ラディス解放
目を瞑っているいろんな光が見えるようになってくる……そう、色んな色が……チカチカと見える。湿った風もそれに慣れた。
カタカタ……虫か、ネズミが湧いただろうか……それとも誰かが来ただろうか?
こんなところに、来るわけがない……いや、もしかして僕を監視してきてくれているのかも。いや、そんなことではダメだ。そんなことでは鍛錬にはならない。もう一度、丹田に力を入れて呼吸を整える。ギギっ、鉄の鎖が悲鳴をあげている。
「全くこんなところにラディス様入ってるのかよ。まぁ、生きてたらええけどなハッハー。全く、王室お抱えの……」
隣から、音がする……何かが近づいてくるようだ。あたりを見渡す……、当然どこにも光なんてものはない。剣は周りにある、僕の腕なら手が届くだろう。
「ありゃぁー酷いことやられているなぁ……隣は穴が空いちまってる。こんなところにラディス様を閉じ込めなくてもなぁ」
気の抜けた男の声が響く。
ギギ……ピカッ……目を一瞬瞑った、そうすると目の中が緑色に染まる。松明の明かりに照らされた……背格好からしてガッチリとした者が目の前にいた。
しかし、表情が見えない……僕とは違う仮面していた。仮面に描かれた涙がなんとも悲しそうだった。
「どうも、教会から来ました、ヘネシーと言います」
僕も、王国では一応顔を知っている方だと思うが、全くもってそんな名前は聞いたことがない。僕も多少は名のしれている者だと自覚しているのだが自然と身体が沈むのがわかる。相手の喉元を自然と見てしまう……あそこに突き立てれば、逃げれるだろうか?
「こらこら、ラディス様……まったく私は何もしませんよ、どうせやったら私がやられるだけですねん」
奇怪な口調で話す、こんな口調聞いたことがない。 その口調と裏腹に、隙がない。呼吸すら、乱れていない。
「そうなら、訳を聞いてみようか」平静を繕う、そうこんなことこいつにはバレバレであろう。
「あなた、今ここで何をやっているかわかりますか?」
目の前にいる男は、そう言って小首を傾げながら割り切ったことを聞いてきた。
「僕は、ここで魔物を倒すために鍛錬しているつもりさ」
歯が浮いたような言葉が自然と出てくる。言っている僕が恥ずかしい……
「まま、そういうことなら良いですねん。うーん」ヘネシーは腕を組みながら……何か唸っている。
「それで、ヘネシーというのだね、君ここに何をしにきたの?」
ヘネシーは、ポンと手を叩いた。
「それなら、話が速い、ラディス様先日、ここにいた魔物を取り逃がしたでしょ?まぁ、そこでね王様からお話があるそうですよ」仮面に陰りが見えたように見えた。
「王様が?」王様……今の僕になんの用であろうか?
「はい……王様が貴方に用がありますねん、いやぁまぁなんとなく貴方も気付いておられるかもしれませんが」仮面には、影ができて、まったくその表情は読めない。
行ってはいけない、そう剣が語りかけている……それでも行かなければならない……僕は神様と約束したのだから。
「さぁ、表に馬車を置いていますから」
ヘネシーというやつが手を差し出し来た。松明の明かりに照らされたその手が赤く見えた。手を差し出す、そうするとヘネシーが手をじっくりと握ってくる。なぜか、全身が乾いているのに、背中から冷や汗が流れてくる。
「へぇ、結構華奢ですなぁ」
「触るな」
「へへ、すんまへん」ヘネシーは、笑い声はするが、仮面でまったく見えない。
「ささ、急いでますんで行きましょ」
ヘネシーが鉄格子の引き戸を開くと、鉄が錆びた匂いが鼻をくすぐる。……足がすくむ、足が震える。ここは、もしかして……壁が荒れ、もう一つの部屋の壁の風穴が空いていた。それでもここは、見たことがあるそんな光景だ。
「ははっどうやら少し思い当たる節があるようですな……ラディス様」
ヘネシーは相変わらず、ふざけたように笑いながら話している。仮面が妖しく僕に笑いかけた。視界が真っ白になる。
「もしかして、貴様!!!」気づくと、ヘネシーというやつに首根っこに飛びかかった。
「ハハッ、アンタまだ気づいてなかったん?そうか、アンタ気を失ってて入るところは知らなかったからなぁ」
「まぁ、今のアンタが私に掴みかかっても私を殺すことは出来へんでー」
そう言いながら、僕の手首を押さえていた。その力は、強く僕の手首が悲鳴を上げている。ヘネシーというやつの呼吸は乱れていない。分がない……そうすると、僕はヘネシーの首根っこから手を離した。
「まぁ、安心しぃあの化け物の魔物がおったところはそこの隣の部屋やさかい」
そう言って、ヘネシーが指し示す。
「ほら見てみ、風穴が空いとるやろ報告聞いたらあれやけど」
そして、部屋を見てみると,鉄の扉が何者かによって綺麗に中心に穴が空けられている。そして、その隣にも、壁が裂けているまさしくこれはあいつの仕業だ。寒気がする、鳥肌が立つ、これができる奴を他には考えがつかない。
「これは、凄いね……」
「凄いでっしゃろ」
仮面が妖しく笑う……そして、ヘネシーは手ぐすねを引いている。
「さて、わかりましたでしょ?あなたも森の一件はわかったでしょ?とんでもないもん逃がしてるんですわ貴方しか、そこで生き残ったないのですねん」
確かにそうだ、僕はあそこで最後は僕も分からなかったけど……生き残ったんだ。
「そして、僕が逃がしたから……そうなのか」
ヘネシーは首をかしげている。
