我らの雄叫び
「さて、皆退席した所だから説明を始めようか。そのままだと話しにくいからどこかに座ってくれ」
そう言って、右大臣のビンスが私の所に向かってくる。そして、手でそこにあるイスに座るように指示をしている。僕はその指示通り、固いイスに座った。
「よし、座ったようだね……君も知っていると思うが、相手は公に魔物である……そのため、魔法師は派遣できない。だから、君には公募から派遣したハンターと兵士をもともと君の部隊からみて10倍は派遣しよう」
10倍ということは、僕の部隊が精々20人位の部隊だったそれが200人になるのだそれくらいには本気なのだ。しかし、この期に及んで、恐らくはその魔物達の恐ろしさに気づいていないのだ。そのため、実際に魔法師の派遣もしないのであろう。
「ビンス様お言葉ですが……その戦力だと、確実に倒せるとは限らないと思うのですが……」
ビンスは、クマのある目をゆがませながら、続けた。
「そういうことは分かっているのだよ、ラディス君、君たちにやって欲しいのはこの国が魔物に屈していないとそう見せる必要があるのだよ……わかるかね?」
拳を見えないように握りしめる……どうやら僕たちは魔物に対する、当て馬らしい。そう考えると尚更、あの時なぜ逃がしてしまったのか後悔だけがつのる。
「それに、君はこの国、いや?世界でも、珍しい剣術の達人らしいではないだろうかそう、君の魔法では、その技量と魔法師とまでは行かないが、この国を守りたいと思っている「人間」、その量をもってすれば2体の魔物だろうと蹴散らすことなんてたやすいだろうよ」そう言って、右大臣は少し不機嫌そうな感じで私を見据える。その視線は冷たく、突き放すようである。
「僕に、出来るでしょうか?」
疑問が自然とできてしまった。
「出来るんじゃないやるんだよ、そう君はそこで唯一生き残った人間だ、誇りに持ちなさい。それに言った通り10倍の戦力だ分かるか?人間が「魔物」にそれぐらいすれば勝てるだろうそう君なら出来るのがわかるかね?」
ビンスに言われている何故だかそのように感じてきた、僕なら出来る。そう思うと背筋がピンと立ってくるのが分かる。
「よし、その様子だと、大丈夫そうだね、兵士達はもう手配してあるから大変だったんだよ?まぁそんなことはいいから分かったかね?ラディス君」
ビンスは僕に促すように続けた。
「分かりました、直ちに拝命させて頂きます」
僕は、頭を下げると、ビンスは嬉しそうに笑った。引きつった笑顔がなんとも痛々しく、これは僕にしか出来ないことだとそう、次こそは失敗できない。
「よし!わかったらあとで部下に顛末は教えるからそれの通り動いてください健闘を祈ります」
扉が開いた、ビンスのお抱えである侍従がやってきた。服はきっちりと仕立てられていて、やはり大臣の侍従動きも洗練されている。
「ラディス様、お疲れ様でした侍従のフリックです。志願するものが城下でもう集っております。そこまで、私と一緒に行っていただけますか?」
「もちろん」
そう言って、廊下を通っていく、城の侍従たちは仕事に戻っているようだ。城の玄関から出ると魔法師はもういない……そう皆は日常に戻ったみたいに。今から、僕は魔物を狩りに行くのに……
フリックは、馬車を止まっているところを無視した。
「馬車で行かないの?」
「ここから行くところは馬車で行くのは目立ちますので」
そこまで遠くへは行かないらしい。トコトコと2人の足音が響く、街の中には人の気配がほとんどない。風だけが吹き抜ける。立派な石畳が悲しく悲鳴を上げている。
「ここは、いつもこうなの?」
「いえ、魔物が我々の聖域を破壊したことによってから以降国王が国民には森がなくなったことを知られないために疫病が発生したということで家に閉じ込めています」
きれいな、おそらくガラスの中には僕も知らないような綺麗な服が悲しく飾られている。魔物がいなければこの街並みも変わっただろうか?僕はずっと師匠に連れられて郊外や魔物を狩るために片田舎に居ることはあるけどこんなところ初めてだった。それだけにこのすべてが止まったようなこの街を見るに堪えなかった。誰一人呼吸していない乾いた息の詰まった街だった。
「ここを左へ曲がります」
路地に入っていく、埃の臭いが立ち上ってきた。土埃が立ち上がり、影が伸びて行って苔が石畳の間から生えてきている。なぜだろうか石畳も少し湿っている。ここのほうが呼吸がしやすい息にはホコリが入ってくるけどそれでも息を吸っていい気がする。
「ここです」
