第14話:先輩と後輩の三角関係
夏休み直前の祝日。
私は、高校のすぐそばにある、喫茶サミテン。通称ミテンに来ている。
今日は人と会う予定がある。
主催は私なので、早めに来て、ジュースを注文してちびちび飲んでいると、
「やあ、六依さん。久しぶりだね」
「一条先輩」
やって来たのは一条和也先輩。
前生徒会長だ。
会長は、私の対面の席に座り、
「どうだい?学校で何か問題は起きてない?」
「はい。今のところは大丈夫です」
「なら良かった。いやぁ、色々不安要素は全部片付けていったハズなんだけど、いざ卒業すると心配になるもんだねぇ」
と、以前と変わらない明るい顔で笑う。
「あ、そうだ、三島先輩から聞いたんですけど、一条先輩も、私のお悩み相談を見守ってたって、本当ですか?」
以前と先輩から聞いた、お悩み相談のリスクと対策の話の時に、一条先輩の名前も聞いた。
「本当だよ?折角素晴らしい企画なのに、そうゆう悪意のある人に荒らされちゃあ堪らないからね」
「なんで卒業前に言ってくれなかったんですか?言ってくれればありがとうございますって、その場で言えたのに・・・」
「縁の下の力持ちって、なんか憧れるでしょ?」
先輩はあっさりと、そんなことを言ってのけた。
「そ、そんな理由だったんですか・・・?」
「まぁね。・・・今日、僕を呼んだのはそのためかい?」
先輩は柔らかい笑顔のまま、私をじっと見ている。
しかし、私が先輩を呼んだ理由は別にある。
「実は今日、もう一人呼んでるんです」
「へぇ?」
「多分、もうすぐ来ると思います」
ちょっと待つと、ミテンの入口の扉が開き、誰かが一人入って来た。
あの人だ。
私がその人に手を振ると、その人もすぐに気が付いて、こちらへ駆け寄ってくる。
「あー、お待たせしましたー!」
その人は葛城紫音さん。
私の後輩にして、一条先輩の尊敬する先輩。
「おー、ホントに和也君だー」
葛城さんは、一条先輩を見つけるや否や懐かしげに言う。
そして、それに気が付いた一条先輩はというと、
「え・・・か、葛城先輩・・・?」
「そだよー?久しぶりだね」
「お・・・お久しぶりです・・・」
明らかに動揺している。
行方の知らなかった尊敬していた人が目の前に現れればこうもなる。・・・と、思う。
「本当に生徒会長になれたって、六依先輩から聞いたけど、本当?」
「はい。おかげさまで、無事に生徒会長として責務を全うすることができましたよ。これも、葛城先輩のお陰です。ありがとうございました」
けど、流石は一条先輩と言うべきか、すぐにその動揺は消え、自分のペースを取り戻す。
「うん。私の存在が誰かの為になったのなら、嬉しいよ」
笑顔の葛城さんは、その勢いのまま私に向き直る。
「あ、そうだ六依先輩」
「何?」
「隣座ってもいいですか?」
「ん、いいよ」
軽く会話を交わしながら、葛城さんは、私の隣に座る。
そんな光景を目の当たりにした一条先輩は、不思議そうに、
「六依さん?今葛城先輩が君の事六依先輩って呼んでた気がするんだけど・・・?」
そんな疑問に、葛城さんが答える。
「ああ、六依先輩と私は中学時代、先輩後輩の関係だったんだよ」
「そうだったんですか?」
「うん」
と、葛城さん
「はい」
と、私。
「へぇ・・・中学で・・・ですか・・・」
「うん。演劇部の後輩と、」
「先輩・・・です」
この三人、こんな関係になっている。
[私]
先輩 後輩
┐ ┘
後輩 先輩
[葛城さん]先輩←後輩[一条先輩]
・・・・・・
やっぱりこの関係凄いめんどくさいかも!
