厨二病フード
「ことの元凶は二日前。この街に魔術師の男が現れたんだ。
「理由はよくある旅の休みで、一晩休んだら街を出ると言ってた。
「王都の方には多いらしいが、この街に魔術師が来たのは、今年アンタとあの男だけ。
「俺達はあの晩、魔術師を面白いもの見たさで呑みに誘った。
「魔術師は酒をたらふく呑んで、俺達に旅の話をしたが、前に行った国が綺麗だったとかそこの奴らが気前が良かったとか、俺達にはまるで縁がねえ、少しばかり退屈な話ばっかりだった。
「それに飽きたのか、誰かが魔法を見せてくれって頼んだ。
「魔術師は快く了承したよ。
「そしたら一本、ナイフを取り出した。
「それで俺たちの指を小さく切れっていうもんだから少し不満になったが、その時の俺たちには酒の力があった。
「酔って大した判断能力もねえ頭のままそれを受け入れて、居酒屋に居た連中の全員が指に傷をつけた。
「最後の一人が指を切ったら、魔術師は訳のわからねえ呪文を唱え出したんだ。
「酒が回ってたモンだから記憶違いがあるかも知れないが、確か、イデンシカイセキ? あと、シコウカイロがどうだとか言ってた筈だ。
「それを聞いた瞬間、体が動かなくなっちまった。
「最初は酔いを強くするのかと思ったが、違った。
「突然体が勝手に動き出して、俺たちが自分の指を切ったナイフで、街にいる他のやつを襲い出した。
「商人どもは一斉街から逃げ出して、逃げ遅れたやつは俺達が殺しっちまった。
「逃げた奴らは、助けを呼んでくると言ったが、あれからアンタ達以外、誰街に来ないんだ。
「きっと、あの魔術師に殺されたんだ。
「もう、俺達はダメなんだよ」
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「よし―――大体分かった、ありがとう。」
レイは男に伝えて再度、暴れる者らに視線を向ける。
「俺が戻る必要は…………無いか。アリス! 話は聞こえてた?」
「はい! マスター!」
少し離れた場所で戦闘するアリスは、レイの言葉にすぐ応える。
今までの千里眼が如し視力や、かつて見たことの無い戦闘力の衝撃が強すぎたからか、地獄耳にはもう驚かず、言葉を続ける。
「何か原因わかるかな!」
「はい! 心当たりがあります!」
そう言うと、アリスはレーザーを出現させて、それで街の住民達の足を貫いた。
「誰一人死なせることなく、無力化を終了しました。マスター」
「ありがとう、心当たりって言うと、やっぱりそう言うことだよね?」
「恐らくは」
「じゃあ急いで街を出よう。王都がまずい」
「はい!」
アリスが返事すると、レーザーを出していたパーツが割れた窓から宿の中へと侵入して、機体に旅道具を掛けて出て来た。
「急ごう。俺達が街から出たらさっき捕まえた人の縄を切って欲しいんだけど、出来る?」
「レーザーの遠隔操作には慣れています。お任せを」
「任せた、行こう!」
すぐ様駆け出した。
未だ街のどこかに潜んでいた者達が襲いかかるが、もう応戦などはせずに、ただ逃げ続けた。
「もう大丈夫かな?」
「はい―――辺りに生体反応、見当たりません」
「よかった、少し休もう」
十分ほど走り続け、ようやく舗装されていない道が増え、街の影も見えぬ距離まで離れた。
息を切らして肩を上下させつつ、あたりを見回す。
道の傍は直ぐに山。
街の男が言っていた魔術師が現れれば、直ぐに逃げ込みやすい。
アリスもいるし切り札もあるので、大体の敵は倒せると思うが、もしアリスとレイの想像している敵が同じだった場合、対応し切れない可能性もあった。
「ねえアリス、もしかして街で聞いた魔術師って…………」
「ええ―――高い確率で、私の時代の武器を装備しているでしょう」
「ん? 魔術師が古代兵器とかじゃなくって?」
「人型の兵器は私が唯一であり無二です。あり得ません」
「そっか、良かった」
これからアリスレベルの敵との戦いが始まると思っていたレイは、敵の戦力が想像より低いと分かり、胸を撫で下ろす。
「敵の武器、どんなのか分かる?」
「はい―――形状はナイフで、刃に乗った体液から遺伝子情報を抜き取り、柄を握る手から使用者の脳へとその情報を移行。元の遺伝子が存在した体を自由に操ると言うものとなっています」