先頭のフリックが足を止めた。そこには玄関は古びたドアで看板の文字はくすんで読めない。酒場だったんだろうかここでは玄関の前には樽が置いてある。酒場特有の香り付けに使われるクズ肉の脂が焼ける匂いがする。この匂いはいつかいでも臭い。この匂いが上手いと言って飲む奴もいるとか。
フリックが扉を開けると、大声や怒号や歓声が聞こえる。目に飛び込んでくるのは耳が裂けてるやつ、耳の縁がない奴いろいろ、これはほとんどは犯罪者であろう。犯罪者には見た目で分かるように耳に穴を空けて判別させる。そうやって、罪を犯したことを集団の目に辱めるのだ。人といっても、分かっていたことだがどうやら犯罪者たちらしい。こちらをみる視線はまるで獲物を見据えたようにも見える。
カウンターはなくて、本当に床も傷だらけで本当にこんな所があるのかというところだ。歩くたびに床が軋んでいく。
「これが、国から集めた兵士たちです多少粗暴な面はありますが」
そう言って、笑顔を見せた。その笑顔はゆがんで見えた。フリックの手から汗が鈍く光った。
「おい、お前たち!!!ラディス様がお見えになられたぞ」
「なんだこの仮面付きはぁ」奥の席に座った男だ粗暴な声が聞こえる。
「なんか、ひよっこいもやしみたいなやつだなぁ」
「もしかして……女か?」「いやそんなことはねぇだろうよ」
値踏みをするような視線も混ざる。彼らは僕をいや……おそらく、魔物よりも獰猛ではないだろうか。背中から汗が噴き出てくる……彼らを討ち取るのではない、勝ち取るのだ。
「ラディス様どうぞ」フリックは僕の肩を叩いて、その囚人いや、僕の仲間になる奴らだ。手を握る、タコと豆が触れて痛い。僕も弛んでいるな、ふふっそうだなそうだった彼らも緊張しているのだ。そうなのかそうか。
「ふふっ」
「何を笑ってやがる」「気持ち悪ぃ……」
しまった漏れてしまっていたか、そうか。見えてしまったか。
「いやぁ済まないね……僕はねこんななりをしているがそうだねぇこの国のために働いてるつもりだったがね騎士という奴さ」
「騎士ってなんだよ」「魔法師でもねぇのかよ」「弱いくせによぉ」好き勝手に喚いてる。やっぱりそうなのだ……コイツラもただ単に緊張しているいや、誰も信用していないだけなのだ。そうなら話は速い。
目の前の耳の縁が穴が空いているやつのコップを手に取った。そして、コップを下に向けた。クズ肉で匂い付けしたクズ麦のドブのような匂いが漂う。床の木も腐りそうだ。
「何しやがる」歯も空いていて、聞きにくい。
「まぁ聞いてくれ、こんな臭い酒を飲んで満足か?」
「それが良いんだよ」「オメェみたいな女みてぇな奴にはわからねぇだろうがな」怒号が広がる、それに粋がっては居るが彼らの目は不満が募っている。そりゃあ上手い酒が飲みたいはずだ。
「なぁ、君たちこれから行く魔物の集落はいやコブリンと言うがそいつらはコメという素晴らしいものがあるらしい、その酒は濁っていても匂いはその臭い酒なんて目じゃない、そう辛口でキリッとするんだそうだ」
彼らの目には少し興味が湧いてきたようだ。ゴクリ喉を鳴らす者もいる。
「君たち……この酒が好きなんじゃないのかい?」
「そうだ……」「もちろんさ……」
語尾に切れがなくなってきている、まぁそうさ日陰者にはこんなものしか飲めない。でもそうありもしない希望でもすがりたくなるそれが日陰者さ。
「でもよ?そんなもの俺たち飲めるのかい?テメェらで持っていくじゃねのか?」
コップからを酒を出された手前の奴が疑り深いような雰囲気でこちらを伺う。
「君たち忘れているが、僕たちが向かうのは魔物の場所だわかってるな?」
「そうだ」
「魔物だぞ?魔物だ、中央の奴がそんなもの表だって口にすると思うか?」
そう言うと、席に着いた奴ら全員首を傾げて、そして閃いたように笑みを浮かべる。
「それにね、そこにいるのは僕と君たちだけだわかるよねそれは?」
「ヒュー」口笛を吹くものまで現れた。これは行けるおそらく彼らは逃げ出す者も居るだろう、しかしそいつらでも頭数にはなる。
「それに……確かに君たちは耳に穴があいてたり裂けてたり、僕だったら仮面を被っている……そう所詮は日陰者さそれに……そのお目当ての目標を討ち取ればどうなると思う?そう一躍英雄さ、そうどうだこんなところでグズ酒を飲むばかりじゃなく魔物を討伐するというのは?」
……
「そいつはそそられるぜ」
全員の目が変わった。こいつらはやはり単純だ、太陽に当たりたいのだ、この湿った己を乾かすために。
「よし!君たち旨い酒を飲みたいか!!!」
「飲みてぇ!!!」
「英雄になりたいか!!!」
「なりてぇ!!!」
「魔物を討つぞ!!!」
怒号いや、日陰者たちの悲鳴が湿った木の床をとともに響いた。




