第10話:初夏の一幕
七月初頭。
"夏"が存在感を出してくる頃。
私と慎二君は、放課後ミテンで軽く軽食を取りつつ雑談していた。
「そういえば、最近近所で誘拐事件があったらしいな」
「本当?怖いなぁ」
「まだ解決してないみたいだし、由依も気を付けろよ」
「気を付けるって、どうすればいいの?」
「・・・ほら、えーっと、二人以上で登下校するとか・・・」
「それは鈴とよくやってるよ」
「今日はやってないだろ」
「今日はさ、ほら、慎二君がいるから・・・」
慎二君、柔道部だし、きっと守ってくれるはず。
「まぁ、それは置いといて、一昨日見ちゃたんだけど、体育祭の広報誌に由依の写真コーナー無かったか?」
「あ、バレた?」
広報誌には、新江先輩との契約で、私の写真コーナーが作られている。
正直恥ずかしいけれど、お悩み相談の為には致し方ない。
「あんなん開けばわかるレベルだぞ。・・・まぁ、朱音は開くことすらしなさそうだけど」
「確かに・・・鈴も見ることなく机の奥に突っ込んでたかも」
お陰で、鈴や朱音さんからの言及はまだない。
「広報誌って、生徒からしてみればそんなもんだよな」
「うん」
実際の所、本庄さんは二人っきりの時に聞いてきたけど、校内新聞に私の記事を載せるための代償って言ったら、
「記事載せてもらう為に専用の写真コーナー設けてもらうって代償でもなんでもないじゃん」
って言われた。
目立つのが好きで現役の芸能人の本庄さんからしたらそうなのかもしれないけど、
私にとってはやっぱり代償だよ。私はお悩み相談ができればそれでいいもん。
そんなことを話しているうちに、私が注文していたティラミスがやってくる。
「ここのティラミス、旨いけど太りそうだからなかなか食べれないって朱音は言ってたな」
「ふーん・・・私は太らないらしいから食べちゃお」
私は気にせずティラミスにフォークを入れる。
「その身体、全国の女子が羨ましがるだろうな」
「その分背負ってるハンデが段違いだからこれくらい許してほしいよ」
改善しつつあるとはいえ、極端な体力と筋力の不足は、私生活において中々辛いものがある。
実際、まだ家から学校まで、早歩きで行こうとすると、途中で限界を迎えてしまうので、
すこし寝坊すると、遅刻に直結する。
「まぁな」
ティラミスを食べながら、私は今日の本題に切り込む。
「そういえばさ、慎二君の趣味って、何?」
「趣味?」
「そう」
「趣味かー・・・釣りかなぁ」
結構意外な答えが返ってきた。
今まで慎二君本人からも、朱音さんからも、そんな話聞かなかったから。
「そうなの?聞いたこと無かった」
「まぁ、言ってなかったし・・・っていうか、何でいきなり趣味の話に?」
「ちょっと前にね、鈴と趣味の話になって、私って、趣味と言えるものが無いなって話になったの」
「趣味が?」
「目覚めてすぐはこの高校入る事ばっかり考えてたし、入ってからは、友達作って、話してるだけで楽しかったし・・・夏休み開けてからはお悩み相談の事しか考えてなかったしで・・・」
何か、こう、誰の得にもならないけど、ただ自分が楽しいだけ。みたいなものもあった方が楽しそうだよね。
って、そう思う事が最近多くなった。
と、いうよりも、お悩み相談が途絶えてしまった時、凄い暇だった。
「なるほどなー」
「それで、何か参考に出来そうな趣味って無いかなーって、ちょっと聞いてみた」
「そういうのって、朱音とかに聞いた方が良いんじゃないの?俺に聞いても男物な趣味しか浮かばないぞ?」
「あー、それもそうだね・・・」
「ま、でも趣味を持つってのはいいものだと思うぜ、履歴書にも書けるし」
その後も、趣味について、あれこれと話していた。
意外と長い時間話し込んでいた私たちは、お会計を済ませ、外に出る。
「今日はありがとね、いろいろ考えてくれて」
「力になれたかどうかは、ちょっと怪しいけどな」
「もしかしたら後で大事になってくるかもしれないし、まだ分かんないよ」
「ならいいんだけどなー」
