第10話:スイーツバイキング
「お待たせしました。では二名様、お席へご案内いたします」
「はっ、はい!・・・」
係の人に言われるがまま席に案内されて、
椅子に座る。
ギリギリ二人分のスペースがあるテーブルだ。
向かい合わせだけれど、距離が近い。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
強制的にお互いの姿が視線に移るポジションに、
二人で黙り込んでしまう。
一時の沈黙の後、
「あー・・・ほら、」
牧原さんが口を開く。
「時間勿体無いから、なんか取ってきたら?」
「そっ、そうだよね!」
ガタンっと、席を立ち、ケーキの並ぶスペースへと逃げ込む。
もうっ!
どうすればいいの?
私にはレベルが高すぎるよ・・・
悩んでても仕方ない。
・・・とにかく、何かケーキを選ぼう。
・・・・・・美味しそうなケーキばっかり・・・
ホントはあれもこれもってしたいけど、
いっぱい持って行って牧原さんに変な顔されたら嫌だなぁ・・・
二個くらいにしておこうかな・・・
ケーキを二つ取って、ゆっくりと席に戻る。
「お、おまたせ・・・」
「ああ、じゃ、次俺行ってくるよ」
そろそろと席に戻ると、牧原さんが入れ替わりで立ち上がる。
席に座り、目の前のケーキを眺めながら頭を抱える。
どうしてこんなことになってしまったんだろう・・・
一時間前はこれっぽっちも考えて無かった。
牧原さんとスイーツバイキングなんて・・・
牧原さんと・・・デートだなんて・・・
心拍の高まりは一向に収まらない。
何も考えていないと、鼓動を意識してしまうし、
何か考えようとすれば、内容は牧原さんの事になってしまって、心拍が上がる。
暖房が効いてる室内だからとか関係なく体が暑い。
コートを椅子に掛けたくらいじゃどうにもならない。
そんな思考の負のスパイラルに陥っていると、
「ふぅ・・・混んでるなぁ・・・」
そんなことを言いながら牧原さんが戻ってくる。
二人が各々ケーキを持ってきたところで、
「「い、いただきます・・・」」
まるで普通に食事をするように食べ始める。
・・・・・・うん。美味しい。
ケーキはすごい美味しいんだけど・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
沈黙が辛い!
空気が重いよ・・・
な、何か、話題を作らないと・・・!
「そっ、その・・・牧原さんは、こういう所とか、行ったり・・・する?」
「・・・いや、行かないなぁ、彩音に連れていかされた事は一回あるけど」
「そ、そうなんだ・・・」
「そういうそっちはどうなんだ?」
「私!?・・・私も、そんな感じ・・・鈴に連れられて行った事はある・・・うん」
「ふーん、一年ちょっとの間に二回も行ってんのか」
「そうだね・・・」
「・・・・・・」
再び訪れる沈黙。
周りのざわざわとした騒音が耳に入ってくる。
その時、鈴のLINEの内容を思い出す。
鈴「慎二くんって呼べばいい雰囲気になれるかもよ?」
慎二くん・・・ いやいやいや。
今まで牧原さんだったのがいきなり慎二くんなんて、
馴れ馴れしすぎて・・・
でも、この雑音に紛れて一回くらいなら・・・?
・・・
チラッと牧原さんの方を確認する。
牧原さんはケーキを食べながら明後日の方を見ている。
いっ、今がチャンス・・・?
私はスーっと息を吸い、声量を間違えないように注意を払いながら、タイミングを見計らって、作戦を決行する。
「しっ、慎二くん・・・」「ゆ、由依・・・」
「・・・・・・」「・・・・・・」
目があったまま二人で固まる。
最悪っ!
また被った!
しかも由依って!由依って!
牧原さんも私の事初めての呼び方して!
「えっと、今のはね!鈴がそう言う言い方するといいよ、って、そう言うから!ね?」
作戦に失敗した以上言い訳して逃れるしかない。
「あ、ああ、俺も彩音がこうすると良い雰囲気が作れるって言ってたから・・・」
「だっ、だよね!そうだよね!」
「おう!」
・・・
・・・・・・・・
つまりそれってどっちも良い雰囲気作ろうとしてたって事じゃん!
つまり、
つまり牧原さんも私の事を・・・?
・・・・・・
まだその結論に達するのは早いと思う。うん。
「な、なぁ」
「はっ、はいっ!」
急に呼ばれて改まった返事をしてしまう。
「さっきの呼び方・・・どうする?」
その話題続けるの!?
「えっあっ、そのぅ」
「戻すか?・・・それとも、これからあれでいくか・・・?」
えっ、えっと、つまりそれは私は牧原さんの事を慎二くんって呼んで、牧原さんからは彩音さんみたいにに呼び捨てで呼ばれるって事だよね?
えっと、えっと、ど、どうしよう・・・
で、でもこんなタイミング逃したら呼び方変えるタイミングなんて二度と来ないだろうし・・・
でも・・・
・・・・・・
「しっ、慎二くん!」
声量を間違えた気がするけど、もう引けない。
「お、おう」
「こ、このままで・・・いこう・・・?」
最大限の勇気を振り絞った行動。
「分かった。由依」
「っ!!」
さっきまで高かったハズの心拍が更に高まる。
あっ、
やっぱダメかもしれない・・・