「そこも、あるけど貴方にも不思議な力があるのでは……と思われたのですな、そう例えば貴方が反旗翻すのではないかとか……」
拳を握りしめる……そんなはずはない、僕がそんなことをするなんて。
「いやいや、怒らんでええねん……まぁだいたいなぁ私の顔をみてみぃ仮面やろ同じもんや、そう、そういうことやわかるな」
そう言って、ヘネシーという奴が悲しく呟いた。
「そうなんですね……」
「まぁ、そういうコッチャ……アンタも仮面をもらったやろ教会にそれはな神との約束との他にそういうもんもあるんよ」
「……なるほど、これまでの失礼申し訳ない、あなたも苦労されてきたのですね」
そう言って、頭を下げる。
「いやいや、ええねん、ええねんそんなこと、まぁそんなこと普通はな仮面のモン同志はあったらいかんねん、まぁそれだけ切迫しとるんやろ」
そう聞くと、切迫感と同時に自分がしでかしたことの重大さをわかるだけで動悸がする。
「教えてありがとうございました」
「ええねん、ワイの話はええねん、ほら早く行くで」
そう言うと、ヘネシーは速歩きで歩いていく、僕はそれについていくだけで、精一杯だった。二人の足音だけが地下の薄暗いものを響いていいった。松明の暖かい、光が見えている、ようやく地上に出れたらしい。
「ほら、見えたでしょ?お乗りくださいラディス様、私の仕事はここまでです」
そう言って、ヘネシーは恭しく頭を下げ、どこかへ去っていった。
ヒュー風だけが通り抜ける……肌にしみる……初めて会った人だけど、剣を構えるような相手ではないと分かった。
黒の上着に蝶ネクタイを付けた、僕が、会ったこともないような上品な気品を備え、ヒゲは几帳面に整えられ、髪色は綺麗な金色ではないが髪も十分に蓄えられた壮年の男性と見えるようだ。端正な顔立ちだが、顔に刻み込まれていたシワは逆に怪しくその魅力を増している。何故か、目の縁は赤かった。執事長となるとそれだけ忙しいのだろうと思う。
「おまたせしました、王家直属の執事長のカウマンです」
そう言って、綺麗なお辞儀を見せた。身のこなしが洗練されている。自然と気圧されるようなそんな感じを感じる。
「私は、ラディスと申します、こちらこそよろしくお願いします」
「ささ、そんなことは良いのです、ラディス様お乗りください」
そうすると、背後に大きな馬車が3台あった。馬も、毛並みが整えられていて栄養状態も良いのだ。中は、綺麗な装飾がされていて絨毯の毛並みがキラキラと輝く。そして、馬車には珍しく窓がついていてそこには特殊な刺繍をしたカーテンが備え付けられていた。
そして、段差を登ると赤い色に綺麗なスギの木の刺繍がつけられた絨毯があって、壁の両側には黒い椅子があって座るところは、きれいな革細工で見るからに柔らかくて、今にでも座りたい。テーブルは石造りで付いていて、ランプの光を綺麗に照らしていた。切ってあって、黄色の身の部分が瑞々しく輝いて、そして赤い皮は綺麗に星の形をした細工が施されている。
「これって……」
ゴクリ……喉が自然と鳴ってしまう。よだれが溢れて来ている、水も飲んでいなかった。いっそのところ飛びついてかぶりつきたいぐらいだ。
「貴方様に王が特別にお出し致しました」
後ろから、カウマンの声が聞こえてくる。そんなことは、どうでもいい……乾いた唇を潤すにはもってこいだ。手を伸ばす……そこには銀のフォークがあってそれがきれいに輝いていた。
「ホッホ、誰もお取りになりませんよ、ラディス様、ささ、たーんとお食べください」
自然と銀色のフォークに手が伸びる。仮面を放り投げて、自由に食べたくなる……それでも唇を噛み締めて、仮面をいつも通り少し開ける……これは神様との約束だから。フォークがサクリとリンゴに刺さる。仮面の下の部分を上げて、口に、運ぶ……。シャク……シャク。喉の潤ってくる……それだけでもいい。
「さぁて、ラディス様、私めはほかの車にいますのでお一人でお楽しみください」
ゆっくりと扉が閉まった……心が高鳴る……そうこのリンゴを独り占めできるのだ。ゆっくり食べようとも、手が止まらない。美味しい、なんともいないみずみずしさが口のなかに駆け巡る。一つ、二つと消えていく。口が潤っていく……そうすると喉も唇も果実によって生き返っていく。体中に染みたる甘味が、体を引き起こす。
どんどん、リンゴだけが消えて、ずっと食べていられる……いやお腹が満たされない。皿の上には、もうリンゴはなかったそれでもまだ食べていたい……目を皿にして、探してみる……白くて、輝いている皿しか目につかなかった。息が荒くなっているのに、気がついた、もっと味わえばよかった。きらり……皿の中に雫が光った。
それを、気づけば指で拭き取ってしまった、指が綺麗にリンゴの汁で光った。
ふぅーと息を整える。辺りを首を振りながら見渡す、幸い誰もいなかった。
最後のリンゴの汁を思い切り飲み込むともうリンゴがないという悲壮感でもう少し味わって食べればよかったのかもしれないと思った。それでも、喉が潤ったそれだけでいいのかもしれない。まだ、お腹はずっと空いていて背中がひっつきそうだけれど、今はそれで。
まぶたがドンドンと重くなってくる……ずっと寝てなかった。呼吸がだんだん落ち着いてきている……
靴をゆっくりと脱いで椅子に横たわった。ふかふかの座椅子で心地良い。ここで寝てもいいのか?そんなことも考える。それでも……今はもういい、おやすみ。