と、喫茶店での話の続きをしながら帰り道を歩いていると、
「あ、雨」
ポツポツと、身体に雨粒が当たる感触がする。
アスファルトにも、所々に雨があたって、黒くなっている跡が見える。
「うわー、傘持ってきてないや」
「私も」
と、ちょっと足早に帰ろうと思った直後、雨は一気に勢いを増し、轟々と音を鳴らす土砂降りへと変わる。
「うわっ!強っ!」
「ゲリラだゲリラ!」
雨宿りできる場所を探して二人で走る。
といっても、私は全然走れてないので、それに合わせてる慎二君も普通にびしょ濡れだけど。
なんとか屋根のあるバス停までたどり着いた私たちは、一息つく。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
私だけが息を切らせている。
「大丈夫か?」
「う、うん・・・すこし休めば・・・」
慎二君の方は全然平気そうだ。
まあそうだよね、普段から柔道部でトレーニングしてる人が私のペースに合わせてくれてるんだもん。
「あーあ、ビッショビショになっちゃったよ、ノートとか大丈夫かなー・・・」
私も持ち物が無事か確認してみよう。
「・・・」
よかった、スマホはちゃんと起動する。
ノートは・・・ちょっと湿っちゃってるかも。
バッグの中を覗いて様々なものの安否確認をしているとき、ふと思い出す。
・・・これ、私の制服も無事じゃないよね・・・?
さりげなく自分の服に目を落とすと、案の定少し透けてしまっているようだ。
待って、これ今私・・・!
さっと胸元を見る。
あー・・・やっぱり透けてる・・・
慎二君・・・見て無いよね?
と、視線を向けてみると、
「あ、プリントが・・・」
どうやらまだ鞄の中身を確認しているようだ。
ちょっと安心した私は、そのままベンチに座りながら、身体を休ませる。
しばらく待っていると、ゲリラ豪雨はすぐに収まり、またいつもの曇天に戻った。
「あ、雨やんだみたいだよ」
「あー、ホントだ」
「じゃ、そろそろ帰ろうか」
と、ベンチから立ち上がると、急に後ろから慎二君が、
「あ、ちょっと待て」
と、言ってくるので、私もピタッと動きを止める。なんだろう。
と、静止していると、鞄から何かを取り出し、手渡してきた。
「ん?」
手に取ってみると、それは、男子用のスクールベストだった。
「何これ?」
と、聞いてみると、
「あー、いや・・・由依さ、雨で濡れてたからさ・・・ほら、シャツって濡れるとさ・・・」
気まずそうに言う慎二君の言いたいことは、私もはっきりと理解できた。
・・・透けてるからこれで隠せって事だよね。
・・・つまり透けてるの知ってたって事だよね。
「そ・・・その・・・見ちゃった?」
ベストでさっと前を隠しながら、聞いてみる。
「一瞬、一瞬だけな?一瞬だけ見えて、あ、これヤバいなって思って」
「そっ、そう・・・それなら・・・いいけど・・・」
良くはない。
バッチリ見られるよりは遥かにマシだけど。
「ま、まぁほら、それ着てれば帰るまで誰かに見られたりはしないからさ」
「そ、そうだね!あ、ありがとう・・・」
お互いにギクシャクしながら言葉を交わし合い、私は慎二君のベストを着る事にする。
着てみると、
「うわー・・・ぶかぶか」
ベストって、基本的にちょっと大き目なサイズのを使うけど、そんなレベルじゃなかった。
「まぁ・・・俺のだし」
「と、とにかく、明日洗濯して返すね」
その後は、ちょっと気まずくなって、会話は減ったけど無事に帰宅できた。
まだ鈴は帰って来てはいないようだ。
もし帰ってきてたら男物のベスト着て帰って来たのがバレて凄い勢いで煽られそうだし、セーフかな。
・・・そういえば、一瞬だけとは言え、見ちゃったって、言ってたけど、
何を見たかまでは聞いてなかったなぁ。
下着・・・は勿論恥ずかしいけど、
傷については・・・慎二君、知ってるのかな。
去年の海の時も何も言ってこなかったし。
・・・でも、またこの話題したくはないしなあー・・・




