第12話:変わらぬ二人
「ごめんねお姉ちゃん。・・・怖かったよね」
「うん・・・死ぬかと思った・・・」
溺れて死にかけた私は、牧原さんに助けられて、今は砂浜に座っている。
助けられた直後はずっと泣きっぱなしだったけど、今はだいぶ落ち着いている。
けど、砂浜で座っているのが精一杯で、これ以上海に近づける気はしなかった。
「ほんとに、ほんとにごめんなさい!」
「う・・・うん・・・もうわかったから・・・」
土下座もかくやという猛烈な勢いで頭を下げて謝って来る鈴をなんとかしながら、
海岸で並んで座っている朱音さんと牧原さんを眺めていた。
正確には牧原さんの方を。
溺れた私を助けてもらったとき、泣きじゃくる私を砂浜まで連れて行ってくれた時。
不安定な精神状態だったけれど、その時の感触と安堵感は今もはっきりと覚えている。
「・・・はぁ・・・」
意味も無くため息が出る。
・・・後で、ちゃんと謝っておかなきゃね。
「あの二人が気になる?」
不意に鈴が視界に割り込んでくる。
「え?」
「あの二人、何話してるか気にならない?」
「いや、まぁ気になるけど・・・」
あの二人、何かは話しているようだけど、波打ち際で話しているので、私は近寄れない。
「そんなときにはー?・・・これ!」
鈴がバッグから何かを取り出してくる。
「何?これ」
「集音機だよ」
「え。えぇ・・・」
なんでこんなもの持ってきてんだろう。
だけど、興味には逆らえなくて、集音機を二人の方へと向けた。
波の音に紛れながらも、二人の会話が聞こえて来る。
「由依の事、ありがとうね」
「ああ、ああいう時の為に付いてきたようなもんだし」
「ナンパ対策だったんじゃないの?」
「それもあるけど、せっかく海行こうって話の時に、溺れた時はー、なんて話ししにくいだろ」
「あー・・・あんまネガティブな考えはしたくないよね」
やっぱり、私が溺れてしまった事について話してるみたい。
あれがあってから、皆でする話題はそればっかりになってしまった。
「ところでさ、私の事、どう思ってる?」
あ、話題が変わった。
隣の鈴がおぉぉ!?となにやら興奮気味だ。
「は?朱音の事を?」
「そう」
「どうって・・・幼馴染の腐れ縁って感じだろ、ずっと」
「それだけ?」
「うっ・・・いや、まぁ、前から割と可愛いとは思ってはいたけど・・・」
「へぇー、そうだったんだーへぇー・・・」
「だから言いたくなかったんだよ。お前すぐ調子にのるからー」
「あはははっ、そういえば慎二って恋人居た事あんの?」
「恋人?・・・いや、無いけど・・・」
「へー、どう?一回私と付き合ってみる?」
鈴が隣でキター!って小声で叫ぶ。
「は?お前何言って・・・?」
「冗談冗談。慎二と恋人とかイメージできないし」
「お、おう・・・確かにお前と付き合うって言われてもいまいち想像できねぇな」
「だよねー」
「なんかお互い別の恋人が出来ても、ずっとこんな事やってる気がする」
「なんかわかるかも」
「もう一生幼馴染として喧嘩しあっていく仲なんじゃねぇかな俺たち」
「やだなーそれ」
あはははははは
と二人で笑いあっている。
「ねえお姉ちゃん」
ふと横にいる鈴が私に話しかけて来る。
集音機のイヤホンを外し、
「何?」
と答える。
「あの二人、進展するかなぁ・・・」
「え?どうだろう・・・」
「わたしの見立てだとあれ、進む気がしないんだけど」
「私に聞かれても・・・」
分かんないよ。恋愛に関しては素人以下だもの。
「あの二人、お互いに意識はしてるけど、どっちもこれ以上の関係は望んでないよ」
「そうなの?」
「うん。やってる事自体はもう完全に恋人なんだけどねー」
「仲いいよね」
休日二人で出かけてる事もあるって牧原さんも言ってたし。
「多分ね、あの二人好感度がカンストして今の関係なんだよ」
「え?何?」
「あれが一番仲いい状態って事」
「あぁ・・・なんかわかるかも」
仲の良さなら恋人以上だと思うし。
「あれならきっと、この関係を維持したまま、別の人と関係を持つか、それがなければ恋人すっとばして結婚してるかのどっちかだね」
「うえええ!?結婚!?」
「うん。そんなストーリーは何度も見てるし」
「ストーリー?」
「うん。そうだよ」
「もしかして、今まで鈴が言ってたあれこれの情報って・・・?」
「テレビとかネットとかゲームが主だよ。わたしそんなに恋愛経験豊富なわけじゃないし」
「そ、そう・・・」
やけに恋愛についてペラペラ喋ると思ったら・・・
日が傾きはじめ、ビーチの人も減ってきた頃、
わたし達も帰宅準備をしていた。
「あれ?入りきらない・・・」
「もっと収納術上げないと」
各々荷物をバッグに詰め込んでいると、
「なんかごめんね。せっかくの海だったのに・・・」
と朱音さん。
「でも、あれだって、私を楽しませてあげようとしたんでしょう?」
「目的はそうだったけどさ・・・でも結果的に・・・」
「確かに・・・最終的にはああなっちゃったけど、それでもうれしかったよ」
「でも、トラウマになっちゃたりしてない?」
「それは・・・その・・・」
しばらく海には近づけないかもしれない。
「ほらやっぱり・・・」
「で、でもっ!あんまり引きずられると、なんかこっちも悲しくなるしっ その・・・もう、この話は終わりにして欲しい、かな・・・」
ついうっかり、怒鳴るような語気になってしまった。
「お姉ちゃん・・・」
「ゆ、由依がそういうなら・・・もう、この話はおしまいにするよ」
「うん・・・おねがい」
この話題、誰も得しないと思うし。
私の初めての海は、こんな感じだった。
二度目があるかは・・・・・・わからない。




