仕様書」の裏側を読み取り、彼女は震える声でその意味を翻訳する。
「マスター……ひどすぎるわ。世界の終わりって、誰かの悪意じゃないのよ。ただの『メモリ掃除』なの。システムが、増えすぎた人間や魔物を『不要なゴミ』だと判断して、一括削除しようとしてるんだわ!」
『う、嘘だろ……。俺たちはただの「ゴミ箱の中身」だったのかよ!?』
『「ガベージコレクション」って、プログラミングの用語だろ……? 世界の仕組みが冷酷すぎるww』
『同接五十五万人突破! これ、どうやって「工事」で止めるんだ!?』
配信のコメント欄が絶望に染まる。
だが、俺はワイヤーソーのスイッチを切り、静かに割れたアーカイブの中心を見据えた。
「掃除、ね。……勝手に俺たちの現場を『ゴミ』扱いすんなよ。溜まりすぎたデータが問題なら、削除するんじゃなくて、別の場所に『増築(メモリ増設)』すりゃいいだけの話だろ」
俺が不敵に笑うと、アーカイブの奥からさらなる警告音が鳴り響いた。
消去プログラムの「執行者」――。
ガベージコレクションを物理的に遂行するための、巨大な掃除機のような、あるいは全てを飲み込むブラックホールのような「影の巨人」が、サーバー塔の最下層から這い出してきた。
「リゼ、泣いてる暇はねえぞ。……世界規模の『増築工事』の受注だ。準備はいいか?」
「……ええ、マスター! アタシがこのクソみたいな仕様書を書き換えて、新しい『記憶領域』のパスを通してみせるわ!」
俺は再び重機の操縦桿を握り、迫りくる「世界の掃除屋」に向かってバケットを掲げた。




