空き容量不足? 虚空を削って『パーティション』を増やします
「……来るわ、マスター! 消去プロセス(ガベージコレクション)の実行体が、物理層に完全に具現化したわ!」
リゼの悲鳴と共に、サーバー塔の底から「虚無」が溢れ出した。
それは形を持たない、どろりとした黒い影の巨人だった。
巨人が触れた基板の床が、音もなく、光の粒子すら残さず消滅していく。
世界の掃除屋『ガーベージ・タイタン』。
奴にとって、俺たち生命体はメモリを圧迫するだけの「不要なキャッシュ」に過ぎないのだ。
「逃げ場なんてないわ……。この階層の端から順番に、データが全部消されていくんだもの!」
「リゼ、慌てるな。消されるのが嫌なら、消されない場所に『引っ越せ』ばいい」
俺は震えるリゼの肩を叩き、奈落の底、まだ誰も到達していない「世界の境界線」を指差した。
そこには、何も存在しないはずの真っ白な虚無が広がっている。
「……マスター、あそこはダメよ! データの定義がない『未割り当て領域』よ。あそこに踏み込めば、存在がバラバラになって消えちゃうわ!」
「定義がないなら、今から俺が作ってやる。――重機召喚、最大出力!」
俺がスキルを叫んだ瞬間、空間が悲鳴を上げた。
現れたのは、これまでの重機とは次元が違う、山のような鉄の巨体。
全長二百メートルを超え、先端には巨大な円輪に十数個のバケットを備えた、世界最大の掘削機械。
「超大型露天掘り掘削機――【バケットホイールエクスカベータ】。……全システム、稼働!」
ズゥゥゥゥゥン……ッ!!
数百のタイヤが基板を震わせ、巨大な回転ホイールが唸りを上げる。
俺は操縦桿を最大まで倒し、虚無の壁に向かって、その巨大な爪を突き立てた。
「虚空だろうが何だろうが、俺が削ればそこは『現場』になる。……リゼ! 削り取った空間に、片っ端から新しい『住所』を割り当てろ!」
「……正気!? 未割り当て領域を物理的に削って、強引に『フォーマット』しちゃうっていうのね!? 了解、やってやるわ!」
ホイールが回転するたび、何もないはずの虚無が「土」のような質量を伴って削り出されていく。
リゼが端末から高速でパッチを送り込み、削り出された空間に次々と新しい階層の定義を書き込んでいく。
『うおおおおお! 画面がバグってるけど、新しい地面ができてる!?』
『「未割り当て」を削って「新階層」を増設……。これもう創造主の仕事だろww』
『同接六十万人突破! タイタンの消去速度を、主の建設速度が上回ったぞ!!』
背後からはガーベージ・タイタンが迫り、足元の世界を消し去っていく。
だが、その速度を上回る速さで、俺のバケットホイールが虚空を削り、リゼが世界を広げていく。
「第11階層、増設完了! 続いて第12階層、マウント開始よ!」
リゼの声が響く。
俺たちが掘り進む先には、本来存在しなかったはずの、広大で真っさらな「新しい大地」が次々と生まれていた。
行き場を失ったガベージ・タイタンは、新しく増設された広大なストレージ領域を前に、処理が追いつかず立ち往生を始めた。
容量不足という削除の口実を、俺たちが「物理的な増築」という力技で握り潰したのだ。
「……ふぅ。現場の安全確認、ヨシッ。これでとりあえず、空き容量の確保は十分だな」
俺が操縦席から、新しく生まれた大地を見渡したその時。
逃げ場を失ったガーベージ・タイタンが、最後のあがきのように一つに凝縮し、眩い光を放ち始めた。
「マスター、気をつけて! 奴、消去に失敗して『強制再起動』を仕掛けてくる気よ! 世界の全データを巻き込んで、システムごと心中するつもりだわ!」




