第9話:ファースト・フォリオ
七割以上、ただの劇の説明になってしまった
チアリーディングの演技が終わり、
チア部の部員が舞台裏へと捌けていき、幕が降りてくる。
次の演目は、演劇部による演劇。
題目はシェイクスピアの名作「ロミオとジュリエット」。
どんなストーリーだったかは記憶には残っていないけど、
以前私も演じた事があるらしい。
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「いつもはオリジナルでシナリオを作ったりしていますが、今回は、あまり時間も長くは取れないので、皆さんでも分かりやすい、有名なお話を演じさせていただきます。まず、ロミオとジュリエットのあらすじですが」
部員と思わしき生徒が、これから行う演劇の説明を始める。
それは、敵対する家同士の娘と息子の悲しい愛の物語だと、
そう説明をしていた。
私は、何の役で出ていたんだろうか。
開演のブザーが鳴り、幕が上がり始める。
「遥か昔、ヴェローナという町に、キャピュレット家と、モンタギュー家という、二つの旧家がありました。その二つの家は、長い間、お互いにいがみ合っていました。」
ナレーションが、世界観の説明をする。
「しかし、キャピュレット家の娘、ジュリエットと、モンタギュー家の息子、ロミオはそうではありませんでした。二人は、お互いを愛していたのです」
もう、これだけで一筋縄ではいかないシナリオなんだとわかる。
私は親とは考えが離反することは無かったけれど、もしあのとき、思いがすれ違っていれば、今私はどうなっていたか、想像も出来ない。
「ああ、ロミオ様、わたくしは貴方に遭いたくてたまりません。でも、それはお父様が許してはくれない・・・わたくしは一体どうすればよいのでしょう・・・」
ジュリエットが、豪勢な部屋中で、嘆いている。
「ジュリエット!」
嘆くジュリエットの家の外、そこには家を抜け出してきたロミオの姿があった。
「ロミオ様!」
「ジュリエット!」
「ああ、ロミオ様、貴方は何故、ロミオ様なのでしょう・・・その名を捨て、家を捨て、私たちを縛るものが無くなれば、私たちは、一つになれるというのに・・・」
「それは・・・」
「ロミオ様・・・今ここで、お互いに、この名を捨てましょう・・・あなた様はロミオではなく、わたくしもジュリエットで無くなれば、この恋路を阻むものは無くなりましょう」
「わかりました。もしあなたが、私を恋人と呼んでくれるのならば、私はこのロミオと言う名を捨て、私はロミオではなくなります」
愛の為に、名前を捨て、家を捨てる。
それは愛の成せる業か、覚悟か、
未だ初恋すら知らない私には、恋がどのようなものかはわからない。
・・・いや、初恋は、一度あったかもしれない。私の知らないうちに始まっていた恋が。
それは、この青春と引き換えに、終わりを告げたけれど。
「そうして、ロミオとジュリエットは家に内緒で結婚式を挙げる事になります。・・・しかし、これで物語は終わりませんでした・・・」
その後、ロミオは争いに巻き込まれ、親友が殺されてしまい、それに怒ったロミオがキャピュレット側の人物を殺害してしまい、それが原因でロミオは家から追放されてしまう。
一方ジュリエットの方も、家から、別の男との結婚を命じられる。
そして、ロミオに遭いたいジュリエットは内通者と仮死の薬を使い、死んだと見せかけて、ロミオと再会する計画を立てるものの、家を追放されていたロミオにはうまく計画が伝わらず、
再開したロミオは、ジュリエットが本当に死んだと勘違いしてしまう。
「ああ、ジュリエット、どうして・・・あなたが居ない世界に、私は何を見出せばいいのか・・・こんな世界ならば、いっそ私もあなたの元へ・・・」
そうして、ロミオもその場で自殺してしまう。
しばらくののち、仮死状態から目覚めたジュリエットも・・・
「ロミオ様!ロミオ様!何故ロミオ様が・・・こんな筈では無かったのに・・・なればわたくしも、貴方と運命をともにいたしましょう」
ジュリエットも、ロミオを追い、その場で自殺してしまう。
「こうして、二人はお互いに言葉を交わせぬまま、天へと昇っていくのでした。その後、事の顛末を知った両家は、その後和解をいたすのですが、時すでに遅し、二人はすでに天の上」
ナレーターの言葉と共に、幕が下り、劇は終了する。
とても悲しい物語だった。
けれど、その役者たちは、皆、役に没頭していて、悲しい場面では悲しい感情を、嬉しい場面では嬉しい感情が出ていたけれど、みなやる気と達成感に満ち溢れていて、楽しそうだった。
「どう?お姉ちゃん、何か感じた?」
隣の鈴が聞いてくる
「なんていうか・・・楽しそうだった。」
「え?何で?悲劇だよコレ」
「あ、いやその、ストーリーはとっても悲しかったよ、だけど、演じてる人は皆役になりきってて、とっても楽しそうだったな・・・って」
「へー、やっぱり、元演劇部として、記憶じゃなくて魂が何か感じ取ったのかもね」
朱音さんはそういうけど、実際の所はわからない。
記憶は消えてても何かは残っているのかもしれない。
拍手が鳴り響く中、私は独りでそんなことを考えていた