「あ、そうだ葛城さん」
「何ですか?」
「一条先輩が言ってたんだけど、葛城さんも人の名前、全部覚えてるの?」
意識してないと敬語がうっかり出てしまいそうだ。
けど、敬語でしゃべったら、また指摘してくるに決まってる。
「勿論!記憶力には自信がありますからね」
「ああ、葛城先輩は、生徒の名前だけじゃなく、図書館の蔵書とか、覚える事に関しては飛びぬけてたね」
「す、すごいですね・・・」
「まぁ、図書館の蔵書は流石に一部覚えきれなかったですけどね・・・」
「いや・・・一部以外覚えられてるだけでも十分凄いと思う・・・」
そもそも図書館の本を覚えようって考えがまず無い。
「うん。僕も図書館の蔵書なんて覚える気にすらならなかったよ」
「実際データベースがあるから、覚える必要はないんだけどね」
あははははは・・・、
と軽く笑っている葛城さん。
この二人の圧倒的記憶力。私も欲しいなぁ。
敬語で話すか、タメ語話すか、何度も迷いながら会話を紡ぐ。
ただ話すよりも何倍も頭を使う。
それを私以外の二人はスムーズかつ完璧にこなす。
凄い人は、いろんなところが凄いんだよ。やっぱり。
「六依先輩今副会長ってことは、やっぱり来年度は会長ですかね?」
「順当にいけばそうなるの・・・かな?」
「六依さんなら大丈夫だよ。年度末のゴタゴタも結局すぐ解決したって、三島君から聞いたしね」
本庄さんの事だろうか、ゴタゴタって。
「はい。今はもうすっかり解決しました」
すっかり仲直りして、
むしろ本庄さんのライブに行く仲になった。
あ、でもライブ自体は前から行ってたか・・・
「一年生の頃から、粗削りな所はあったけど、問題解決能力に関しては見る目があったからねぇ」
「へぇ・・・先輩、本当に記憶失ってるんですか?聞いた話をまとめると全然失ってる感ないんですけど」
「う、うーん・・・実際中学の頃とか全然思い出せないし・・・」
この一年半。いろいろな事があったけれど、過去が空っぽな事はちっとも変っていない。
最近は、過去の夢も見なくなってしまった。
夢は見たとしても起きたら全然思い出せないのであまり影響は与えて無いけれど。
「ま、記憶が無くても、本質というか、魂の部分は変わってないんだろうね」
「魂・・・ですか・・・」
色々失って不安だった頃から、記憶は失ってるけど、中身はあんまり変わってないって、
何度も言われてきたなぁ・・・
「私って、やっぱり変わってないんですかね」
そんな問いに、葛城さんがすぐに答えてくれる。
「そうですねー・・・和也君の話を聞いた限り、中学の時の先輩と、中身も外見も全く変わってないです。私の知る六依先輩そのまんまです」
「そう言われると、なんか安心する」
「六依さんにとっては、今、初めて下級生が出来て、迷ってるかもしれないけど、きっと大丈夫だろうね。後輩との付き合い方は、中身が覚えてるよ」
「そうですか?」
「現に私とも自然に喋れてますしねー」
それは例外中の例外に当たると思う。
タダの後輩じゃないもん。葛城さん。
「ま、僕から言えるのは、六依さんは、きっと立派な生徒会長になれるよ。って、これくらいかな」
一条先輩は、いつも通りの笑顔を浮かべ、私に激励の言葉を送ってくれる。
「私からも。先輩は、そのまま先輩らしくしてれば、大丈夫です。私たちみたいに生徒会長の任は全うできると思いますよ!」
葛城さんからも励ましの言葉を貰う。
「あ、ありがとう・・・ございます・・・ね?」
同時に言われた時、どう返せばいいかわからなくなって、なんか微妙な感じになってしまった。
けれど、その言葉は私を元気づけるのに十分な効果があった。
先輩二人・・・いや、先輩と後輩からエールを貰い、私の中に一層の自信が生まれる。
でも、できればこの集まりはこれっきりにして欲しいな!
会話がややこしくてたまらない!




