第8話:栄光のマスコット
生徒会の仕事にも慣れてきた6月。
生徒会室に行くとそこには書記の江川 佳奈恵先輩しか居なかった。
「あ、六依さん」
「今日は先輩だけですか?」
「今のところね。まぁ活動開始時刻にはみんな集まってるんじゃないかしら」
今日は各部から貰った報告書の内容を共有し、今週分の課題点を纏める筈だ。
江川先輩は、何かの勉強をしているようだ。
3年生だから、受験に向けた勉強だろう。
でもそれ以外にとても気になることがひとつ。
江川先輩は、ペンとか、携帯電話とか、いろんなところに同じキャラクターのストラップを付けている。
結構可愛いし、正直なところ私も一つ欲しい。
それが何なのか、どこで売ってるのか、私は気になって仕方がなかった。
「ふぅ・・・」
先輩が一段落ついたのか、席を立ち、生徒会室に備え付けられてあるポットで紅茶を入れて戻ってくる。
今がチャンス!
「先輩。先輩が沢山つけてるそのストラップって何のキャラクターなんですか?なんでそんなにいっぱい付けてるんですか?」
「え?これ?・・・あ、そっか、六依さんは知らないよね」
生徒会のメンバーはいつの間にか私を取り巻く事情を皆知っていた。
多分、会長が私が居ない間に拡散してたのだろう。
そのおかげで、普通ならスルーされそうな、去年あたりの時事に関しても、
必要ならきちんと説明してくれるようになった。
「これね、一昨年の文化祭のマスコットキャラクターなの」
「文化祭の?」
かなり出来がいいし、
てっきりどこかのテーマパークやアニメのキャラクターだと思ってた。
「うん。一昨年の文化祭は、アミューズメントっていうテーマだったから、マスコットキャラクターも作ったんだよ」
「テーマ?」
まず、文化祭にテーマがあるって言うのも初耳だった。
「えっとね、ここでは毎年違ったテーマで文化祭を行うの。今年はまだ決めて無いけどね。テーマそのものは生徒会が決めるから、そろそろその話もあるかもね」
江川さんは優しい口調でそう言いながら、勉強道具を片付けていく。
「そんな決め事があったんですね。教えてくれてありがとうございます」
「どういたしまして・・・で、あれ?なんの話だったっけ?」
「えーっと・・・あ、あれです。マスコットのストラップの事です」
「あ、そうだったね、なんでいっぱい付けてるのか、だっけ?」
「はい」
よっぽどお気に入りだったのだろうか。
それともその文化祭に何か思い入れが・・・?
「このマスコットね、私がデザインしたの」
「本当ですか?」
「ええ、そうよ、私が一年生の頃。まだその時は生徒会役員じゃなかったわね。その時に、全生徒規模のマスコットデザインの募集があったの」
マスコットをプラプラ揺らしながら、江川さんは懐かしむような視線をそれに向けながら語る。
「で、それに応募して、投票の結果、私のこれが選ばれて、晴れて公式マスコットになったって訳」
「だからあんなにいっぱい付けてるんですね」
「まぁね。私のセンスが初めて他人に認められた証でもあるしね」
江川さんそういいながら、穏やかな目でマスコットと見つめ合っていた。
「私ね、こんな風に、いろんなデザインを考えて、応募するのが好きなの」
「・・・へぇ・・・」
「でも全然賞とかとれたことはないんだけどね」
表情はずっと穏やかなままだったけど、その声色は、いろいろな感情が入り混じっているように感じた。
「だからこの子は、私の、初めての栄光の証なの」
と江川さんは笑う。
「一度受賞したり成果を認められると、自信がついて挑戦への躊躇いが無くなったり、作品の質も上がったりして、あのあとも何度もいろんなコンクールに応募して、いくつか賞を貰ったりしたわ」
「すごいですね。ってことはやっぱり将来はデザイナーとかですか?」
「え?うーん・・・あくまでも趣味としてデザインはやってたから、仕事にはしないかなぁ」
今まで窓の外の空とマスコットを交互に眺めていた江川さんがこちらを見据えてくる。
「とにかく、何度失敗しても何度も挑戦してれば、いつか運よく成功するかもしれないし、そうすれば自信がついてうまくいくようになるから、何かうまくいかない時は、何度も挑戦してみる。私からのアドバイスね」
「はい。わかりました・・・絶対に、」
私は様々なハンデを抱えて今を生きている。今は大丈夫でも、
多分、いや、絶対この先私には挫折が訪れるだろう。
そんな時きっとこの言葉は役に立つだろう。
「覚えておきます」
「あの・・・これ、可愛いですよね」
「え?ああ、ありがとう」
「で、ですね、あの・・・・・・」
「もしかして、欲しい?」
「あっ・・・・・・はい・・・欲しい・・・です」
「じゃあ、一つあげよっか」
「いいんですか!?」
「うん。いっぱいあるしね」
「ありがとうございます!」




