第14話:偶像と実像
私は屋上への階段を上がっている。
その先には、本庄さんが待っているから。
分かり合えないと言われた。
関係無いことだとも言われた。
だけど、これは本庄さんから持ちかけられた、お悩み相談。
これは、生徒会として、
そして、六依由依として、
やらなければならない事だ。
「本庄さん・・・」
「六依・・・」
屋上で、二人向かい合う。
あの時とは違う。
周りには誰もいない。二人きりだ。
「・・・やっぱりあの時は、あたし疲れてたんだと思う。人前であんなにキレて、本性出して、今まで演出してきたアイドルとしてのあたしが台無しだよ」
その声色は、本来の本庄さんの強い口調でもなく、アイドルのようなきらびやかな口調でも無かった。
「本庄さん・・・」
「でもさ、多分、それはあんたも一緒でしょ?あんただって、今まで作ってきた、お悩み相談のブランドに傷がついたんじゃない?」
「それは・・・」
それは、間違いではない。
信用は、こうも簡単に崩れてしまうのかと、身をもって実感した。
「それに関しては、あたしも悪かったって、そう、思ってる」
「それは、お互い様だよ・・・」
「・・・そう、じゃあ、その話はこれで終わり。後は・・・・・・あんたじゃなくて、生徒会として、話を聞いて欲しい」
「わかった」
「・・・あたしはさ、やっぱり人気者になって、ちやほやされて、皆の中心に居るのが好きなんだよ。それは今も変わらない」
今まで聞いたこともない、真剣な本庄さんの心の中。
私は、私という個を殺し、生徒会として、話を聞く。
「その為に、いろんな事を考えて入学してきた。目立つ自己紹介、男子ウケの良い態度、本当にいろんな事を考えてた、だけど・・・」
「・・・」
「それらは全部、たった一人のクラスメートにかっさらわれたの」
私の事だ。イブの日に聞いた。
あえて私の名前を出さなかったのは、本庄さんの気遣いだろう。
「悔しかったよ。だけど、あいつもわざとやってる訳じゃないから、その怒りもぶつける先は無かった」
私の前で、私の話をしている。あくまで、どこかの誰かと言う体で。
「だから、あたしはあいつを越えようってそう思った。あれを越えるには、もうアイドルしか無いなってね。で、セモプロがPeacE.の新規メンバーを探してるって情報を調べて、アイドルウケしそうな見た目を研究して、セモプロの事務所の近くを訳もなくブラブラして、それでスカウトされて・・・」
本庄さん、そんなことしてたんだ。
「それで、あたしはアイドルになった。アイドルになったこと自体は後悔してないよ。目立つのは好きだからね。初ライブだって、超楽しかった」
あれは、私も楽しかったよ。
「だけど、そんなことしてるうちに、あいつはもっと、もっと学校で目立ち始めた。全生徒の注目を集めるくらいに」
「・・・」
「逆にあたしは、色々失ってた。偶像である事に拘りすぎて、友達の存在を失ってた。目立つ事も、楽しめなくなってた。それを今、ファンを失って気がついた」
本庄さん・・・
「ファンを失って、楽しむ事も忘れて、メンバーに迷惑かけて、挙げ句の果てに、気に入らなかったあいつにまで迷惑かけて・・・」
本庄さんは軽く震えている。
「あたしは・・・どうすればいい・・・?」
震えた声は、涙を浮かべているようだ。
「ファンは・・・失って無いんじゃない?」
私は、六依由依としてではなく、生徒会の一人として答える。
「本庄さんには、まだ、日本中に、ファンがいるんじゃない?」
「それは・・・そうだけど・・・」
「学校でって、話なら、まだ一年生なんだし、やり直せると思う」
「・・・やり直すには・・・もう、私には何も・・・」
「・・・ごめん。もう、生徒会として、話を聞いていられない」
「えっ・・・」
「ここからは、私として、六依由依として、言わせてほしい」
もう、私も我慢の限界だった。こんな本庄さんは、見たくは無かった。
「私は、本庄さんがデビューした時のライブ。凄い楽しかったよ」
「え?」
「あんな軽快なダンス踊れるのも凄いし、歌もうまいし、あの、サイリ・・・えっと」
「サイリウム?」
「そう、サイリウムの嵐の中で平然と歌って踊れるのも羨ましいし・・・」
だめだ、要領を得て無い。
「と、とにかくっ!私は本庄さん、凄いと思うし・・・その、本庄さんのあのアイドルしてる姿、私はもう一回見たいし、私は、本庄さんの味方でいたいから・・・」
「・・・」
「お友達として、一人のファンとして・・・やり直したり・・・できないかな・・・?」
私の、本心からのお願い。
「あたしは、六依さんのお悩み相談を壊しちゃったのに?」
「だからこそ、だよ・・・」
お互い、学生としてのアイデンティティを失った者同士、手を取り合ってやり直していこうって。
「・・・わかった・・・由依ちゃん」
本庄さんが右手を出してくる。
「・・・未来ちゃん」
私も右手を出して、固い握手を交わす。
「「これから、よろしくね」」
思い出は、作り直せるから。