「操作期間は?」
「体液の種類にもよりますが、指先からの少量の血液ならば…………長くて一週間弱かと」
「ありがとう」
レイは自分が走った距離を計算する。
昔王都にて師匠に鍛えられた時からの癖で、余程突然の落下などではない限り、レイは常に頭の中で自分が移動した場所の距離などを、一時間以内まで記憶している。
「ちょっと一人で街戻ってくる。アリスはここで荷物守っててよ」
「戻る、マスター、それは流石に危険かと――――――あっ」
アリスが反応するより少し前、レイの姿はとっくに消えていた。
「マスター…………千年前でも早い方ですよ」
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「やっぱり、愉快犯か」
「全く……彼女と君、厄介な組み合わせだよ」
レイが村に戻ると、そこには住民でない黒い外套を纏って、深くフードを被った男が居た。
この男こそ、レイが話を聞いた男が言っていた、魔術師である。
「何しに来た」
「君こそ、あの兵器を連れずに戻ってくるなんて、愚策としか思えない」
男は軽薄な喋り方をした。
ロッソに少し似ているが、ロッソは裏がある。
そしてレイはこの男に、裏がないように見えた。
言うこと全てが本音であり、全てが未知数。
一歩踏み込めば闇に飲み込まれてしまいそうな男の声にレイは身震いしつつ、剣を抜いた。
「まあいい。俺はお前を、捕まえに来たんだよ」
「やってみろよ――――――!」
次の瞬間、レイは男の背後へと移動を終えて、剣を振るっていた。
男はそれを、ナイフで防ぐ。
「物騒なもの持ってるな―――貰ってくぞ」
レイは剣を納め、代わりにナイフを取り出した。
刀身に炎を纏わせて、駆け出す。
ナイフの軌道上には炎の尾が残り、一瞬で二度斬りつければ、空中には炎の十字が残った。
しかし、男はそれを華麗に回避する。
男の動きが軽いこともあるが、古代兵器のナイフに警戒して、レイが深く踏み込めないのだ。
「どうした! 弱いじゃないか!」
「うるさい」
脅し程度に半歩深く踏み込み、男が余分な程に背後へと飛んだ瞬間、レイは炎を纏ったナイフの刃先を、地面へと強く当てた。
「導火線――――――ボム」
「なっ!」
瞬間、刀身から炎は離れ、まっすぐの線となり、男の元へと凝縮された炎を運んだ。
そして足元まで届いた瞬間、凄まじい熱風を放ちながら爆発。
「少し威力は落ちたな…………」
レイは爆発によって砕かれたレンガの地面から発生した土埃を眺めながら言った。
「ったく、戦場の炎神が復活してるじゃないか。話と違う、嫌なんだよなあ、こういうの」
「やっぱり生きてるか…………」
再度ナイフに炎を纏わせる。
「どうせあれだろ? アリスと居たら強い敵に会うかもしれないし、元の魔法がないと怖いよ〜って急いで戻したんだろ?」
「ああ、その通りだよ。今まで通りじゃ、これからの戦いにはついていけない。せっかく死にかけて守った世界を、守れないからな」
「嫌になっちゃうよ。アンタは戻りかけてるし、ロムニス様には怒られるだろうしさあ」
瞬間、レイがナイフから放つ炎が肥大化。
刀身周りに纏わせていた程度のものから、人の丈以上、小屋程度の大きさがある剣の形を模す程までだ。
「お前が今言ったロムニスってのは、ロムニス・ロッチェロって男じゃあねえだろうな?」
「ご名答、君の宿敵、それが僕の主人さ」
「嫌になるのは、俺の方だ…………」
レイは言って、ナイフを振るった。
男は間合いの遥か外。
しかし、ナイフに纏わせていた巨大な炎は斬撃の形を残すように放たれ、半月形で男に劇中した。
「ッ! 突然何を!」
「帰る―――主人に伝えておけ。次は仕留める」
次の瞬間、レイの姿は影も形もなく消えていた。
「これだから…………世界は楽しい」
男は一言言い残し、深く被ったフードを脱ぐ。
レイに魔術師の話をした男であり、村を襲った魔術師本人。
ゲル・アズレーンは、静かに笑った。
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